第16話「私たちはいつまでも、あなたを見守っているから」

 グラムの故郷の廃墟に、沈黙が支配していた。灰色の瓦礫が果てしなく続き、まるで時が止まったかのように静まり返っている。レオンたちは、その光景に言葉を失っていた。


 グラムだけが、一歩ずつ瓦礫をかき分けて進んでいく。その目は、遠くを見つめ、まるで過去の面影を追っているかのようだった。


「まさか、この廃墟の中に、時の狭間への入り口があるなんて……」


 アイリスが呟くと、グラムがゆっくりと頷いた。


「ああ……俺の両親は最期まで、俺を信じ、待っていてくれたんだ。そして、時の女神様に助けを求めたんだろう」


 グラムの話を聞きながら、レオンは思い出していた。数日前、一行は古代の神殿で「時の書」を見つけたのだ。そこには、時の女神が絶望の中にある者の願いを叶え、時の狭間に招くことがあると記されていた。


「きっとグラムの両親は、グラムとの再会を願って、時の狭間に迷い込んだんだ」


 レオンがそう言うと、エルも頷いた。


「そして、グラムがここへ帰ってくるのを、ずっと待っていたのね」


 エルの言葉に、グラムの目から静かに涙がこぼれた。


「父上……母上……俺、ここにいるぞ」


 グラムの言葉が、風に乗って廃墟に響く。


 その時、瓦礫の奥から、かすかな光が漏れた。


「あれは……!」


 レオンが叫ぶ。光は次第に強くなり、やがて一行を包み込んだ。


 目を開けると、そこは見たこともない不思議な空間だった。柔らかな光に包まれ、まるで時間そのものが止まっているかのようだ。


「ここが……時の狭間なのか?」


 アイリスが息を呑む。


 そして、その光の中から、二人の人影が現れた。


「グラム……よく帰ってきてくれた」


「私たちは、ずっと信じていたのよ。いつかあなたが、私たちに会いに来てくれると」


 グラムの両親が、優しく微笑んでいた。


 グラムは、言葉を失ったまま、二人に駆け寄った。


「父上、母上!」


 グラムは、両親を抱きしめた。時の狭間に迷い込んでいたとはいえ、再会を果たせたことが、グラムには何よりも嬉しかった。


 レオンたちは、感動の面持ちでその光景を見つめていた。


「グラム、あなたはよく生きてきてくれた。立派な戦士になって……」


 父親が、誇らしげに言う。


「もう大丈夫。私たちは、あなたの幸せを祈ることしかできないけれど……でも、私たちの愛は、いつもあなたとともにあるわ」


 母親が、優しく頬を撫でた。


 グラムは、涙を流しながら頷いた。


「ああ……俺は、この仲間たちと共に、新しい家族を作ったんだ。でも……」


 グラムは、レオンたちを振り返った。


「父上、母上。俺の家族を、紹介させてくれ」


 レオン、アイリス、エルが、そっと近づいてくる。


「みんな、俺の両親だ。そして……父上、母上。こいつらが、俺の大切な仲間で、家族なんだ」


 グラムの両親は、温かな目差しでレオンたちを見つめた。


「レオン、アイリス、エル。グラムを、これからもよろしく頼むね」


 父親が言うと、レオンは力強く頷いた。


「もちろんです。グラムは、俺たちになくてはならない存在です」


「私たちは皆、家族同然の絆で結ばれているんです」


 アイリスも、真摯な面持ちで告げた。


「グラムとの冒険は、私の人生そのもの。これからも、ずっと一緒です」


 エルの言葉に、グラムの両親は安堵の表情を浮かべた。


「そう言ってもらえて、本当に嬉しいわ」


 母親が、目元を拭う。


「グラム、あなたには、本当に良い仲間ができたのね」


 父親も、満足げに頷いた。


 グラムは、仲間たちに感謝の目を向けると、再び両親に向き直った。


「父上、母上。俺は、この仲間たちと共に、魔王を倒して世界に平和をもたらす。そして……」


 グラムは、レオンとアイリスを見つめた。


「レオンとアイリスが教えてくれたんだ。愛の力を信じることを。俺も、両親への愛を、この胸に刻み続けるよ」


 グラムの言葉に、両親は目を細めた。


「わかっている。あなたなら、必ずやり遂げてくれる」


「そして、いつか……あなたも、愛する人を見つけるのよ」


 母の言葉に、グラムは少し照れくさそうに頷いた。


 光が、再び一行を包み込む。


「さあ、行っておいで。私たちはいつまでも、あなたを見守っているから」


 父親の声が、優しく響いた。


「行ってらっしゃい、グラム。あなたの幸せを、心から祈っているわ」


 母親の声に、グラムは涙を浮かべて頷いた。


「ああ……行ってくるよ、父上、母上」


 時の狭間が、ゆっくりと光を失っていく。


 目を開けると、一行は再びグラムの故郷の廃墟に立っていた。


 しかし、そこには希望の灯火が灯っていた。


「さあ、行こう。俺たちを、世界が待っている」


 グラムの言葉に、レオンたちは力強く頷いた。


 廃墟に差し込む光が、一行の新たな旅路を照らし出していた。


 グラムの心には、両親への愛と、仲間たちとの絆が、確かに刻まれていた。


 それが、彼を突き動かす、新たな希望の力となったのだ。

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