第5話「エル、あなた見てたの!?」

 メルヘイムの中心にそびえ立つ大聖堂。その尖塔の上で、レオンとアイリスは夕陽を眺めていた。赤く染まる空を背景に、二人の姿が浮かび上がる。


「綺麗ね……」


 アイリスが呟く。レオンは頷いた。


「ああ。こんな景色を見られるのも、生きてるからだな」


 その言葉に、アイリスは複雑な表情を浮かべた。


「……ごめんなさい。昨日は、本当に迷惑をかけて」


「気にするな。俺だって、お前の気持ちを考えずに……すまなかった」


 二人の間に、柔らかな空気が流れる。


「そろそろ、時間か」


 レオンが懐中時計を確認する。アイリスは小さく頷いた。


「ええ……」


 二人はゆっくりと顔を近づける。目を閉じ、唇が触れ合う。


 ……。


 10秒が過ぎ、二人は離れた。しかし、その目には以前のような嫌悪感はない。代わりに、言葉にできない感情が浮かんでいた。


「あの、二人とも……」


 突然の声に、レオンとアイリスは飛び上がった。


 振り返ると、そこにはエル・ファリスが立っていた。彼女の顔は真っ赤で、目をきょろきょろさせている。


「エル、あなた見てたの!?」


 アイリスが叫ぶ。


「ご、ごめんなさい! 二人を探してたら、ここにいるって聞いて……でも、まさかこんな場面に遭遇するなんて!」


 エルは慌てて言い訳をする。レオンは顔を真っ赤にしながら、必死に状況を説明しようとする。


「い、いや、これには訳が……!」


「説明したほうがいいわ、レオン」


 アイリスが冷静な声で言う。


「エル、私たちには話があるの。聞いてくれる?」


 エルは困惑した表情を浮かべながらも、頷いた。


 そして、レオンとアイリスは魔王の呪いのこと、毎日のキスのこと、そしてここ最近の心境の変化について話し始めた。


 話を聞いたエルは、驚きと同情の表情を浮かべた。


「そんな大変なことが……。でも、二人の仲が良くなってきてるみたいで、私は嬉しいわ」


 エルの言葉に、レオンとアイリスは顔を見合わせた。確かに、以前のような敵対心は消えていた。代わりに、新しい感情が芽生え始めていた。


「これからどうするの?」


 エルの質問に、レオンが答えた。


「まずは魔王を倒す。そして、この呪いを解く。その後は……」


 彼はアイリスを見た。アイリスも彼を見返す。

 二人の目には、未来への希望が輝いていた。


「その後のことは、その時に考えるわ」


 アイリスがそう言うと、レオンは頷いた。


 夕陽が地平線に沈んでいく。新たな冒険の幕開けを告げるかのように、空が紫色に染まっていった。

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