第二話裏 涼太の話
あいつは何をやらせてもセンスがあった。
俺もあいつも音楽が好きで、アーティストのライブに一人で行った時に向こうも一人で来ていて、たまたま出会ったのがきっかけだった。
あいつは色んなアーティストのライブに行くのが趣味で、ところ構わずいろんな県を巡っていると言っていて興味が湧いた。俺も好きなアーティストはいるけど、さすがに全てを追いかけることはできないから、憧れの気持ちもあった。
それでほぼ強引にこの後飲みに行こうよ、と誘ってから、この関係は始まった。
ベースもドラムも、教えればすぐに習得した。
俺はドラムを叩くのが一番好きで、よくスタジオに練習しに行ったので、試しにと思ってあいつを連れて行ったんだ。
あいつはすぐにエイトビートを叩けたし、教えたフィルインも何なくこなした。
これ以上教えたら俺の尊厳が無くなるから、と言って教えるのをやめたらくすくす笑っていたっけ。
特にハマっていたのがギターだった。
難しそうだから、と避けていたようだがあいつに難しいものなんてあるのか?と思った。
あ、でもピアノはてんで駄目だったな。
ギターを教えてCメジャーを弾けた時の顔、今思い出しても笑える。あんなにキラキラした顔をされたら、誰でももっと教えたくなるだろう。
バレーコードを教えたら、数日でさくっと弾けるようになっていた。
思えば、ギターをやっている時がいちばんいい顔をしていたと思う。
金無いっていいながら、自分のギター買って、アンプも買ってたから、自分の好きなことには惜しまず金を使うタイプなんだなって思ったな。
「ギター、すげえハマってるじゃん。そんなに気に入った?」
「いろんな弾き方があって、いろんな音が鳴って。でも鳴らなかったら悔しくてもっとやりたいって思って。そう考えていると嫌な事を忘れられるから楽しいんだよ」
あいつにとって嫌な事ってなんだったんだろう。
野暮だと思って聞かなかったけど、あの時ちゃんと聞いておけばよかったな。
感染症が落ち着いて、あいつの出勤が元通りになってからは会う頻度が減った。
まあ減っただけで、会ってはいたけど。
会う度にころころといろんな表情を見せてくれるから、一緒にいて楽しかったし、良い時間を過ごせていたなと思う。
酒飲んだり、セッションしたり、笑わずに一日いたことなんて無かったな。
よくバカな話して笑い合ってたっけ。ほんといい関係だったな。
だから俺は、最後のあの日をずっと後悔してる。
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