第一話裏 美希の話
思えば、あの人はいつもニコニコしていた記憶がある。
同期で飲みに行った時、会社の良いところについて話をしていても、上司の愚痴を話していても、そうだよね、と笑って話している印象だった。
悪い人だとは思ってはいないが、いつも壁があると感じていた。
取ってつけたような笑顔。誰にも角を立てないような話ぶり。
そんなあの人を良い人だ、と言う人は多かったし、私も良い人だなと思ってた。
実際に社内で唯一あの人の悪口は聞いたことがなかったし、上司からも先輩からも「なんでも話を聞いてくれるから」と言って飲みに誘われていることが多かった。
その性格が災いしてか、直属の上司からは無理な仕事を押し付けられていることがほとんどだったと思う。
普通だったら嫌だなと思うことも、拒否せず受け入れていたみたい。
とある日の飲み会、あの人は体調が悪いから、と断って来なかった時、別のテーブルでは
「この会社でさ、恋人にするなら誰がいいと思う?」
と低俗な話題になっていた。
うちの会社は毎年新卒を雇っているため、若い人が多い。
「俺は美希ちゃんかなあ。かわいいし」
という声が聞こえ、少しニヤっとした。
そんな中で、
「自分はあの人かな」
という声が聞こえた途端、
「やっぱりそうだよね」「良い子だし顔も良いし」「自分もあの人がいい」
と言った声が多数聞こえた。
趣味の悪い会話だ、と思いながら聞き耳を立てている私も趣味が悪いかったな。
でももちろん、その意見には私もそうだろうな、と思った。
あの人のことを否定するところも嫌悪するところもない。
だけど、内心嫉妬していた。
そんなに人気者なのに、誰かに執着することもないし、好かれたいという欲も感じられない。
私は皆に好かれたいし、そのための外見磨きや立ち振る舞い、話し方を習得していると思っている。仕事だって、同期に負けないように勉強して、必死に食らいついている。
それなのに。
いつも主人公はあの人だ。
だから、正直あの人がいなくなったことを喜んでいる私がいた。
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