第6話 保守派

「だから、この仕様書じゃ無理だって。何がどうしたいのかさっぱりわからん」


俺はそう言って差し出された、仕様書をつっかえす。


「なんだよ“いい感じで”とか“何とかして“とか。聞いたことねえよそんな仕様書」


一応このプロジェクト内にも、女子のみのプロジェクトに入り込む異物にあまりいい感情を持ってない人間もいる。

その筆頭が目の前の、「交通」セクションのリーダー、倉内咲夜だ。


今のようにとんでもない仕様書を送りつけてきたり、無駄に煩雑なプログラムを書かせてきたり、大小様々な嫌がらせをしてくる。


「はあ?普通にあんたの裁量でどうにかなるところしか書いてないでしょ?下手に仕様をギッチギチにするより、遊びを持たせた方がいいでしょう?」

「に、してもやりすぎだ。この仕様書だと、シミュレーションの概要以外はほぼ俺が考えることになる。丸投げに近い」


倉内の持ち込んできた案件は、シミュレーションプログラムの開発。

別にそこに文句はないが、必要な変数などの重要なところが抜けている状態でプログラムを書けというのは無茶がある。


「へえ。ま、できないならいいわよ、できないならね」


俺はため息をつく。


「とりあえず、持ち帰って、もう少し練り上げてから依頼してきてくれ。他の案件は終わってる。ソースコードの修正も終わってるから、確認しておいてくれ」

「てかさ、あたしセクションリーダーで、あんたの先輩なんだけど?敬語くらい使えないわけ?」


敬語か……最初の頃は使っていたが、こういう扱いを受けるようになってからはやめてしまった。

単純にバカらしくなったのだ。


「使うべき相手には使う。それだけの話だ」


今はプロジェクトリーダーの神子戸先輩などの止める人間がいない。

また、スズは現在超集中モードで作業中である。

そのため、倉内はかなり強気に出てきているのだ。……と言うより、そういうタイミングを狙ってきたという方が正しいか。


「交通」セクションのメンバーを見ると、こちらをほとんど気にしていない。

まあ、「保守王国」とも称されることのある「交通」セクションのメンバーは、そんなものだ。


「とりあえず俺は作業あるんで、この話はこれで。何か不満があるなら、プロジェクトリーダー経由で頼む」


組織図としては、俺は神子戸先輩の直下にあたる。男一人で立場が弱い俺に配慮してくれているのだ。


「っち。さっさと残りの仕事終わらせなさいよ!」


倉内はそう捨て台詞を吐くと、元の場所に戻っていく。

俺はその後ろ姿に再度溜め息をついて、モニターに向き直るのであった。

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