第1話 デート

朝ごはんを食べ、こまごまとした家事をこなした後、俺は家を出た。


今日は久しぶりのデートだ。


最近は、どちらかがバイトがあったり、課題などの作業があったり、あるいは家でまったりしていたりして、なかなか二人で外出する機会がなかったのだ。


今日はたまたま2人の用事がない日が重なったため、デートに行くことができる。


俺は一人で待ち合わせの場所である喫茶店に向かう。


デートをするときはいつも、俺が先に出て、外で待ち合わせることにしているのだ。


スズ曰く、「その方が心踊る」し、また「女の子の身支度は鶴の恩返し」らしい。


俺は目当ての喫茶店に入り、コーヒーを注文した後、文庫本を開く。土曜日といえど、朝早いのでガラガラだ。


文庫本を一冊、ちょうど読み終わったあたりで、「アキ」と俺を呼ぶ声がする。


振り返ると、そこにはいつもとは違う雰囲気のスズが立っていた。


爽やかな水色の花柄のワンピースに、茶色のローファー。ウエストをローファーと同じ茶色のビット・ベルトで軽く絞り、ラインを魅せている。


耳には、今年の4月の誕生日に少し背伸びしてプレゼントしたイヤリングが輝いている。

普段はあまり装身具をつけないスズだが、デートの時はつけてくれるのだ。


ファッションの清楚感が、色っぽいメイクと合わさり、魔性とも言える雰囲気を醸し出している。


「待たせたわ」


思わず見惚れる俺に、スズが再び声をかける。俺はそれに慌てて我に帰り、スズに返答する。


「いや。それじゃあ、行こっか」

「ええ」


俺は荷物をまとめ、席を立つ。そして、無人レジで会計を済ませた。


店を出ると、俺たちはどちらからともなく手を繋いで歩く。


「今日も綺麗だよ、スズ」

「もう」


遅ればせながらそう言うと、スズが頬を軽く紅に染める。その表情もとても綺麗だった。


スズは意趣返しとばかりに、俺の耳元に顔を近づけて囁く。


「あなたも、今日もかっこいいわよ」

「…………」


自分がどんな顔をしているかは確認できない。しかし、優しく微笑むスズから、俺は自分の表情を察するのであった。


今日のデートの場所は、ショッピングモール内にある映画館だ。ちなみに、二人の初デートの場所でもある。


今日見るのは、新作SF映画だ。


実はスズは、SFが大好物だ。工学科に入ったのも、いつかSF的な物を自分で作り出したいという野望あってのものである。


今回の映画は、宣伝にもかなり力が入っているので、期待が持てる。


ポップコーンと飲み物を購入して中に入ると、朝の早い時間だというのにそこそこ人が入っていた。

やはり人気があるようだ。


俺とスズは、中央あたりの席に腰をおろす。程なくして、映画が始まった。

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