第6話 美術室
それから一週間ほどたった。
俺は毎日羽川と一緒に屋上で弁当を食べていた。
少し噂がたったものの、三日にすれば落ち着いた。スクールカーストが下の人間の恋愛になど、誰も興味がないようだ。
そして昼休み。俺がトイレに行くために少し席を離れた隙に、羽川は姿を消していた。
チラリとカバンを見ると、お弁当が取り出された形跡がある。
「なあ」
俺は前の席に座る女子に声をかける。
「羽川がどこへ行ったか知らないか?」
「羽川さん?……えっと」
女子は少し迷惑そうに、周囲を見る。
「……二峰さんたちのグループが連れて行ったよ」
「そうか。どこにいるか分かるか?」
「多分、美術室じゃないかな」
美術室は四階の角にある部屋だ。美術の授業は全学年月曜日か火曜日にしかないので、そのほかの日はほとんど誰もいない。
ただ、部活動のために教室だけは解放されているので、昼食の場所として使うことも確かに可能だ。
「……まさか、乗り込む気?」
俺はそれに返事をせずに、情報提供に対する礼を述べて教室を後にする。
目指すはもちろん、美術室だ。
美術室に近づくと、下品な笑い声が聞こえてくる。俺はそれを疎ましく思いながら、中を覗く。
そこには、二峰をはじめとするスクールカースト上位の面々と、そして羽川の姿があった。
「おら、脱げよ!ヌードモデルくらい、できんだろ?」
「脱ーげ、脱ーげ!」
羽川を囲み、そう囃し立てる二峰。羽川は諦めたような表情で、それにじっと耐えていた。
俺がどうしようかと美術室の外で右往左往している間に、さらに行為はエスカレートしていく。
「あんたにはこれがお似合いだよ」
そう言って二峰はそばにあった筆をつかみ、びちゃりと羽川の制服を汚す。
「ビッチ」「ゴミ」……よく見ると、暴言が書かれている。
それをみて、さらに二峰たちのグループは笑った。
「羽川」
俺は最早それを見てられず、美術室の扉を開け放つ。力がこもったのか、ばあんという恐ろしい音がたった。
「…………久留米くん」
「あーあ、見られちゃったね〜」
ニヤニヤと笑う二峰を無視して、俺は羽川の手を取る。
「く、久留米くん!?」
「行こう、羽川」
俺は半ば強引に羽川を回収し、保健室へと向かう。
エキセントリックな模様が制服に描かれている羽川と、そんな彼女の手を引く俺に注目が集まりが、気にしてはいられない。
保健室では、保健委員と思われる少女二人と養護教諭が談笑していた。
擁護教諭は羽川の姿に目を留めると、すっと目を細める。
「二人とも、また明日いらっしゃい」
「う、うん」
「わかった……」
保健委員の二人は、そう言って教室を出ていく。
「さて……」
養護教諭は立ち上がった。
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