第5話 屋上
翌日の昼。俺は四時間目の授業が終わると、羽川と共に教室を出た。
目指すはもちろん、屋上だ。
時折、好奇の視線に晒されるものの、羽川は時に気にすることなく俺の後ろをちょこちょことついてくる。
昼休みが始まる少し前に、授業のない先生が屋上を開けてくれている。
俺たちは階段を上り、屋上へと辿ついた。
「わあっ」
羽川が感嘆の声を上げる。
「なかなかいい景色だろ?」
屋上から見える景色は、四階の窓から見える景色とそんなに変わらない。
しかし、視界に遮るものがないだけで、開放感が段違いだ。
「うん」
俺は持ってきたビニールシートをいつもの定位置に広げる。
有志の使用者によって毎日掃き清められているとはいえ、直接腰を下ろすのは気が引ける。
そこで、このアイテムである。
ちなみに、この前のように雨が降っている時は、屋上の前の踊り場––––通称、第二の屋上––––で、同じようにビニールシートを広げて食べることにしている。
「さ、食べよう」
俺は母親が朝から作ってくれたお弁当を広げる。羽川も、自分のお弁当を広げる。
羽川のお弁当の中には、唐揚げにミニトマト、アスパラガスに白米。そしてデザートにはこんにゃくゼリーという組み合わせだった。
栄養バランスが考えられた、愛の感じるお弁当だ。
「美味そうだな」
「……ん。一個食べる?」
そう言って、ひょいっとアスパラを箸で掴んで持ち上げる羽川。
そういう時は普通、唐揚げを持ち上げるもんじゃないのか?
俺はそう思ったが、代わりに別の質問をする。
「……苦手なのか?」
「……うーん、そういうわけじゃないけど、少し食感がイヤかな」
羽川はそういうと、パクリとアスパラガスを食べる。
しばし無言でお弁当を食べ、俺は「ご馳走様でした」と手を合わせて弁当を片付ける。
意外と食べるのが速い羽川は、俺より先に食べ終わり、屋上を囲む金属製の柵に手をついてぼーっと学校の外を眺めていた。
「羽川?」
ともすればどこかへ飛び去ってしまいそうな儚さに、俺は思わず彼女の名を呼ぶ。
「……ん?」
羽川が振り向く。メガネ越しに、羽川と目が合う。
しばし見つめあったあと、俺はゆっくりと首を横に振った。
「…………いや、なんでもない」
「うん」
羽川は再び外の景色を眺める。
俺はポケットから文庫本を取り出して、読み始める。
六月の生温い風が吹くなか、残りの昼休みの時間を俺たちはまったりと過ごすのであった。
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