第7話 保健室

「ひとまず制服はこっちで洗うわ。そこの中で着替えてらっしゃい。まだ先生には連絡しないから、安心して」

「は、はい」


養護教諭……藍沢先生はてきぱきとそう指示すると、部屋中のカーテンを閉めて中が見えないようにする。


「それで……ええと」

「二年一組の久留米です。今そこにいるのが、同級生の羽川」

「そう。それで……何があったのかしら?」


俺は藍沢先生に、美術室で見たことを説明する。


藍沢先生はノートにさらさらと俺の話をメモする。

と、着替えていた羽川が出てくる。


「当該児童生徒が、一定の人間関係のある者から、心理的、物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの……これが、文部科学省の定めるイジメの定義よ。今あなたが受けている行為は明らかにこれにあたる。私は一教諭として、動かなくてはならないわ」

「…………」

「そこであなたに聞くわ。貴方は、どうして欲しい?」


藍沢先生は、羽川にそう問いを発する。


「私は……その」

「うん」

「親には、連絡しないで欲しい……です。あと、物事をあまり大きくしないで欲しいです……」

「そう」


養護教諭は、じっと考えるようにメモを見る。


「……なら、そういうふうに校長先生に報告しておくわ。ただし」

「……はい」

「これ以上事態が深刻化したら、大きな対応せざるを得ないわ。あなたも、嫌なことをされそうになったらしっかりと拒むこと。いいわね?」


羽川はこくりとうなずく。


……俺は馬鹿だ。


羽川はずっと、俺に対してSOSを発していた。状況を考えれば、羽川の置かれている状況に気がつくことができたはずだ。


「……くん、久留米くん」

「…………羽川」


一人自己嫌悪に陥っていると、くいくいと俺の袖を羽川が引く。


「一緒に教室、戻ろう?」

「いいのか?」

「うん」

「……分かった」


俺は羽川の手をぎゅっと握りしめる。

羽川は少し驚いていたが、振り払うようなことはしなかった。


「制服は洗濯して乾燥機にかけるわ。放課後には乾くだろうから、そのつもりでね」

「ありがとうございます」


羽川は藍沢先生にお礼を言うと、俺たちは扉を開けて保健室を出た。

手は、ぎゅっと繋がれたままだった。

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