第3話 厨二病
放課後。特にやることもない俺は、家に帰ってきていた。
高校二年生の姉は部活で忙しく、また両親は共働きのため家には誰もいない。
「ただいまー」
一応義務としてそう行ってから、俺は2階にある自分の部屋へと向かう。
「……天気もいいし……行くか」
俺は制服から私服ヘと着替え、文庫本を数冊小さめのカバンに放り込む。
家の鍵をしっかりと閉めてから、傘をさしつつ、近くにある大きな公園へと歩く。
雨は降ってはいるが、暴風雨というわけではない。梅雨前線による、穏やかな雨だ。
公園につくと、俺はなだらかな丘を上り、丘の頂上にある東屋––––壁や扉のない、屋根と柱のみで構成された建物––––を目指す。
少し遠いものの、普段運動していない俺にとってはいい運動である。
そこにある金属のベンチを軽くハンカチで拭ってから腰をおろし、カバンからごそごそと小説を取り出して開く。
ぱらぱらぱらという雨粒が東屋の屋根を叩く音をBGMにしばし本を読んでいると、不意にばしゃばしゃとアスファルトの水を切る音がBGMに加わる。
顔をあげると、見覚えのある少女……羽川陽毬が東屋に入ってきていた。
落ち着いた色のワンピースに、少し肌寒いからか赤色のカーディガンを合わせている。
見慣れている制服姿とは違う私服姿に、俺は少し目を奪われてしまう。
俺は読んでいた小説を閉じて、陽毬に挨拶をする。
「……奇遇だな」
「ふ、ふふっ……奇遇だなって……あはは!」
挨拶をすると、なぜか爆笑しだす少女……羽川陽毬。
「……何が可笑しい?」
「奇遇だなって、今の時代使う人なんて……いるんだなって……」
俺はそっぽを向く。
確かに、偶然会ったクラスメートに対する挨拶としては、ちょっと気取りすぎだったかもしれない。
だんだん顔が熱くなってくるのを感じる。
「あ、もしかして今のおかしいって、漢字を思い浮かべてたでしょ!?」
「…………」
尚も追撃をかける羽川に、俺は沈黙を返す他なかった。
それを見て再び笑い出す羽川。
東屋にはしばらく、少女の笑いが声がこだまするのであった。
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