第2話 スクールカースト

しかし、お昼休みが終わるまで、羽川は来なかった。

羽川は、約束––––約束という表現が正しいのかは少し議論の余地があるかもしれない––––を違えるような人間ではない。


俺は首を傾げつつ、教室へ戻る。


「……久留米くん」


すると、いつもの席に、少し気まずそうに俯く羽川の姿があった。


「えっと……ごめんね、行けなくて」

「別に構わないけど……」


と、そこで俺は、羽川の姿が制服から体操服に変わっていることに気がついた。

今日の時間割に、体育の授業はなかったはず。着替える必要性はあまりない。


「……どうして着替えてるんだ?」

「え?えーっと……」


羽川は目を泳がせる。

それを見て、俺は慌てて首を振った。


「いや、答えなくていい。すまん、デリカシーがなかった」


俺はそういって話を打ち切り、席に腰を下ろす。おそらく、服に血がついてしまったのだろう。

と、俺は、こちらをニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべて見る集団に気がついた。


いわゆるクラスカーストで上位の女子たちだ。


これは俺の持論だが、クラスカーストはどんなクラスでも以下のように形成される。


まずカーストトップ。ここで重視されるのは、コミュ力と容姿……つまり、モテているか否かである。異性だけではなく、同性にもモテている者。それこそがカーストトップだ。


そしてその下……名付けてミドル階級は、運動部の中心メンバーが配置される。運動部は日頃から運動をしている以上、体のスペックが高い。つまり、声が大きく力が強い。ただそれだけのことだが、中学生にとってはそれが大きな戦闘力の差を生む。


そしてさらにその下、名付けてロウアー階級には、運動部の非中心メンバー及ぼす文化部が配置される。羽川は文化部所属のため、ここだ。


そしてその下に、部活に入っていない人間や、入っていてもコミュニケーション能力がない人間、そして何らかの原因でコミュニティから排斥される類の人間が集まる。ちなみに俺はここだ。


ちなみに、カーストの外の人間もごく稀に存在する。ここに属するのは簡単で、「周りから一目置かれること」である。このクラスには、残念ながら存在しない。


出身小学校や、女子/男子など、いろいろなグループはあるものの、基本はこの5つのグループに大別される。

上から順番にあらゆる物事への発言力が強い。

また、上の人間は下の人間を自覚の有無に関わらず見下している。


今俺たちをニヤニヤとした気持ち悪い顔で見ているのは上から二番目。そして俺と羽川は四番目と三番目……


俺はまさかな、と思いつつも悪い予感を拭いきれなかった。

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