第9話 クアルト
「彼女さん……すごい美人だったね」
「……まあな」
ちょっと気まずい空気の中、陽毬がそう口火を切った。
スズはちょっと見ないレベルの美人だ。何度か街で芸能事務所からスカウトにあったこともあるらしい。
「胸もおっきいし……」
「…………」
陽毬の胸も、別に小さいわけではないが……特段大きいわけでもない。
標準サイズといったところだ。
対するスズは、かなり大きい。本人は視線が気になるので嫌だと言っていたが。
「ひょっとして、おっきい方が好きだった?」
陽毬は自身の胸に手を当てる。
「……いや、そんなことは……えっと」
「…………」
「うーんと……」
しどろもどろに答える俺に、陽毬の冷めた視線が突き刺さる。
「えーっと……まあ、結局はバランスじゃないか?」
「ふーん……」
なんだろう。なんだか理不尽に陽毬の中の俺への評価が数段階下げられた気がする。
「……まあ、いいけどね。……ていうか胸に限らず、めちゃくちゃスタイルいいよね。あんな服、私じゃ着こなせる気しないよ」
「……そうなのか?」
「うん。スタイルに自信がないと、どうしても体のラインを隠しちゃうから」
「へえ……」
スズの服選びにはよく付き合っているものの、俺はそこまで女性のファッションには詳しくない。
とはいえ、言われてみればスズの服のコレクションは結構体のラインを見せる服が多いような気がする。
「……それより」
「うん?」
「サークルに入ってくれるとは思わなかったな」
「スズがいいって言ってたから」
「へえ……」
陽毬が少しほっぺを膨らませ、面白くなさそうな表情になる。
「……そうだ。二人が来るまで、ボードゲームしてようよ」
「ああ、いいぞ」
そう言うと、陽毬は棚から一つのボードゲームを取り出し、机の上に展開する。
「クアルト……フランス発祥の、知育ボードゲームだよ」
「聞いたことがあるな」
「うん。ルールは単純で、四目並べ。コマの色、高さ、穴のあるなしで揃えて、クアルト!って宣言するだけ。宣言しないと無効だから注意してね。時間制限とか変則ルールは……いっか」
そういうと、陽毬は駒をバラバラと机に出す。
「このゲーム最大の特徴は、相手の置くコマを自分が指定できること、だよ。後攻がいい?先攻がいい?」
「先攻で」
大体こういうゲームは先行有利と相場が決まっている。
「ふふ。じゃあ、始めよっか」
陽毬はそういうと、今まで見たことがないような好戦的な表情を浮かべた。
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