第8話 みーちゃん

今日の授業は昼休みを跨いだ一二限接続型の授業だけである。


二限の鐘が鳴ってしばらくすると、ガラリと扉が開き、一人の小柄な女の子が姿を表す。

おかっぱで、目が隠れるほどに長い前髪。落ち着いた色調の服。陰気な雰囲気を漂わせた少女だ。


その人物はこちらに目を向けると、ぱあっと顔を輝かせてこちらへとたとたと駆けてくる。


「ヒロくん!お弁当作ってきたよ!一緒に食べよ!」


そういってヒロの筋骨隆々の腕に抱きつく。

何を隠そう、この陰気な少女然とした女の子が、ヒロを金髪ピアスのチャラい見た目に変えた張本人だ。

名前は飯島美奈。理学部の二年生だ。


「いつもありがとう、みーちゃん」

「むふーー」


ヒロは愛しい恋人の頭をなでる。飯島はそれにご満悦だった。


金髪ピアスの筋骨隆々の男と、小柄なおかっぱ少女がイチャイチャしている絵面は、なんというか少しアンモラルな物を感じさせるが、気にしてはいけない。


俺は席を立ち、こっそりその場を後にする。と、それに気づいた大河が声をかけてくる。


「またな」

「おう」


俺は手を軽く振る。


向かう先は学食だ。

理系ラーメンという怪しげな(ちなみに値段は500円)メニューで昼食を済ませ、サークル棟の一角へと向かう。


実は、この学校のサークル棟は二つある。


一つは、主に体育系のサークルが使う正式名称サークル棟A。用具の保管や、着替えなどの利用されている。


俺は一度だけ入ったことがあるが……サークル棟Aは制汗剤や香水、汗の匂い等々が入り混じった匂いに満ちていて、早々に退散してしまった。

以降、サークル棟Aには近づいてすらない。


そして俺が今いるのが、サークル棟B。主に文化系のサークルが使っている建物だ。

年がら年中練習している吹奏楽部と管弦楽部の練習の音がbgmである。

建物自体はかなり古く、また内部もかなり散らかっている。

基盤やら十数年前の看板やら、ゴミと宝の中間のようなものがあちらこちらに転がっている。


指定された410号室の扉をノックし、ドアノブを開く。

部室は、壁の全面に棚があり、中央に少し大きめの机がある、といった間取りだった。机は脚が短く、床に胡座で座ってちょうどいい感じだ。


「あ……明樹くん」


中で一人、本を呼んでいた陽毬が顔を上げ、小さく手を振る。


「お邪魔します」

「うん。どこでも好きな場所座って。クッションはそこにあるから」


陽毬はそう言って棚の一つを指さす。そこには、色とりどりのクッションがコレクションされていた。

俺は靴を脱いで畳の上に上がり、そのうちのキャラものを引っ張り出して、陽毬の対面に腰を下ろした。

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