第5話 朝ごはん

朝五時。

俺は目が覚めた。いつもよりかなり遅い目覚め……理由はお察しだ。


「さて、と」


俺はスヤスヤと心地良さそうに眠るスズを起こさないように気をつけながら、そっとベッドから抜け出る。


お風呂へと向かい、昨日の情事の後を洗い流し、身なりを整えた俺はキッチンへと向かう。


スズとの同棲生活を始めたのは、付き合ってから一ヶ月ほどたった頃……去年の八月くらいだ。


互いのそれまでの生活環境が違う以上、最初こそ喧嘩が絶えなかった。

“同棲”がカップルにとって試練である……というのは、間違いではなかったようだ。


しかし、一ヶ月もすれば喧嘩も落ち着いて、以降は特に喧嘩が起こることもなく、二人で暮らしている。


二年生への進級を期に、それまでのそれぞれの家を引き払い(今では考えられないが、一人暮らし用の家に二人で暮らしていた)、3LDKの少し広めの家に今は住んでいる。

家賃は総合的に下がったので、いい選択と言えるだろう。


「……おはよ」


と、ちょうど下ごしらえが終わったところで、スズが寝室から出て、そのまま洗面所へと向かっていく。

俺のパジャマを軽く羽織っただけの、かなりの薄着で、手には昨日脱ぎ捨てた二人分の衣服がある。


スズが洗面所にいる間に、俺は家中の換気と掃除を済ませてしまう。


特に、寝室はアルコール除菌を駆使して、拭き掃除を念入りに行う。

これを怠ると、今日寝るときに少し嫌な思いをする羽目になる……もちろん、体験談だ。


ともかく、掃除が終わった俺は朝食の調理に入る。

スズは普段はあまりメイクに時間をかけないタイプのため、シャワーを浴びる時間も含めて、大体25分もすれば身支度が終わる。


それを目安に準備を続けていると、長度トーストが焼け、ベーコンエッグが完成したあたりでスズが洗面所から出てきた。


「いい匂いがするわね」

「だろ?」


俺は少し得意げな気持ちになりつつ、ちゃぶ台に配膳を行う。


「「いただきます」」


二人で手を合わせ、朝食を食べる。


「ああ、そういえば」

「どうかしたかしら?」

「あのあと、陽毬……あーいや、羽川の友人のアイリーンってやつに会ってな」

「別に陽毬でいいわよ。昔からそう呼んでるんでしょう?」

「……まあそれはそうだが」


一応、付き合っていたことだし。なんなら校内で一番のラブラブカップルとして知られていたくらいだし。


「えーっと、それで、ボードゲーム研究会ってやつに誘われたんだが……」

「へえ。入るの?」

「スズが一緒なら、と返答してある」

「……そう」


スズはなぜか若干呆れたような視線を向けてくる。


「ちなみに、その研究会、実質的な部員は何人いるのかしら?」

「実質的な部員はアイリーンと陽毬だけっぽいな」

「へえ……」


スズはトーストをかじる。


「あなたはそれでいいのかしら?」

「…………?何がだ?」

「……いえ、いいわ」


元カノと今カノが居合わせる空間って気まずくないのかしら……というスズのつぶやきは、俺の耳に届かなかった。


「……そうね。ボードゲームは私も興味がないわけではないし……いいんじゃないかしら?」

「そうか、それじゃあ承諾の返事をしておく」


そんなわけで、俺はスズと二人でボードゲーム研究会に入ることになった。

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