第4話 長い夜

「……おかえり。いつ帰ってきた?」

「一時間半くらい前かしらね。相変わらず、集中すると周りが見えなくなるんだから……」


慈愛のこもった表情でそう言うスズ。

視線をそらすように時計を見ると、いつのまにか六時を回っていた。


「飯にするか」

「そうね」


俺は立ち上がり、夕食の準備に取り掛かる。


ちなみに、我が家の家事の分担は、“衣”がスズの、“食”が俺の、“住”はその時々で忙しくない方……ということになっている。


例え恋人であっても……というより、恋人であるからこそ自分の洗濯物には手を触れて欲しくない、というスズの主張によりそんな分担になっている。


本日の献立は、肉野菜炒めだ。簡単に作れて、それでいて味付けに変化も起こしやすい。

大体我が家に三日に一度は並ぶメニューだ……もちろん、味は変えているが。


あらかじめ炊いておいた白飯、味噌汁、そしてパックのもずくをセットしたら、料理完了である。


「出来たぞー」


そう呼びかけると、とたとたとスズがやってくる。二人で食の恵みに感謝しつつ、夕食を食べる。おいしそうに食べるスズに、俺は満足感を覚える。


食事を済ませたら、もうお風呂に入って寝る時間だ。一般的にはかなり早いが、その代わり起きる時間も早い。

それこそ大体朝の三時半、もしくは四時には起きている。


珍しく先に風呂に入り、ベッドでうとうととしていると、のそりとスズがベッドに潜り込んできた。


「……元カノがいるとは、知らなかったわね」


スズのセリフに、俺の眠気が吹っ飛ぶ。なぜか必要もないのに俺の背筋がピンと伸びる。


「えっと……まあ、言う機会もなかったからな……」

「そう。それで、どこまで行ったのかしら?」

「……はい?」


そこまで、とは?

俺は首をかしげつつ、スズの言葉の意味を探る。

スズは焦らさないで、とでもいうように続けて言った。


「つまり、セックスはしたのかしら?」

「セッ……!」


俺は思わず絶句してしまう。


「……で?」

「えっと……キスまでです……」


後に嘘がバレた時にどんな目に会うかわからないので、俺は正直に答える。


「そ。つまり、アキの童貞は私のものだった、というわけね?」

「ああ、うん……」


スズは少し嬉しそうだった。

童貞にそこまでの価値があるのかはよくわからないが……


「好きな子の初めてが欲しいのは、女の子だって同じよ」


そういうと、スズは俺の布団を剥いで、馬乗りになってくる。

ほとんどシースルーの煽情的なネグリジェを身につけているスズ。

綺麗な肌と、そして俺の好みにドストライクな、上下セットのグリーンの下着を晒している。


下着は見覚えがない。おそらく、今日買ってきたものだろう。


「あの……明日学校……むぐっ」


五月蝿い口はこうしてやる、とでも言うかのように、スズは俺の唇を己のそれで塞ぐ。

ただ重ねるだけのキスは、すぐに情熱的なそれへと変化していく。


どうやら、今日の夜は長くなりそうだ。

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