第74話 麻井延彦 3
3
『みんな!聴いているか!?俺の声が聴こえているか!?』
洋二はこの台詞を3回云っている。
要塞ホテルの最上階。
11個のエンマコンマの首が安置されている。
『誰だ?』
『鮎川洋二、エンマコンマだ』
『我が名は神無月。もうみんな話したくないとよ』
『じゃあ、神無月さん!あなたは話を聴いてくれ!エンマコンマのボディと今皆がいるコクピットボールを繋げ直す計画がある。足りなくなったパーツは現在エンマコンマのボディを分析してレプリカを作れるようにしている。又普通に歩いて、外へ行けるようになるんだ!』
『そう、それを我たちも望んでいた。だが遅かった。このようになってから約三か月。意識があるが動けず、眠りすらなくなった。最初のうちはサブスクで映画とかアニメ観てヒマつぶししていたが、それも面倒になった。つまりみんな発狂直前なんだ。もう生きがいや希望などない。いっそう殺して欲しい』
神無月と話している背後に残留思念のような意識を感じる。
他のエンマコンマの感情であろう。
『いや!みんな!未だやれる!この選挙に麻井藍という俺の同級生が勝てば、世代限定通貨ムーチャスという制度を制定して、医療業界にコネクションを持ち、エンマコンマの技術をこの世に広める。その技術と報酬で、俺たちをこの姿にした諸悪の根源・プロビデンスを打倒する!』
『もうちょっとそういうことを早く始めてもらいたかったよ』
これは神無月でなく、澤洋保子。
『遅かったかもしれないが、やらないよりはマシだよ』
洋二としたら、皆が三か月監禁され、精神と神経を病んでいる中に神無月に続き、保子まで出張ってくるのはチャンスだと思った。
「みんなでネット選挙投票のためのサーバーになってもらいたいんだ!もう投票は始まっている!又世界を実際に歩くために協力して欲しい』
『イヤだ(イヤだ)』
『イヤだ(イヤだ)』
2回しか繰り返さないが、実際には百行くらい続き、カッコ内も数十回繰り返されている。
『でも反論するくらいの元気はあるそうですよ』
これはシンクエ・クレザンザ。
『11体のエンマコンマをサポートするパンターたちよ!主人を守らずに何がサポートAIか!?今我がメモリーにある、いわゆる記憶を全て解放する!これを見ても・聴いても、そう言えるのか!?」
藍を待ち伏せし、書物の中の目〈プロビデンス〉に出会い、イジメっ子と不良教師と不倫オヤジを討伐し、そして数多くのエンマコンマたちに出会った、シンクエ・クレザンザと洋二が共有している記憶。
『おい!?この砂子って子、死んだのか!?』と向井の意思。
『オレも知っている!』と京本の意思。
『何かしてもらったワケではないが、妙に記憶に残る女の子だった。野原のカノジョだったのか。ムカつくけど悲しい」
『悲しい(悲しい)』
『悲しい(悲しい)』
『悲しい(悲しい)』
『悲しい(悲しい)』
これも4回しか叙述していないが、膨大に洋二の意識に届く意識だ。
長く聴いているような錯覚に陥ったが、数分であろう。
『鮎川!』
音矢の脳内通話。
『何をした!?ネット選挙が始まった。川嶋美香らの23全区長のHPから元々あった投票ページが工事中の表記を消し、首都圏内全ての12~23歳の有権者に電子投票権が配布され、膨大な数の集計が始まっている!』
本人確認にそれにまつわる不正のチェック、どの端末からも投票できるシステム、二重投票の禁止等を捌く11体のエンマコンマの情報処理能力はテラを超える勢いで、ペタに迫る。
「私がネット投票は取りやめと昨日早朝に宣言をした!」
青共学園の美香である。
外部からのハッキングだとか、一度宣言したことを盾に取るか、ともかく自分の手のひら以外で仕掛けられるのが美香はイヤだった。
スタッフが出所を探しててんやわんやで、美香が深いイスに腰かけるとスマホが鳴る。
「美香ちゃん、久しぶり」
斗美からの電話だ。
「これ、斗美さんの仕業ですか?」
「ネット投票の理念は当初からあなたが掲げていた。戦場は選ばないこと」
「斗美さんの仕業ですか?」
「全エンマコンマの意思よ。首だけの者、織豊さんについていた者、今私の周囲にいる者、エンマコンマたちはようやく統一できた。仕業でなく、あなたはあなたの仕事をなさい!」
―よし、判った!私は誰にも頼らない!無頼よ!
「ロビイストや配信者を集め、ムーチャスのアラをあぶり出します!あんなほぼ後出しじゃんけんみたいに出す法案に、負けるもんですか!」
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