第72話 麻井延彦 1



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「ケンタッキーって、今ツイスターは何種類だったけっけ?」と藍が弓に問う。

「3種類だってさ」

弓はスマホで確認して云う。

「じゃあ、ツイスター3種とビスケット2個、コールスロー大に肉をは適当で」

「青山通りのケンタ、未だ営業中だよ。宅配頼むならば、二人を降ろした後に買って来る」

藍の注文を運転中の信夫が聴いて、二人を斗美のマンションで降ろし、再度発進す。

竜馬勢を黙らせたことから、蕨の工場を確保したので、そこのドックにジャゴ・ミドリを返却しに行った亜夜子とみゃーこ以外、つまり、斗美、洋二、音矢、ハヤテ、数名のエンジニアが集っていた。

再会直後、音矢と弓が抱き合うとその様子をちらと藍がうかがうように見る。

するとお義理というか嘆息というか洋二が藍を抱きしめる。

ハヤテは苦笑。

「はいはい、仲のいいのは判ったから、二人とも入浴してきちゃいなよ」

斗美のにやにや笑いにばたばたと藍と弓が脱衣所へと向かう。

「さて、沙也とリオンの通信があったという話の続きだが、ジャゴ・ダイダイを返却するとのことだ」

連絡をハヤテに入れてきた沙也によると竜馬と有紀を要塞ホテルで降ろした後、ジャゴ・ダイダイを山間部に隠すと云って出てきたが、こんな戦闘兵器をいつまでも持っていると狙われるので、隠し場所を教える代わりに自分とリオンをもう追わないでもらいたいと要求してきた。

斗美は直ぐにOKし、ハヤテはそのようにレスポンスして、ポイントが送られてきた。

「秩父の方だな。オレと賀藤で行って、蕨のドックに置いてこよう。鮎川は女性陣を頼むよ」

「それはいいが、未だやることはある。まずはこれを見てくれ」

洋二がペントハウスの巨大なディスプレイに反映させた情報は23全区長の下馬評だ。

「やはり主催して、前準備があった川嶋美香の方に分がある。藍たちは実は選挙権のある若人に響いていなかった」

確かに、フィクサー星川の意向、勤労学生としての藍、身の上相談等は大人に受けるジャンルであった。

洋二は続ける。

「でも弓さんが宣言したあの世代限定通貨ムーチャス。選挙権を持つ若者にかなり評判がいい。ほら、『バイトとボランティアでムーチャスを貯めて、教習所と英会話学校にも行けるってこと!?』とか『卒業して直ぐにカレシと結婚したかったので敷金礼金で助かる』とか。ムーチャスとひと言唱えただけで、ネット内は大山鳴動だ。だから選挙に勝つためには、誘導とかの不正でなく、川嶋美香が今朝技術的に不可能だから中止を言い渡したネット投票を復活させようと思う」

音矢とハヤテは顔を見渡す。

「要塞ホテルの生首たち」とは斗美の台詞。

「はい、斗美さんは判ったのですね」と洋二。

「ええ、あの洋二くんの闘いを見れば判る。私はエンマコンマの互換性に着目して兵器の開発に着目したけど、情報処理能力と反応速度こそエンマコンマの本流だったのね。それはボディが無くとも可能。木本さんのコクピットボールだけはボディをマークⅡに改造するため蕨に置いてあるから要塞ホテルにはコクピットボールのエンマコンマ本体は11体。それをフルに活動させれば。ネット選挙、可能でしょうよ」

ボディとコクピットボールを連動させながら、改造を行ったことにより、つまり神経パルスをチェックしながらの調整だったから、マークⅡが完成したのだ。

「はい、斗美さん。それにムーチャス運営のサーバーとしても活動してもらいましょう」

その洋二の言葉にハヤテが割って入る。

「鮎川、その要塞ホテルには手負いの竜馬がいるんだぞ」

「ああ、その竜馬にジャゴ・ダイダイが奪われたらタイヘンだ。まずはあの戦艦をキープした後、ここで集合して作戦を練り、要塞ホテルで最後の決戦だ」

そう云った洋二は、音矢とハヤテが秩父と蕨に行っている間に、身体中に付属したカトラ・アーマーやキャノン・アーマー等のいかつい武装をエンジニアたちに外してもらう予定だ。

「ふふ、今回のこの騒動、第三次エンマコンマ内乱とは誰も言わない。だが代わりに今回の選挙を誰かがこう言い始めた、東京戦争、と。そして皆がこう言っている。〈東京戦争を統べる者が日本を統べる〉と」と云う音矢は珍しく上気している。

ちなみに信夫はこの会話の間にやってきており、エンジニアたちと飲み物や食べ物の準備をしている。

少し後、湯上りの藍と弓がやってきたきんきんに冷えたシードルを呑みながら、「アレいいねぇ!世代限定通貨ムーチャス!もうちょい詰めようよ!」と云った。

「というか、弓はよく思いついたな」と音矢。

「子どもの頃から家庭がイヤだったから思いついたんだろうね」という弓の返事に音矢だけでなく、皆がスルーした。

「実際の運営や例外への対処を藍の云うように詰めよう。そしてその都度、HPや10大SNSにアップして行こう。選挙演説が終わっただけで、まだまだやることはある」

と云った洋二、それに起業家としては百戦錬磨の斗美、言いだしっぺの弓、謎のカリスマ性と実現力を兼ね備えた藍はこれから徹夜でその改善に乗り出し、後にこの夜の会合は〈令和の船中八策〉と呼ばれるようになる。

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