第71話 鮎川洋二 5



     5



空中で豊島を拾った音矢は更に上空から雷の柱が立つのを見た。

「今のがルソーだ」と脳内通話でみゃーこの声。

ルソーはジャゴシリーズに乗ったエンマコンマが操ることが可能が殲滅用人工衛星だ。

「だがそれをマークⅡの洋二くんが一人で占拠した。勝ち目がないと判ったから竜馬と有紀を回収して去っていった」

そのみゃーこ、亜夜子、斗美のジャゴ・ミドリと沙也とリオンのジャゴ・ダイダイでルソーの通信コントロール争奪戦をするところだった。

でも三人の方が圧倒的に有利のため、それこそそのためにジャゴ・ミドリに三人待機させたのだが、マークⅡのスペックは三人合わせたより上で、ルソーを管理下に置き、雷の柱~広範囲のビーム・シャワーをジャゴ・ダイダイの鼻先に浴びせ・退散させた。

「みゃーこさん、洋二、なんであんなに強くなったんですか」

「脳内に乗っているのは結局フツーの人間なんだよ。パンターはフォローでしかない。だからパンターが取得した情報を捌く速度こそエンマコンマ・ライダーの腕の見せ所だったんだろう。それは闘い以外でも学べる」

音矢はにそう説明したみゃーここそその精密にして超スピードを実生活の執筆や受験に流用できたひとだった。

リイナと胡桃沢がエプスタインと豊島を介抱している。

そこに洋二が帰還してくる。

撃たれた2人は洋二に一瞥をくれる。

「凄かったよ、鮎川。大したもんだ」と音矢が褒める。

「そんなことはない。このマークⅡという新たなボディのおかげだ」

「昨日、おまえは話してくれた。三か月の間、常時、ホッパー、マーカー、ポインターで敵を感知すべく蜘蛛の糸のごとくぴんと張った網で反応を就眠中も待った三か月を。己を索敵システムに変えたことが修行になった。だからマークⅡを最大限に扱えたんだ。常人は勿論、並みのエンマコンマの凌駕していたんだ。鮎川、おまえは間違っていなかったんだよ」

そこにリイナが洋二に話しかける。

「鮎川さん、あなたのカノジョが言っていた、私たちをエンマコンマにしたプロビデンスを討伐するって、本当なの?」

プロビデンスを討伐するという話になっている、藍がカノジョになっている、と受け手のこのコはかなり曲解しているようだったが、必死さは伝わる。

「今までは自分だけがサンプルだったが、これだけいれば少しはあの〈目〉に迫れるとは思うよ」と

洋二は謙虚に答えた。

「正体を暴いて、コミュニケーションを取って、元の普通の人間になりたい」とリイナ。

横で胡桃沢がうなだれる。

「もう兵器を作ったり、エンマコンマ同士で争うのはナシにして、そういうことを考えよう」と洋二。

その会話を聴く、ジャゴ・ミドリに搭乗する斗美ら三人は微笑する。

『鮎川!賀藤!特に賀藤!あんたの妹が壇上に立っているよ!』

ハヤテからの通信だ。

ことの経過をこうだ。

ここに至ってまで、麻井藍は方針や抱負を一切語っていない。

それを美香側支持者の聴衆からヤジられていた。

藍は美香を出し抜いて23全区長になりたいしか目的がない。

美香はエンマコンマの力をコンテクストにした政治団体を創設し、国会程でもなく・地方レベルの政治と教育が一体化した公の行政機関を運営し、エンマコンマの存在を隠匿したまま、彼らを保護して、己の手腕をふるいたいという目的がある。

美香にしても藍にしてもエンマコンマの存在を公表できないから、2020五輪や2025万博みたいな中心を欠いたいびつな盛り上がりでしかないきらいがある。

藍からすれば、あと少しで終わる演説合戦の最後にこのツッコミ、流石にもう機転が利かない。

いや、何か言えと云われれば、言えないこともなかったが、最後にかます程のネタ(つまり、鎌倉のフィクサーや反プロビデンス同盟に匹敵するもの)を思い浮かばなかった。

「盟主に代わりまして、私が大儀を発表させていただきます!」

弓だ。

「無言ちゃんだ!」とか「無言ちゃんがしゃべった!」等、ヤジが飛び、ネット内でコメントが飛び交う。

この一日、かなり注目を浴びた藍ご一行だったが、藍を一人立たせて・自分が車内で寝ているのも気が引けるので、藍の左斜め後ろに、演説中突っ立っていたのことから、応援演説とか司会もしない無言ちゃん、かわいいけど何もしない・話さない無言ちゃんとあだ名されていた。

「私たちが23全区長になったあかつきに実施する政策は、世代限定通貨ムーチャスです!」

と弓はマイクに高らかと叫んだ。

「なんやそれはーーーーーー!」とか「アホも休み休み言えーーーーーー!」と怒号が飛ぶ。

「中高大の授業やゼミナールに取得できる単位、ボランティアや部活動での貢献度、バイト先での評価、これらすべてを数値化してまとめたものです。進学すれば持ち越しです。換金はできませんが、提携する業種のサービスが受けられます。それはオフィスや住まいを借りる頭金、持病克服の手術や望まぬ妊娠のための堕胎費用、虐待されいた場合のシェルターの用意、イジメ被害者の転校費用、一人の社会人になるためのサービスです!貸し借りができませんが、複数の学生が集まって起業のための準備としてまとめて清算することは可能です!」

怒声の中に「ムチャだ!」と混じる。

弓は「ムチャだから、ムーチャスです!でも23歳になったら、消えます!そして清算した履歴は絶えず明記され、悪用を防ぎます!その諮問機関のトップが23全区長なのです!」

「ムチャだ!」「ムチャだ!」と数寄屋橋にこだまする。

藍と美香は同じタイミングで微笑を浮かべた。

それは選挙活動終了時刻、20時のことであった。

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