第69話 鮎川洋二 3
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「おはよう、そろそろ行こうか」
目覚めた洋二が斗美と音矢に挨拶した。
「大丈夫!?」と斗美。
「大丈夫かよ!?」と音矢。
「うん、大丈夫だ」と洋二。
斗美は現状を言いかけたが、制した洋二は「スリーブモード中にだいたい学習したし、藍たちが選挙合戦しているのも知っている。斗美さんの杞憂は僕がルソーを使いこなせるってことでしょう?それも大丈夫!」と安心させた。
「どうやら本当に判っているらしい」と斗美が云うと洋二は「上空のジャゴ・ミドリでしょう」と返した。
斗美は笑顔で返事とすると「じゃあね!」とベランダからジェット・ユニットで飛び立った。
その瞬間、ジャンプの能力か既に竜馬たちと同じ身体になっているから直付けのカトラ・アーマーのおかげか、上の階に飛び移り様子をうかがう。
後を追って音矢も上がる。
「音矢、もう竜馬たち来ているな。今のは斗美さんだったから、エプスタインも豊島も撃ち落とさなかったんだと思う」
洋二が復活したことを知らない藍は北上し、赤坂見附から永田町に流れた。
追う美香のプジョー!
「しかし、おかしな話じゃないか!何で女同士でカーチェイスしてまでやり合わなければならない!?」と美香が重心を調整させながら、車上で云う。
「ああ、男たちが腑抜けている、とかそういうこと言いたいの?」と同じく車上でバランスを取りながら藍。
「それよりもっとタチ悪いのは世捨て人になる度胸もなくて、傍観して、アンタをアイドル扱いして、ネタとして消費している連中、どう思っているのか!?」
「そういう人にも家族や恋人がいるだろうし、学校や会社にも仲間がいるでしょうに!一面を切り取って判断するのは危険だ!」
「わざとやっているのか!?これが宇宙中継だからって、わざとかばっているのか!?」
「あー、そういうことかい。そういうメタ視点を持つから、そんな緊張が解けない人生しか歩めないのか!メタって、ネタと言い換えでしかないじゃん!」
「アンタは蠅の女王だ!」
その蠅の女王のカレシで、今はマークⅡ化して、その直付け武装で最早人とは思えない洋二は、斗美のマンションの屋上にいた。
音矢もいて、その隣にはフライト・トレーラー(通称スキウレ)が鎮座している。
レーザー・ビーム・キャノン・ユニットを大型化したもので、複数のエンマコンマが搭乗し、武装も多く詰め、レーザー・ビーム・キャノンも大口径となっている。
エンマコンマのレーダーは感知したが、洋二が音矢を制した、何を?竜馬たち7体のエンマコンマだ。
「へぇー、鮎川洋二、生きていたのか?そしてその身体、マネか!?」
洋二は返答せずに、右手を高く上げ、人差し指で天を指す。
「未だ18時台だ。こんな中央で戦闘はお互いヤバい。
「みんなぁ!こいつら二人でオレら7人を相手してくれるってよ!」
「上空数千メートルから落ちたらいくらエンマコンマでも重症だ。だからこのフライト・トレーラーを用意した。ここにいる音矢が全員を墜落させない!」
竜馬たちは最初、洋二が何を云っているのか判らなかった。
だが気づいてしまった!
「てめぇ!オレら7人をおのれ一体で相手してくれるってことか!ナメ腐りやがって!」と竜馬。
「いいじゃん、竜馬。この坊やのスクラップ、あの落選する藍とかいう小娘に送りつけてやろうよ」と有紀。
他の5人はそう云うと嘲笑した。
いや、5人の中の胡桃沢とレイナだけが笑っておらず、じとっとした目で洋二を見つめていた。
「では、洋二くん!高度1万メートルに達した瞬間に勝負が始まる、いいな!?」
そう云って竜馬は飛び立ち、洋二を含む残り7体も飛び立つ、と見えて、飛んだ洋二の後ろから、伊都のクローが洋二を襲う。
伊都のクローは接近戦向けで、その特徴はレーダー・カッターさえその硬度で折ることだ、だが、洋二が握るスプレー缶くらいの太さの武器(その柄から出たコードは洋二の腹に繋がる)がそのクローを防いだ。
伊都としては接近戦に強い自分が絶妙な機会を狙ったハズであった。
だが、クローはスパリと切断された。
その伊都の所業のため、竜馬たち6人も屋上に戻っていた。
そのため伊都は茫然としたが、未だ左のクローが残されていることに気づき、それを振るったのだが、同じくそのセラミック性の刃は切られ、折れた爪の先が流石はセラミックである、キレイな音を立てて、屋上の地面に落ちた。
―クローが切断された!?
そう、伊都の疑問は二回目で氷解した。
レーザー・カッター系の武装はレーザーとは言いながら、アーム部の両端から形成されるレーザーなので、か細く、そのアーム部をへし折れば、無力化する。
だからレーザー・カッター系はクローやドリルの鋼鉄製武器に弱い。
だが、洋二の持つそのスプレー缶のような兵器はビーム・アーマーといい、その刀身はそのまま大出力のビームなので、金属なぞ一刀両断する。
そして、鋼鉄を斬るために刀身の厚みを15センチにしたが、今度は5センチにした。
(これが考えるだけで操作できる)
その細いビーム剣で、伊都の両足を膝小僧から切断。
倒れたところを洋二が頭を蹴っ飛ばし、脳震盪ならぬ、脳内のコクピット・ボールを揺らして気を失わせ、無力化。
「コイツが卑怯だからここまでした。どうする?未だヤるかい!?」
洋二、覚醒。
「当ったり前だろうが!!」と竜馬たちは天空そらに飛び立ち、洋二が追う。
そろそろ19時を回ろうとしている。
一つの闘いが始まり、もう一つの闘いが始まろうとしているが、この二人の闘いは前回と同じように同時に終わるのである。
美香と藍は最終決戦地、演説のメッカ、有楽町の数寄屋橋に到着した。
「どうもお集まりいただき、ありがとうございます!若獅子会の川嶋美香です!最後のお願いに川嶋美香が参りました!この女に投票するのは絶対にやめてください!」
美香は藍を指差す。
「麻井藍です!それはこっちの台詞だ!この女にいれるのはやめろ!だいたいどう考えたってこの選挙も、23全区長も茶番だろうよ!」
藍が美香を指差す。
どっと沸く観客たち。
そして車両が無理矢理マリオン前あたりにまで駐車されている。
民放各社やNHKでもこのニュースを取り上げて始めていて、フジテレビにいたってはバラエティ番組を中止して生放送を始めた。
二人の渋谷~銀座間の鍔迫り合いがいたるところで流された。
確かに、藍はアイドル的人気で男性受けがよかったのだが、この爆走カーチェイスで美香は地金が出て、同性から人気が出た。
髪の毛はひっつめ、服装はスーツ姿で近寄りがたいイメージだったが、その鬱屈を吹き飛ばす論争スタイルは同じように鬱屈している女性たちには好感が持たれた。
Xやpixivにはデフォルメされた2人が睨み合ったり、銃撃戦をするイラストで溢れた。
今は学園にいなくてもチャット機能やメールでやり取りでき、〈藍or美香〉は世界の(日本の、ではない)検索チャート断トツトップとなった。
このようなムードの夜の銀座、洋二と音矢は空での戦闘、斗美らはジャゴ・ミドリで待機。
だから、この時にライフルで藍を狙っていた足立を見つけたのはやはりハヤテだった。
「なるほどね、こういう雰囲気で水を差すこと平気でやるとか、ヒーローになれなかった人生だったんだな」
ハヤテはそう云い、「おまえもな」は心の中でつぶやいた。
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