第64話 熊本銃三 3



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藍と弓はビクと反応してが、信夫は無表情なままだ。

「外にいる男の子、彼がエンマコンマかい」

恫喝するようなふうはなく、星川は尋ねる。

「どうしてそう思われます?」

藍はとっくに平静を取り戻している。

「私の手の者によるとエンマコンマはサイボーグ説、宇宙人説、AIに支配されたニンゲン説が有力だとされている。ここ数年のネット内での何者かの資金調達や主要都市でのテロめいた銃撃戦、探ると出てくる謎の言葉、エンマコンマ。それは個人名か、組織名か、何か兵器やアプリケーションの名か」

「ハヤテくんが宇宙人かサイボーグに見えましたか?」

「我はな、話す時に視線の動かし方や瞳孔の伸縮を見る。だいたいそれで、昔取った杵柄、その人の度量や性格は9割判るが、あんな目は初めて見た。どれにも該当しない、ならばエンマコンマだ」

この星川の言葉に藍は玄関にいるハズのドローンを気にかけた。

それを沈黙と思ったのか星川が続ける。

「藍さんや弓さんがそのエンマコンマをまとめてくれればそれでいいんだ。いくらエンマコンマが強かろうが、自衛隊が総力を上げれば勝てるのだが、それは避けたい。だから藍さんにはこの選挙勝ってもらいたい」

やはり自分は凡人だと弓が思ったのは、星川の今の台詞で、ようやく仕組まれてこの部屋でこの会話をしていることに気づいたからだ。

「エンマコンマとは何か?をお尋ねにならない配慮、痛み入ります。だからこれだけはお約束します。反動のエンマコンマたちは今日明日で何かしらの裁定が下ります」

藍の宣言に、星川は「根拠は?」と尋ねた。

「裁くのは私の恋人ですから」と藍は右の口元と右目をつり上げる。

「ふーん、そりゃ、信用できる。あたしは今でいうバイセクシャルだから、たまにはこういうふうに女の子と話すのも面白いもんだな。きみが女の子の友達を欲していたのがよく判るわ」

という星川の言葉に唯一動揺したので弓はまた自分の凡俗ぶりを恥じた。

「弓、驚くならば、その静雄くんがひ孫でも孫でもなく、息子だということにだよ」と藍。

「えっ!!!」と弓。

「そうなんだよ、今まで人任せにしていた子育てを初めてして、笑顔で料理を食べてもらえるよう工夫したりして楽しいものだ」と星川が当初の好々爺に戻る。

さて、その頃、両陣営は戦闘態勢を整えつつあった。

洋二のカウントダウンは未だ終わらず。

故にハヤテは星川のアパートの前で室内だけでなく、斗美のマンションのモニターも忘れなかった。

音矢とみゃーこは昨夜のうちに蕨の工場に行き、その全エンジンを止め、全データを凍結した。

火を放つ話も出たが、竜馬側も闘いに勝ったら奪い返すだろうから、今この工場に手荒なことをして、官憲にバレたくないと双方思っているという紳士協定を信じた。

だがなによりの目的はジャゴ・ミドリの移送である。

深夜のうちに、いつでも使えるように、二人で東京湾に沈めてきた。

竜馬たちの持つジャゴ・ダイダイの二番艦である。

巨大にして、製作予算がかかり、量産の効かない軍艦は一度に二隻作った方がお得という故事にならったものだ。

これを竜馬と川嶋に教えず、蕨工場に隠していたのは熊本である。

中立をこの期に及んで保っている熊本は現在入院中という建前で青共ビルの最上階で二派の出方を探っている。

斗美らは表参道に、龍馬らは要塞ホテルのある渋谷に、歌舞伎町には熊本がいる図式だ。

(ちなみに川嶋美香は白山の青共学園にてマスコミの取材に答え、最終日の演説行脚に向かうにあたり校庭で総勢200人の学生スタッフに檄を飛ばしていた)

斗美と亜夜子とみゃーこはジャゴ・ミドリの操縦法を習得していた、あらかたパンターがやってくれるだろうが、もし艦隊戦ともなれば、その時のエンマコンマ独自の反応速度がモノを言うからだ。

ジャゴ・ミドリの操縦は女性陣に任せ、修理を終えた音矢は既存のアタッチメントの他に配備されたセンジュ・アタッチメントの練習にいそしむ。

ボンネット・スカートのような形状が恥ずかしいが、両脇に百本づつ付けられた刃渡り1メートル程の熱しられた菜箸のようなソードを次々使い捨てて攻撃するというコンセプトで、付属のピストル・アタッチメントで敵に向かって打ち出すことにより中距離攻撃も可能だ。

つまり、洋二が目覚めないまま戦闘に突入した場合、一度に大勢のエンマコンマを相手にするための武装を選んだのだ。

対する要塞ホテルでは、天田有紀とレイナが参戦することに決まった。

二人ともアタッチメントはエレクトリックマグナスとショットガンといった護身用にとどめ、キットをそれぞれ8体操る予定だ。

大沢と山内は修理中で、直ぐには参戦できないための補充であるが、同時にジャゴ・ダイダイには沙也とリオンのカップルがいるため、皆居辛くて地上に降りてきた。

こんな朝っぱらから港区でエンマコンマ戦をやるワケにはいかないと竜馬にも判っていた。

だから、ジャゴ・ダイダイによる上空からのビームシャワーの援護の元、自分のダブルレーザー・カッター、ビームのエプスタイン、ライフルの豊島、クローの伊都、ドリルの胡桃沢、有紀とレイナによる合計16機のキットで、みゃーこ、ハヤテ、音矢を無力化するのだ(竜馬らの認識では洋二は再起不能)。

斗美と亜夜子には神輿になってもらい、熊本と美香に難しいことを任せて、自分たちは好きなように活躍する、これが竜馬たちの目的だ。

こう見ると竜馬側が圧勝に見えるが、ジャゴ・ダイダイとジャゴ・ミドリが相対した場合、消耗戦にしかならないので、お互い引くであろう。

竜馬側のエンマコンマは7体にキットが16体、ハヤテは来るだろうが、現時点での頭数は洋二と音矢のみ。

今夜、斗美がそれを許すのは洋二の新しい身体・マークⅡにはルソーを単体で動かせるコードが埋め込まれているからだ。

それはエンマコンマ同盟が密かに打ち上げた衛星兵器。

4問の口径10㎝から20mのビームシャワーを地上に発射可能、ジャゴ・ダイダイに乗る3人のエンマコンマが協力するか、マークⅡ単体でないと動かせない。

戦艦同士で相打ちになった後にルソーを制するのは洋二しかいないという戦略だ。

―もう動きたいんだが、なんだ!?全身にじわじわと毛細血管が形成されていくような感覚。感覚を受けるということはもう目覚めるのか!?そうなのか!?シンクエ・エクゼンサ!?

『はい、もうしばらくお待ちください』

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