第61話 麻井藍 5



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「臆病、だと、この私が!?」と美香が感情的に答える。「いやぁ、麻井さんはもうちょい話の判る女の子だと思っていたのだけど残念だ。私とアンタは同じだよ、親を一人潰しているんだよ。似ているから、ひょっとしてら組めるかもと楽しみにしていたのに残念だ。私と麻井さんは覚悟ある人間だ。その砂子とやらが覚悟して売春したのか?成り行きだ。家出少年や半グレたちは?普通に働きたいないという消去法だ。企業も会社も世襲だらけで、誰も覚悟なんてしておらず、面白おかしく壊れていくだけだよ」

これは美香にしては珍しかった。

かなり心境を語ってしまっていた。

「覚悟があったら、どんなひどいことをやってもいいと言うの?いや、違うな、そんなの覚悟でもなんでもないよ。自分より弱いヤツを選んでイジメているだけだよ。覚悟なんて、後付けだ!それに私とあなたは似ていない。何故なら、私は涙しか信用しない、涙としか手を組まない!」

「涙?甘い、甘いなぁ、そこの月餅より甘そうだ。いつでもいい、怖くなったら、直ぐに私に電話してね。いや、するな、私の軍門にくだらなかったことを後悔させてやる!」

「やってみな!週末の大決戦だ!」

「よし、やってやろうか!」

「勝負!」

「勝負!」

選挙戦であるから、何か追撃はないだろうが、藍は一瞬でも早く、この場所から離れたかった。

だから弓と二人で足早に去った。

そして、美香は竜馬からの連絡で、みゃーこが賀藤たちについたことを知らされていた。

だから、前もって所在を教えていた。

もう21時である。

公園のど真ん中に出る。

上空からのライトが藍と弓を照らす。

南青山のビルの駐車場に配備されていたフライト・トレーラー、通称スキウレである。

軽トラックくらいの大きさで、大型バイクくらいの大きさであったレーザー・ビーム・キャノン・ユニットを大型化したものだ。

勿論、レーザー・ビーム・キャノン2門も装備している。

操るは音矢。

「兄ちゃん!」

弓は兄の姿を見た瞬間に抱きつく。

感動の再会であったが、抱きつきながら弓が連呼したのは「砂ちゃんが!砂ちゃんが!」であった。

砂子の話は、斗美からみゃーこ、みゃーこから音矢の連なりで知っていた。

流石にハヤテには未だ話していない。

そして洋二のことを藍に云えないままでいる。

このスキウレに乗っている最中に云おうと思っていたというのに。

洋二は今全機能を停止している。

パイロット・ボールの中身が無事なのかも定かではない。

頭部まで破損したので、亜矢子が蕨工場から持ってきたエンマコンマ・ボディに適応するか・どうかだが、今まで取れた足や手を12体のエンマコンマのパーツから流用は何度も成功しているが、自身の乗るパイロット・ボールを入れ替えるなんて、誰も試したものはいなかった。

南青山のメンテナンス・ルームでは両腕が完治してハヤテが待っていた。

「いや、気にしないでくれ、砂子のことだろう。みんなの反応で判る。教えてくれ」

藍が話そうとしたが、弓が制止した。

砂子は自分の身を引き換えに私ら二人を守った、藍はその後拳銃で暴漢どもを追い払い、斗美と美香という年上の女傑と渡り合った。

―自分だけ、何もしていない。

それが弓の心に棘となって刺さっていた。

話し終るとハヤテは「そうか、砂子さ、友達思いのコだったんだな」、そう云うとハヤテは「ここ禁煙だろう?ちょっと階段で煙草すってくるわ!他の住人いないから平気だろう」と出て行った。

逡巡する音矢。

その姿に顎をクイと上げることで促す藍。

「いや、賀藤さ、こういう時は一人にしておくもんだよ」

「うん、でも、オレの胸で泣け!」

「おい、ふざけるな!」

「オレももう我慢できないんだ!弓子がそんな目に遭っていたなんて!」

二人の若者が抱き合って涙を流した。

その頃室内では無菌スペースに移された元は木本というエンマコンマのボディが用意されており、洋二のボロボロになったボディもそこに運ばれていた。

藍に見せないようにではなく、パイロット・ボールから羊水らしき者があふれ出るだけでオリジナルは死ぬと言われているので、細心の注意が必要なのだ。

木本のボディは当然既にパイロット・ボールが外された状態で、その外された部位は要塞ホテルの最上階に保管されている。

首を切断されら後に神経や筋肉を繋げて、修復できたし、例の呼吸薬の溶液に漬ければ、回復は更に早まることは証明されている。

そうして首を繋げた状態で9体のエンマコンマ・ボディはパイロット・ボールを抜かれ、蕨の工場に保管されていたが、亜夜子の手配で木本分が運ばれたのだ。

木本のボディは白のシーツに覆い隠されているが、明らかに人間のものではないふくらみが散見される。それがマークⅡであることの証。

ここにいるエンジニアはみゃーこと亜夜子の直属の者で、有紀や美香には懐柔されていない(ちなみに有紀のオサセ行為を知っていたかとここのエンジニアに尋ねると、大半が「ヤると不幸が伝染るだろうから、逃げました」と云っていた)。

その冷静な判断ができるエンジニアたちが「エッ!」と声を上げた。

ポロッとこぼれるように医療用のマジックハンドから洋二を乗せたパイロット・ボールが吸い込まれるように、木本のボディの頭部の穴に吸い込まれ、消え、その木本の穴の周囲の皮膚と毛が自然に増え、覆い化されると、驚いたことに、これは控室でディスプレイを見ていた藍、弓、みゃーこ、亜夜子も「ええええええええええええ~~~~~~~~~~~~!」と声を上げたのだが、見る見る間に、木本の顔が洋二の顔になっていって、もう完全に洋二の顔となった。

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