第59話 麻井藍 3



     3



斗美と藍・弓は話して、洋二らが竜馬という主戦派のエンマコンマに敗れ、洋二は重傷だとも聴いた。

斗美や亜矢子らが元老院となり、政治は川嶋美香、経済は熊本銃三、実戦部隊は織豊竜馬が受け持つ、そして彼らと彼女らの性格や能力を聴いた。

つまり音矢の説明以上のエンマコンマの成り立ちや組織・系統だ。

そして、「斗美さん、あなたとは別のカタチで会いたかった。話していると自分まで頭がよくなった気がする」と藍は一旦の別れの言葉を口に出した。

「藍さん」と斗美は云いかけたが、藍が直ぐに「いや、呼びつけか・ちゃん付けにして欲しい」とエクスキューズを付けた。

「じゃあ、藍ちゃん、このままでは終わらせない。約束する」

「うん、今度会う時はこんな硬い表情で会いたくない」

斗美が右手を差し出すとその右手を自分の右手で掴んだ藍はそのまま引っ張り、斗美を抱きしめる。

「斗美さん、早く終わらそう」

「そうね」

弓と藍は青春共和国ビルを後にした。

そして斗美から提供された・近所にある歌舞伎町タワーの最上階のペントハウスに藍と弓は舞台を移す(初めて斗美と音矢・ハヤテと出会った定宿だ)。

「立候補締め切りは本日20時。あと30分」

弓が〈23全区長公式ホームページ〉で確認した。

「被選挙権は12歳以上、供託金は20万円、これは最初無料を考えていたが、立候補者の覚悟を図るために、中高生でもムリすれば払える金額に設定したとある。明後日が投票当日だ。藍、あまりにも無謀だよ、しかも斗美さんとあんな約束するなんて」

藍は先程の斗美との会談で、自分が選挙に出馬するが、こちらへの協力は不必要!但し、あちらが選挙やその理念を侵害するならば直ぐに厳重な処罰をするように、勿論こちらが非道な行いをしたら同様に、と約束させた。

「判るよ、弓、でもね、私のやり方で相手を叩きのめさないと負けを骨の髄まで染み込ませることは不可能なんだ」

それでも無謀である。

この部屋に来てから、今まで取り立てて興味なかった23全区長選について調べたが、破格の選挙体制であった。

まず現在東京に住む者、都下の者も23区に用件多いから含み、登校先・仕事先が23区にある者、本籍が23区内にある者も含み、そんな人々が選挙会場まで来るのかと云えば、県庁所在地に暫定投票所は備えるものの、史上初のインターネット内での投票を約束している。

ここからは斗美の話も混ざるが、23全区長は川嶋美香による出来レースである。

誰の挑戦でも受ける!という豪語の演出のため投票当日の二日前の20時まで立候補者を募ったり、政界のジュニアを当て馬にはするが学生の頃に出馬させて知名度を上げることに貢献したり、と公正な選挙の体を取っている。

更に云うとこれは斗美も知らぬことだが、改造した武装エンマコンマと同レベルの攻撃力を持つキット、それにジャゴダイダイ級の戦艦等は完全に東京を人質にするための軍備である。

生徒会の真似事と思わせておきながら、後ろ盾にエンマコンマ同盟がいるため、青春共和国や若獅子会はいつでも現政権に取って代わることができる。

いや、むしろいつでも出来るという状況を作り上げることこそ、川嶋美香の企みなのだ。

改造エンマコンマの機動力と攻撃力は一体が百人の兵士に勝り、ジャゴダイダイやルソーのビームシャワーは議事堂やTV局を一瞬で壊滅できる、いや、しないけど、でもいつでもできる、という冷戦構造のジレンマをこの東京で再現することこそ、後の章で川嶋美香は立派な題目を散々並べるが、そんなのは全て詭弁で、実際はこれこそが真の目的である。

これでは川嶋美香が勝ちを譲る可能性は皆無である。

だが藍は勝とうとしている。

この選挙は投票がインターネットで出来るように立候補も届け出と供託金の支払いもネット内で済ませられ、弓がその手配をつけた。

ただ本人確認が必要なため、新宿区役所の夜間窓口へ行く必要がある。

それも近所だ。

だが藍の脚が止まった。

弓は最初、なんのことやら判らない、いや最後まで判らない。

だから藍が夜景が一望できる窓ガラスに頭をつけ、そのまま動かず、弓が声をかけるのをためらっているとそのガラスにかなりの力で藍は頭をぶつけ始めた。

―そうか、私がそうなるということはああなるということなんだ。

「でも、もう時間がない。直しているヒマがない」

これは藍の発声。

「うん、そうだよ、ヒマはないよ」

弓がこの時に藍が頭で煩悶していた〈ああなる〉を知るのはこの物語のエピローグで語られることとなる。

その頃、斗美はやるべきを為そうと、ジャゴダイダイに向かっていた。

イヴィトール・ユニットで側近や護衛も連れずに行く。

みゃーこには初期からチェック&バランスの安全弁を取り付けろ、と言われていた。

この航空母艦の建造は熊本銃三や織豊竜馬からも聴いていなかった。

みゃーこが内定してくれなければ判らなかったことだ。

エンマコンマには自然と識別コードがある(だとするとどういう目的で生成されてのだろうか)。

だから、斗美が近づいてくるのは有紀以下の全員が理解していた。

「さすがにこれは、デカ過ぎないかな、天田さん」

挨拶もなく斗美は切り出す。

「ハヤタ会長、あなたが迷っておられるから、私どもが決断して差し上げたのですよ」

「じゃあ、私がこの艦を解散するようにと決断したら、そうなるの?」

有紀は笑顔で返す。

「リイナちゃんはどう?」

「私は皆さんに従います」

―皆さん?

斗美の疑問はエンマコンマの同士を指してのことかと思ったから生まれたものだが、そうでもないようだ。

周囲の戦艦運営のクルーが拳銃を抜いている。

「これって、え!?」

斗美はまんまといっぱい食わされたのはこの時に初めて理解した。

熊本に竜馬、美香さえ押さえておけばいいと思っていた。

「そういうことよ、お嬢ちゃん!」

「え!?でもなんで!?」斗美の混乱は収まらない。

「なんで、ってアンタと違って、学歴も才能も地位も名誉もカリスマもないシングルマザーのおばさんが何で?ってことだよねぇーーーーーーーーーーーーーーーー!」

斗美はこれ程の悪意を今までぶつけられたことがなかった。

「たらしこんだんだよ!ここのクルーは初期からのエンジニアでもある。そういうマジメ君たちの初めての女になってやったんだよ!ハハハハ!!浜野さんと矢部さんと澤井さんとも寝ているよ!どう、私に興味なかったから意外過ぎて驚いているねぇーーーーーー!」

有紀のこの悪意はそのクルーたちにリイナたちに伝播しているのだ。

でも斗美には判らないことがあった。

「でも、エンマコンマ女性は排泄も必要ないし、生殖能力も欠如している。それなのに、どうやって?」

「イヤなことを聴くお嬢ちゃんだ!そりゃ、初期は手や口でして上げていたよ!でもあの12体のエンマコンマのボディをゲットしてから改造が可能になった、ほら!竜馬たちが直接改造したじゃないか!」

有紀のヒステリックな叫びが艦内に轟く。

「まさか、アンタ、本当に!?」

「そうだよ、ハヤタさん、改造して人口膣をつけたんだよ。そうまでしないと人を惹きつけられない私の屈辱が判るかい!?わかんねーよなぁーーー!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る