第58話 麻井藍 2
2
「今回の騒動はなんと命名しましょうか」
清墨レイナが天田有紀に尋ねる。
「第二次エンマコンマ内乱でいいんじゃない。第三次はもうあるワケないし、これからはもう内ゲバは起こらないでしょうから、二回の内乱で収拾した、という意味でもね」
二人が艦橋で話す脇では、韓璃音が誰かと脳内通話をしているふうに見える。
「リオンちゃんは誰と話しているの?」と有紀。
「沙也さんでしょうよ」とリイナ。
有紀はバカにしたような笑みを浮かべる。
そしてこれ見よがしに独り言。「さすがにルソーを動かす程じゃなかったわ」と。
その頃、地上には飛行艇が降り立つ。
1台は被弾して再起不能であろう大沢康安を回収に向かったようだ。
狙撃手2名もカトラを使って、こちらに集まってくる。
山内と竜馬は揃って、顔を合わすが、会話する雰囲気ではない。
戦いの虚しさというより、いざやって終わると、恥ずかしいのだ。
胡桃沢と伊都は脚を串刺しにした音矢を未だ牽制している。
それでも飛行艇が降り立つと竜馬と山内は襟首を掴み、竜馬がハヤテを、山内が半壊した洋二を艇に乗せた。
「女のスタッフ?珍しいな」
それは飛行艇の上にいた女性に山内群馬が云ったものだ。
サンバイザーを付けたその女性は「珍しいでしょう」とだけ云った。
伊都と胡桃沢が音矢の両腕を捕まえ、艇に乗ろうとする。
未だ動けるのだから艦内で拘束するまでの手助けであろう。
18体のキットのうち8体が急に動き出し、山内の全身をレーザー・カッターで引き裂いた。
他の10体は竜馬、伊都、胡桃沢に体当たりを仕掛ける。
そしてサンバイザーの女が艇を離陸させる。
サンバイザーの女がいち早く、山内を始末したのは同じコントロール・デバイスを内蔵していたからだ。
山内を潰せば、100メートル上空にいるジャゴダイダイのコントロール・デバイスでは距離的に弱く、この18体は自分のものになると踏んだのだ。
しかもサンバイザーの女はジャゴダイダイの中から、下方の戦闘を見ていたので、狙撃手2名の存在も忘れていなかったので、キットの8体を艇の廻りを周回させることで防波堤とした。
だが、竜馬、伊都、胡桃沢もカトラで飛べるのだ。
まとわりついてくるキットを蹴散らすと、地面を蹴り、艇を追う。
『竜馬!キットのホスト役はキットを自爆させることが可能だ!』
竜馬とは云ったが、これはこの場にいる全エンマコンマが受信した。
サンバイザーの女も聴いたので、舌を鳴らしたのではなく「チェッ!」と発音した。
自爆させたキットはいっぺんに6体。
それは足止めに十分役立った。
そのまま戦線離脱の超スピード!
「賀藤くん、操縦をお願いしていいかな?私はキットのホスト役に徹する」
と云ってサンバイザーを取った。
「あ、あなたは藤谷みゃーこさん!」
「賀藤くんと数える程しか会ってなかったから、覚えていてくれて嬉しいよ」
とみゃーこが云い終った時に、エプスタインのものであろうビーム砲が一機のキットを撃ち落とした。
「あなたの漫画、オレの妹が大ファンなんです!」
「妹さんたちは今、斗美が預かっている。私はあのデカい艦内で静観していたんだけど、斗美からのジャッジで動いた。賀藤くんと同じで距離を置いたエンマコンマに間者をやらしていたんだよ、斗美」
「あのぁ、弓子たち、どうしたんですか?」
「うん、まずは三人とも修理してから話す。これからエンマコンマ史上、いちばん忙しくなるからね」
南青山のペントハウスに着く。
「何度か来た事あるでしょう。先に行っていて!亜夜子が1階のエントランスで待っているから。私はこのフライング・ランチを神宮外苑か青山墓地に捨ててくるから!」
ペントハウスが最上階にあるビルにマントを羽織ったハヤテと足を引きずる音矢がタオルケットに包んだ洋二を運び、中へと入る。
「賀藤くん!こっちこっち!」
椎名亜夜子、銀のボディコンシャスのドレスを着ている。
「亜夜子さんまで!どうしちゃったんですか!」
「みゃーこに説得された。ヤバいからいつでもアセスメントできる立場にいるべきだって!まぁ、中立というワケでもないんだけどね」
「客用エレベーターって、乗っちゃっていいんですか?」
音矢のこのセリフが出るのは他の居住者にマントを羽織った男と死屍累々の自分らが見られる心配をしたのだ。
「大丈夫。もうこのビルは斗美が全フロア・全室買い上げている。メンテナンスや研究は蕨の工場にも引けを取らない。そう、そして蕨工場からそうとうヤバいものを私は盗んできた!」
「亜夜子さん、それは何ですか?」
「マークⅡよ」
亜矢子はメンテナンス・フロアに着くとそのマークⅡとやらの説明もせず、音矢の脚の破損をエンジニアに治療するよう指示をした。
そして、ハヤテには他のエンマコンマからの両腕の移植を施した。
「切断されてから60分くらいだから、多分エンマコンマの自己再生能力でも繋がるだろうけど、太い神経や筋肉部はうちのエンジニアに縫い合わせてもらって、培養液に漬ける。ともかく時間が勝負だからね」
その時にはみゃーこも戻ってきており、亜夜子で二人は話し込み、ハヤテと音矢は身体のいち部分を液体呼吸装置に浸し、ようやく双方共にひと心地つけたようだ。
「なぁ、ハヤテ。全然しゃべらないのはどうしてだ?」
思い出したように音矢が云う。
「凄く、悪い予感するんだ。両腕失ったどころじゃない強烈なイヤな感じがする」
それは音矢にも亜夜子とみゃーこの対応で気が付いていた。
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