第57話 麻井藍 1
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「お、オレは知らねーゾ!!!!!!!」
「このメンヘラ女が勝手にやったことだ!オレたちに非はない!オレたちは悪くない!」
「死んで当然の女だったんだ!悪いのはこの女を最初にヤった大人たちだ!」
「頭がおかしくなったんだ!じゃやなきゃあ、こんなコトできないよー!」
「オレのせいじゃねーよ!あてつけがましいなぁー!」
そういうと一人、又一人と地下室を後にした。
あまりに一瞬の出来事で、この室内のボス格であったサドルとチビは茫然としている。
その中にあり、藍はようやく自分のすべきことに気が付いた。
砂子の遺体を見る。
左半分の顔は相変わらず美しかった・かわいかった。
でも涙を流していることが判った。
―苦しかったんだね。
藍は遺骸の右手に硬く握られていた拳銃を取る。
「出ていけ!」
そして、こう叫んだ。
プロの犯罪者を自称していたチビは未だそのプライドを保つためにか、笑顔で藍に右手を伸ばす。
藍は躊躇なく撃鉄を起こし、トリガーを引く。
革靴を狙ったつもりだが、床に当たった。
でもそれで十分だった。
「何、マジになってんだよ、冗談だよ、冗談。シラケたわ、帰るわ」
チビとサドルは明らかに震えた足を引きずるように、地下室を出た。
「弓、行くよ、ねぇ、行くよ」
その藍の声にようやく弓は現実に引き戻された。
現実を突きつけられた弓は当然の如く、砂子の遺体にかぶさり、号泣を始めた。
藍は弓が何度も何度も云う「砂ちゃん!砂ちゃん!」の声が耳に突き刺さり、弓と同じことをした。
ひとしきり泣き、でも泣き疲れ、嗚咽もやみ、二人には地下室の静寂が包む。
これは必要な儀式であった。
藍も弓もいくら泣いても・どれだけ呼んでも砂子が返事をしないということはこの無惨な死体を見れば理解できる。
だが、これからのことを考えると友のために泣くことを経た後でなければ、これからの人生で、あの時泣かなかったことを後悔するだろうと想像できたのだ。
「行くよ」
藍の言葉に弓が立ち上がる。
「弓、ここに来たことある?」
「いや、無い」
エレベーター室に出るとビルの案内板があり、8階が役員室とある。
二人はその8階へとエレベーターで上がった。
チンとなると扉が開く。
数人がオフィス内にいる。
受付が無かったので、そのまま上司席の女性に話しかけた。
藍と弓を背広姿の男たち、スーツ姿の女たちが遠巻きに見る。
「ハヤタ斗美に会わせて欲しい」
と、藍はこれだけ云った。
「お嬢さん、ハヤタは弊社の会長職です。ご存じありませんか?」
女性上司はやんわりと云った。
その女性上司のデスクの上に先程の拳銃を叩きつける。
そして「賀藤音矢、野原ハヤテ、鮎川洋二、そしてエンマコンマ!この意味が判る人に繋いでよ!」と声高に云う。
すると周囲の内の一人がスマホでどこかに電話をし始めて。
その一人は髪を後ろに束ねた若い女性で「ハヤタが参るそうです」と云った。
「どれくらいかかる!?」と藍が尋ねる。
「20分くらいだと思われます」と答える。
藍が視線を周囲に巡らすと、贈答用タオルが目に入る。
「すみません。そのタオル、いただけますか?」と問うと肯定の答えが女性上司から出たので、10枚くらい持って給湯室に向かった。
そこで藍は「顔が涙でぐしゃぐしゃだよ。まずは拭こう」と温水でタオルを濡らし、顔やそれこそ脇まで拭いた。
その動作をギョっとしたふうに弓が見ていたので、藍は「多分当分お風呂入れないし、眠れないから、今のうちだよ」と言われたので、弓もそうした。
その後、弓は音矢に、藍は洋二に電話したのだが、どちらも出ない。
そう、この時には二人とも致命傷を受けていたのだ。
「ハヤタ、参りました」と先の女性上司の声。
このオフィスの奥にある会長室に通される。
そこには藍と大して身長変わらないが、利発とかキレ者という形容が似合う27歳の女性が座っていた。
「ハヤタです。弓さんは久しぶりで、こちらは」
「麻井藍です。私の友人が死にました。今・ここで!地下室に未だ遺体があります!家出少年や足立とかいう犯罪者の残党を組織に組み込んで、何で放置していたんだ!?」
怒鳴ることはない音量だったが、藍はキッと斗美を睨んでいる。
「それだけじゃないよね。エンマコンマ同士の戦いを今回入れて2度、黙認した!どういうこと!?こうなるのを判っていなかったの!?」
藍を斗美は見つめている。
弓は面識があったためか、藍程に斗美を糾弾できなかった。
「藍さん、でしたね。私は判っていなかった、ごめんなさい。ここに来る前に地下室の砂子さんを見ました。丁重に扱うようにと指示を」
そして斗美は泣き崩れた。
その泣き声を急いで消すように又話を続ける。
「自発的に組織を良い方向にもっていく人材が出ることを期待していた。実際そういう人たちが集まってくれた。そんな才能がに集まってくれたので、ああヤバいかな、と、ちょっとマズいな、と思っても人を死なせずにやってきたから未だいける、才能あり・率先して動いてくれている人たちに注意すると勢いを削いだり、組織のためにならないと自分で言い訳していた。そのせいで取り返しのつかないことになった。ごめんなさい、まさか砂子さんみたいな人を死に追いやるなんて、想像すらしてなかった」
地下室での銃声は二回も撃ったので、気が付く者が数人いた。
そこに女性上司のデスクの上にその拳銃を置いた藍らが現れた。
髪を束ねた斗美の内通者が地下室で遺体を発見し、直ぐ砂子と判り、青共学園の卒業生だから直ぐに経歴が判明し、この流れも移動中の斗美に直ぐ伝えられた、というワケだ。
「なんで、泣くんだよ!、なんで、謝るんだよ!調子狂うじゃんか!」
さっき、地下室であれだけ泣いて、一生分の涙を流したかもしれないというのに、藍と弓もその場で泣き崩れた。
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