第56話 平岩砂子 5



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「オレはこっちの小学生みたいなコな!」

「じゃあ、この泣いている子はオレのもの!」

「順番は、やっぱ、ジャンケンか!ハハハハハハハハハハ!」

徹底的な暴力臭が漂う地下室。

サドルとチビ、メガネ率いる計5人の元救国ガーディアンズ。

男が7名に対し女性3人に何がこの場でできるのだろうか。

「おまえらさ!おまえらにはそんなのムリムリ!」

足立の配下であったチビがメガネたちを制する。

そして「あのな、いざヤり始めてみろ、泣くどころじゃねぇ!小便は漏らすわ、うんこするわ、恐怖で怯えて反抗できなくても、無意識でヤられない工夫するゼ!おまえら、まずは女に顔面パンチするのもムリだろう!?オレみたいなクズと違って、逃げてきた家出小僧のおまえらはお情けでヤらしてもらっただけのダメ人間だろう?強姦とか途中で萎えて、シケた空気が漂うことは必至だ!」

「おい!このチビ!じゃあ、おまえだけで独占するつもりかよ!」

「ちげーよ!最初にヤるならば、この女だ!」

チビが砂子を指差す。

「この女は売春婦だ!そうだったよな、砂子?」

サドルの言葉に砂子は相手を睨むだけだ。

「なぁ、こいつだけ未だ反抗的な態度取れている。この女はこういうの慣れっ子だもんな。ベロンベロンに飲んだ時に過去をゲロった。コイツさ、父親が死んで母親と死んだ父親の実家に世話になっている時にお爺ちゃんと叔父さんに代わる代わる毎日ヤられまくってんだよ。母親は黙認しているから、逃げて、この街に流れ着いた。慣れているからさ、平気にカラダ売ったんだよ」

サドルの説明に藍は耳をふさぐが、弓は両手を両耳に持っていくことすらできない。

「ああ!思い出した!この女、アタリちゃんだ!そうか!ハヤテの女ってアタリちゃんだったのか!うわぁぁぁ!こいつは傑作だ!」

元ガーディアンズの一人が云う。「オプション料金を追加で払えば、肛門でヤらせてくれるし、オッサンの小便だって飲む、それでしかも美人で上玉!おっぱいが小さい以外は掛け値なしの美少女だから、この街ではちょっとしたアイドルだったんだ!」

耳を抑えていた藍はその場にうずくまった。

砂子はサドルを未だ睨んでいる。

話者に目線を移せないのだ。

砂子とて、目で虚勢を張ることしかできない。

「そういうこと!この女はいざ始まったら、最初は抵抗するだろうが、直ぐに声を上げ・濡らすよ!この女の甘い喘ぎ声がこの地下室にこだましたら、他の二人も観念するだろうよ!いいか!この女はこういうのが大丈夫な女だ!いや!とっくに体験済みなんだよ~~~~~~~~~~~~!」

「うひゃぁぁぁぁぁ~~~~!たまんね~~~~~~~~~~!ハヤテ、血の涙を流して悔しがる!の巻~~~~~~~~~~~~!」

皆はスマホを取り出し、録画用のアプリを押した。

「一度に二本咥えさせて、肛門と膣内に入れるってヤツかよ」

「AVみたいなヤツだな!」

メガネの配下の四人がズボン脱ぐので、ベルトの金具による金属音が地下にこだまする。

その音に続き、呼吸音が聞こえる。

それはエロティックな声でなく、準備体操をした時のものに似る。

その声の元は砂子。

砂子はまさにラジオ体操にある伸びの運動をし、肩をねじっている。

その時に大きな深呼吸をした。

男たちはいよいよざわめく。

ふぅー、と砂子が深い深呼吸をした。

それは喉がカラカラの状況で発声するためだ。

「弓さ、初めて会った時、お話できなかったのは、そういう人生だったから、普通の女の子相手だと緊張していただけだったんだ。嫌いだったワケじゃないんだ。でも今日は話せて良かった。私が思っていた通りの女の子だった」

砂子の言葉に弓は何も答えなかったが、この唐突なセリフに瞬きを数回した。

それは周囲の男たちもそうで、恐怖で気が触れたかと思ったが、いや、それでも犯すことには関係ないよなと、妙な連帯感があった。

ずっと持っていたズタ袋はさっき、ついさっきカズシから受け取った物。

―これが私の手にきたのは運命か、な。

そのズタ袋から拳銃を取り出す。

店長が板橋でハヤテを撃ったあの拳銃!

今までの元気がウソのように怯える5人の男たちは「ひぃ!」や「ヤメロ」とか云う。

「いや、止めなよ、アタリちゃん。初めて撃つんだろう。当たらないゼ!他の二人に当たる確率だってある。そりゃ、当たるかもしれないけど、七人をそのリボルバーで仕留めるってのは大した芸当だゼ!それに発砲した後ならば、強姦の理由が仕返しというカタチでできる。想像以上の酷い目に遭うゼ、アンタ」

チビが云う。

だがチビに言い返すことも・銃口を向けるでもなく、砂子は藍の方を向く。

藍は頭ん中がパニくっていて、冷静な判断ができない。

だが、どうして、私の方を向くのか?という疑問が消えなかった。

自分がその立場だったら、と置き換えて考えた。

―唯一手助けになる拳銃一丁、敵は七人、友達二人を絶対に助けなければならない。うん?この命題への答えは?

「藍さ、今度は私も焼肉食べ放題に連れてってよ。そういうさ、楽しいの、いいよね」

砂子が云いかけている最中に、藍はその命題の答えに気が付いた。

でもそれは砂子が拳銃を顎にかけ、右半分の頭をフッ飛ばした後だった。

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