第55話 平岩砂子 4



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洋二と音矢はもう数少ない装備である拳銃を両手で持ち、竜馬に襲い掛かる。

エンマコンマに拳銃レベルの弾着はほぼ効かない。

だが弾幕の意味合いくらいにはなる。

地面に膝を折っていたハヤテも二人が来たので、すぐさま竜馬から距離を取った上で、蹴りによる攻撃を企てた。

やはりキットがわらわらと湧いてくる。

木陰にいる山内がコントロールしている(ちなみに、そのため山内のコードネームはコントロール)。

拳銃だけの装備に手を抜いた面もあると思われる。

だが洋二の狙いは竜馬でなく、ハヤテの落ちた右腕!

その右腕にはレーザー・カッター・アタッチメントが握られている!

そしてキットの右腕にもレーザー・カッターが装備されている。

だから洋二は近づいてくるキットの右腕を切断した!

落ちた右腕を音矢が拾い、そのレーザー・カッターで竜馬に切りかかる!

勿論、その動作の後には洋二もレーザー・カッター・アタッチメントで竜馬に切りかかる。

エンマコンマの跳躍力で、蹴り技を駆使し、両腕の無くなったハヤテがキットを攪乱する。

二刀流の竜馬は洋二と音矢のレーザーの刀を辛うじて捌く。

織豊竜馬、胆力と自信はあっても訓練もしていない素人に過ぎない。

―推し切れる!

頭上のキットはハヤテが捌いてくれている。

そのキットとの混戦でライフルとビームは狙いが定められない。

ドリルとクローの到着まであと十数秒かかる。

洋二は勝てると確信した。

だからレーザー・カッターを振りかざした!

それは一瞬の出来事。

順を追って説明する。

まずキットは右腕にレーザー・カッター、左肩にレーザー・ビームの砲門を持つ。

近距離戦なので、ビームは使用していない。

だがキットは攻撃だけではないのだ。

胴体の開いた丸状の地場から発生させたレーザーで複数のキット(最低数6体必要。なので、洋二らはあと1体のキットを落としていたらこの勝負を制していた)はレーザーバリアを竜馬の周辺を囲った。

レーザーにレーザーは切られず、洋二はこのとっさの防御、ジャンプで退いた。

空中の洋二を豊島により右脚大腿部をライフルから発射された弾丸で狙撃され、胸部をエプスタインによるレーザー・ビームが貫く。

音矢がこの事態に直ぐに気づいたが、後方からくるクローとドリルに応戦するの手一杯。

ハヤテが洋二に駆け寄るが6体のキットに守られた竜馬が歩み寄る。

―だが、バリアを解除しないと攻撃はできない!

これは洋二だけでなく、ハヤテと音矢も思ったことだ。

しかも自己顕示欲が強い竜馬だ。

トドメは自分で刺したいハズだ。

音矢は同盟に入る前にせしめた武器のうち一つ、手榴弾を持っていた。

それをクロー伊都とドリル胡桃沢に投げる。

投げたタイミングは竜馬の周囲のバリヤが解除された瞬間だった。

更に音矢は自分の持っていたキットの付属装備であるレーザー・カッターを洋二に投げる。

洋二は受け取り、本当に最後の最後のひと太刀を振り上げる。

キットがレーザーバリアを展開するのには最低6体必要という情報はハヤテにはなかったが、蹴りで一体のキットを抑えた!

その炸裂音と白煙でひるんだのは竜馬。

―今度こそ!

その洋二を空中からの高密度のレーザービームが襲った。

左半身を丸々持っていかれた洋二。

洋二の奇襲とその敗北、その原因たる空中からのビーム、竜馬も流石に動転した。

『一回めは作戦だろうけど、今の二回めは言い訳できないよ!』

脳内通話の声は天田有紀。

もう必要なかろうという判断であろう、ハヤテや音矢たち敵エンマコンマにも受信させている。

そしてその声の発信元は頭上!

巨大な空中母艦が近づいてくる。

上空100メートル程の位置で制止。

ジャゴダイダイ、全長約50メートル、キット12体を常時装備し、レーザーシャワーという爆撃ミサイルの代わりにレーザーを地面に降らせる砲門を装備。

ミサイルであると地上を破壊したり、痕跡を残すが、ビームならば密度と口径を絞ることで目標物だけを破壊することが可能という隠密行動の多いエンマコンマの運営に適した兵器である。

キットの複数操作、レーザーシャワーの調整、勿論艦自体の運営と操縦でエンマコンマが三人必要で、今回は天田有紀、韓璃音、清墨リイナがそれに当たる。

今回の戦いで、ジャミングをして通信を妨害したり、逆に傍受されていたのはこの艦の仕業で、途中から地上のエンマコンマ7体の取りまとめをしていたのも同様だ。

着地することが専用のドックでないとできないジャゴダイダイなので、艦内から小型の飛行艇が数台でてくる。

―ああ!もう終わり、か。

その飛行艇は仲間を回収し、敗れた三体のエンマコンマを回収し、解析し、実験体や竜馬たちのスペアパーツとして使うのだろう。

『賀藤、逃げろ!』

もう盗聴されているもいないも関係ない、ハヤテはそう伝えてから、やることは半壊して倒れる洋二の上に覆いかぶさることしかしできなかった。

が、音矢は音矢で、スキを見て逃げる努力をしても、クロー伊都とドリル胡桃沢の攻撃を避けても、ジャゴダイダイからたった今排出された分も含め、18体のキットに囲まれている。

その躊躇を伊都に見透かされたようで、ふくらはぎを爪に両足とも貫かれ、地面に縫われるカタチとなった。

ハヤテの下にいる洋二はもう動かない。

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