第52話 平岩砂子 1


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「弓、早く戻る。それまで隠れていてくれ」

音矢はそう云うとトレーラーからレーザー・ビーム・キャノン・ユニットで発進した。

イヴィトール・ユニットに比べると滞空時間は少ないが、飛距離は同程度であるし、なにより到着時に直ぐ攻撃できる。

一瞬、南青山のペントハウスに行くことがよぎったが、そのタイムラグ数分で洋二とハヤテが死ぬことになることをなにより恐れた。

自分らが足手まといになることを恐れた砂子だったが、今度は誘拐され、人質になることを避けねばならないと考え始めた。

人混みにいることは最適だったのかもしれない。

実際、同じ公園にいても広いから見つからない、は事前に官憲を使い無人化したことと、天田有紀、韓璃音、清墨レイナの三人が操る〈モノ〉の索敵システムから逃れられない。

他の場所を考えるより、公園に近く・最悪の場合は青春共和国ビルに逃げ込めるこの歌舞伎町を選んだのは消去法としてはこれしかあり得なかった。

―ここにいる二人はカタギだ。

砂子はなによりそれを心掛けた。

その精神テンションで彼女のレーダーに引っ掛かった男がいた。

肩を叩き、「カズシ、久しぶり!」と砂子は声をかけた。

「す、砂子じゃんか。あ、あの時はすまなかった。謝るよ」

「あれは店長がやったことだ。気にしてない」

「こ、これ、おまえかハヤテが持つべきだと思って、ずっと持ち歩いていた。あげるよ」

砂子はカズシから渡されたモノに重さで気がついから、直ぐに返そうと思ったものの、これは役に立つかもと走り出す足を緩め、踵を返した。

―青春共和国のカフェに行こう。あすこなら広いし、絶えず人が多い。

カズシとこの街で出会ったのは偶然だった。

他に行くトコがないのはカズシも同じで、本来ならばもっと早く再会していていいハズだった。

それが今の今まで会えなかった。

「おう、砂子じゃん、か。最近高校で見てないと思ったら、又古巣に戻って来たか」

この男、サドルは歌舞伎町でたむろしていた頃からの仲間だった。

ハヤテもよく知っていたし、地頭は良いから青共学園に入学していた。

「私、卒業したんだよ、春に。知らなかった?」

「あ、俺より年上だったのか、学年とか関係ない学校だから、今の今まで知らなかったよ」

―そう、私たちはお互いのこと話さない。

砂子が藍と弓が少し怯えている。

だから「コイツは私の古い仲間で、今はフツーに高校行っている。心配しなくていいよ」となだめると二人はひと息ついた。

サドルも二人連れていた。

両方青共学園の制服を着た男の子だった。

「青共ビルで今は働いているんだ」と砂子は云ったが、それはハヤテの近しい存在ということから席だけを置いてある状態で、それでも正規雇用扱いなので、まったくのウソというワケではない。

「ヘー、オレらも例の選挙の手伝いバイトで学業終わってからの22時までさ、一緒に行こう」

サドルがそう云っている時に連れの二人はどこかに電話をしていた。

青共ビルに着くとサドルが云う。

「ここのビルさ、図面では書かれているけど、実際には入れない地下室があるんだよ。知っていた?」

「いや、知らないけど」と砂子が云うと業務用エレベーターのボタンの上下をリズミカルにサドルが推す。

扉が開くが、そこにカゴは来ておらず、真っ暗な空洞で、奥にドアがある。

「ほら、その奥から入れるよ」

これは織豊竜馬が救国ガーディアンズが自分の部隊になると思っていた折に、そのオフィスが拠点の地下にあるのは面白そうと作っていたものだが、今はエンマコンマ実働部隊の竜馬はとっくに忘れている。

そのもの珍しさは砂子と弓の好奇心を刺激した。

あの藍も警戒心を解いたのは、自分が一目を置く友達二人が信じているから、という心理状態だったからだ。

サドル、サドルの連れのメガネ、砂子、弓、藍、サドルの連れのチビの繋がりで歩いていくが、砂子が藍のいるところまで、フッ飛んだ。

「オマエ、野原ハヤテのオンナだよなぁぁぁぁぁぁぁ!オレはあの要塞ホテルの銃撃戦で左手が義手になり、左目が潰れたんだよ!知っているか!?救国ガーディアンズを知らないとは言わせないゼ!」

砂子はこのメガネに蹴られたのだ。

細い・柔らかい腹を力任せに蹴られた。

―確かに左目に光彩が無い。

砂子は妙な得心をした。

救国ガーディアンズはほぼ全員の30名をあのエンマコンマ内乱で遣わされ、全員がなんらかのケガを負った。

入院した重症の8名以外は、好待遇で見舞金や働き先・転校先を世話された。

エンマコンマは殺さなくても頭を斬り飛ばせば、無力化できて、そのパイロット・ボールを延命措置に繋ぎ・延命液に浸せば、半永久的に生きられると判明した今、素人のガキは必要ない。

エンマコンマという騎士に対して、占領や警護が必要な時の兵士が必要ならば、傭兵を雇えばよいだけだ。

「足立って、知っている?ここいらでは無名だったけど、一時期、六本木あたりでブイブイ言わせていた半グレ集団扱っていたインテリヤクザのど変態!足立を殺さないで、吸収したせいで、ヘンタイが大勢、この青春共和国や青共学園に入り込んでいるゼ!オレもその一人だけどな」

チビはその足立のかなりの下っ端だが、行き場の無い家出少年たちの集まりの救国ガーディアンズより、職業犯罪者としてはプロフェッショナルであった。

「さっき、この二人、電話していたじゃん!救国ガーディアンズでアンタのカレシに恨みを持つ連中、足立の半グレ組織の残党、連絡網回しといたよ」

砂子は三人の中で一人冷静だった。

ハヤテの親友の恋人二人、いや、自分に初めてできた同性の友達二人を守る意思が恐怖より勝った。

弓は殴られるどころか、未だ一切触れられてもいないのに、頭を何度も何度もハンマーで殴られているような心持ちなり、涙が止まらなかった。

藍は、藍は初めて味わった、絶対的な無力感を、男のイジメっ子や父親を相手しても一切ひるまないあの藍が全身の震えを抑えるために両手で両肩を抑えている。

「おっ、まずは救国ガーディアンズの生き残りの片端者の4名が到着しましたぁ!」

最後の一人がドアを素早く締める。

そしてサドルが高らかに謳う。

「さぁ!レイプ祭りの始まりです!」

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