第50話 賀藤弓 4



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「そ、それは、藍さんさぁ、男と女のことを判っていないんだよ!」とハヤテ。

「私は女だから、女のことは判る!」と藍。

「なんか、ハヤテさんはそれができないワケがあるようだから、この場じゃ、言い辛そうだし、私たちちょっとお手洗い行ってくるから、兄ちゃん、聴いといてよ」と弓。

というワケで、女の子三人は女子トイレを目指した。

「野原、おまえがどこに行こうと、最後まで付き合うのを約束するよ。言ってくれ、何が理由で砂子さんと付き合えないんだ」と音矢。

「おまえらと同じだよ」とハヤテ。

その言を聴いた時に音矢はハッとしたが、洋二は横で着信音をしたから電話に出ていた。

「うん、うん。そう、判った。こっちでも聴いてみる」

洋二は藍からの通話内容を説明する。

「藍からだったんだが、実は砂子さんにもハヤテさんと付き合うのを躊躇する理由があったらしい」

「ほら、やっぱりイヤなんだよ、満足させてあげられないのが!」とハヤテ。

「あ、それか、理由」と洋二。

「いやぁ、好きな女の子を満足させてあげられないのは男のプライド、ボロボロになるゾ」とハヤテ。

「最近読んだこだまっていうエッセイストの本にも夫のそんな心理が描写されていたな」と音矢。

「だから、ハヤテの方の砂子さんと付き合えないワケを女三人で協議してもらい、逆にこっちは砂子さんのハヤテと付き合えないワケを男三人で協議することでどうかと提案するのはどうかと藍と話し合ったので提案する」

洋二のその台詞に対し、音矢とハヤテは肯定の意を示し、洋二は藍に電話した。

念のため書いておくと間抜けなことに数メートル先同士でやり取りしている。

洋二が藍にメールを飛ばすと、その2秒後に藍から洋二にメールがくる。

洋二、文面見て、クスりと笑う。

「おい!見せろよ!鮎川!」

この声は音矢で、ハヤテは音矢のように手も伸ばさない。

諦めた洋二は音矢にスマホを渡す。

音矢も画面を見て笑い、その二人の表情が気になったハヤテに音矢は洋二のスマホを渡す。

自分の身体の変化、それに伴う能力と普通の人間ではなくなったことを三人の女の子の中でいちばん詳しく知っていたのは砂子だった。

―そのままの容姿で歳を取らないハヤテに自分だけ衰えていく自分を見られたくない。

これが砂子から弓が聞き出して、藍が送り、洋二がハヤテと音矢に出した砂子の付き合えない理由だった。

トイレの方から女性の笑い声が聞こえる。

それはハヤテの付き合えない理由を笑う三人の声だった。

その笑いをかき消したのはスマホの画面を凝視する音矢のとてつもなく険しい表情だった。

音矢はその顔のまま、店内を見渡す、続いて窓に近づく。

障子を開け、ガラス窓を開ける。

すると池の対岸が見える。

その対岸にあるあずま屋がその瞬間、爆発した。

店内には洋二たち6人以外に離れて座る2グループがいたが、彼らも直ぐに窓に駆け寄った。

周囲の公園内を散歩する者たちも伏せたり、爆発の方向を見たりと反応は様々だが、ともかく今この場にいる者で気づかぬ者などいるハズもない。

―まさか!今まで表に、一般人に、官憲に気づかれないように動いてきたエンマコンマ同盟だぞ。

音矢はかけない汗をかく。

先に険しい表情の時に脳内で聴いたのは竜馬の声で「窓の外を見ろ」だった。

「賀藤!竜馬たちか!」とハヤテ。

「ああ」と答える賀藤は又連絡を受けている。

「野原、賀藤。新宿中央公園に来い」これがあずま屋爆発の直前に音矢に送られてきた竜馬からのメールだ。

藍、弓、砂子の三名の爆発音と店内の緊迫した雰囲気をかぎとり神妙な面持ちで席に戻っている。

「今、澤井さんの配下にトレーラーを回してもらっている。元々、対鮎川戦のためにオレが乗ってきたヤツだから近くにいる。あと5分で着く」

音矢はそう云うと素早く勘定を済ませ、大通りに出た。

井之頭通りに出ると直ぐに大型のトレーラーが到着した。

運転席のガラスは黒くて中が見えない。

今、ここにあずま屋を爆発したエンマコンマがいる、女性三人を置いていけない。

そう判断し、なおかつその女性三人の怯えた反応からトレーラーに乗せた。

車内で作戦会議だ。

中央公園から近い歌舞伎町の青春共和国ビルで女性三人を降ろす。

だが、トレーラーで6人で駆け込めば、川嶋美香や運営の関係者に泣きつくと思われる。

では、最初から斗美と元に向かうというのはどうか?

―斗美に連絡が取れない!

これは後に判るが、天田有紀、韓璃音、清墨レイナによるエンマコンマでしか操れないある〈モノ〉の能力による。

(ちなみに〈モノ〉は浜野と熊本が北海道で打ち上げたものではない、それは〈ルソー〉)

ではいきなり南青山の斗美のペントハウスに6人で乗り付けるか?

新宿中央公園に行かねば、何らかの妨害が入るだろう。

あずま屋爆破の示威行為の意味が判らない音矢とハヤテではなかった。

「では、オレと鮎川が新宿中央公園に行く。音矢は青春ビルで三人を降ろしたら、直ぐにユニットで公園に来てくれ」とハヤテ。

「いや、野原!鮎川を舐めているワケじゃないが、その役は鮎川の方がいい。オレと今日やり合った以外のエンマコンマ戦の経験が無い!」と音矢。

「ダメだ!ユニットを使いこなせないだろう」

ハヤテの返事に洋二は「藍を頼んだよ」とだけ答えた。

トレーラーは甲州街道に入る。

「洋ちゃん、ヤバくなったら逃げなよ」と藍。

「うん」とだけ答える洋二。

「ハヤテ、別に私、しなくても気にならないよ」と砂子。

「砂子がいくら老けたって、オレだって気にしないよ」とハヤテ。

この二人が再会することはもう無い。

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