第49話 賀藤弓 3



     3



男たち三人、ハヤテ・音矢・洋二が渋いカオを突き合わせて、眉間にしわを寄せている状態に割って入ったのは藍だった。

「賀藤さん。賀藤さんだと弓ちゃんとかぶるから音矢さんと呼ぶけど、音矢さんは組織でいちばん偉いであろう、その斗美さんの指示に従うのにはウソはないんだね」

「うん。聡明なひとだし、カリスマ性もある。でも僕に探らせているのは竜馬たちのやり方がやり過ぎな面もあるからずっと探らせているんだとも判っている」

あ、この子は喰って・ガールズトークに花を咲かせているだけでなく、洋二やハヤテとの会話をずっと聴いていたのか、という驚きが一人称を〈僕〉に戻させていた。

「その斗美さんは三国志でいう鶏肋状態なのだと思うよ。その竜馬一党を好きにさせたい反面、やり過ぎだから止めたい、の」

鶏肉の肋骨についた肉は食えるが、美味しくないのでわざわざ食べにくい箇所だから食べなくてもよいのではないか、という藍なりの理解。

「ジャッジをつけるために様子を見ることは大事だけど、様子を見ることが目的化している感じがする。当初の目的が仲間であるエンマコンマの安全のため、というフワッとしたものだから、流れに身を任せているふうにしかならなくなっちゃったんだよ」

信服している音矢は勿論、その高みにいるような態度がイヤで逐電したハヤタですら斗美には一目も二目も置いていたが、斗美の弱点を会いもしないで、そこまで突けるとは、と音矢もハヤテもよく食う娘以外の感想を藍に抱いた。

「斗美さん、一度兄ちゃんに会わせてもらったことあるけど、美人で才能がオーラのように出ているけど、かわいいルックスと表情だから惹きつける力もある。けど、それが過ぎるから、誰もがこの人に意見ができないし、間違いを注意して、斗美さんの表情が曇るトコを見たくない、と思わせるひとだったよ」

弓を斗美に会わせたのは勿論音也だった。

―自分に何かあった時の庇護下として斗美と会わせたのだが、まさか弓を守る・弓を守ってもらうとしか考えてなかった会談中にそんなことを考えていたのか。

「あとね、弓ちゃん。斗美さんというひとは一度任命したひと、この場合は竜馬というひとと川嶋美香というひとね。自分が任命したひとに意見が言えないタイプだよ。好きにやってみろ!って上司としては良い上司なんだけどね。言った手前言い辛くなるって、子どもの付き合いでもあるじゃない」

「藍ちゃんさ、多分組織の規模にもよると思うよ。斗美さん、ホントに素敵なひとだなぁ、と会った後に、だって、兄ちゃん!前持って誰に会わせるか言わないんだもん!だから、その後に調べたのだけれど、カドリールってゲーム会社経営して、私も何本か実際ゲームやったけど、センスが良いけど、クリエイターの個性が強い面を統率し、トータルバランスが素晴らしい出来だから、それはプロデューサーであるハヤタ斗美の力量だと思ったよ。だから数十人仕切るには凄いカリスマだ」

弓の言説に多少は斗美と付き合いある音矢とハヤテはうならざる負えなかった。

「そう、今斗美さんって、数千人、いやひょっとしたら万単位の人数を捌いているでしょう。それ以上は別の才能が必要になるよね。で、ハヤテさんはさ、その斗美さんに取って代わりたいの?」

藍の不意のフリにハヤテは驚いたので、ハッとした表情を選んでしまい、「そんなことオレができるワケねーじゃんか」と少しボリュームを抑えて返した。

「うん、ハヤテさん、大勢のエンマコンマ相手にしたから度胸とこの数か月の諜報活動で隠密としての能力はあると思うんだよ。でも、そんなマネして、目的は何ですか?」

藍のいちばん聴きたいことはこのことであった。

最初に例を挙げて褒めたのは砂子の顔を立てたのである。

でもハヤテは黙っていた。

砂子も何も言わない。

「今ハヤテさんがやってることから選択肢は二つしかないと思う。あまりいい関係じゃない織豊とか熊本とかいうひとを潰すか・従えるかして、組織を乗っ取る。それか音矢さんと手を組んで反抗分子をまとめて新たな組織作りをする、どちらかだよ。というか、その二つをやらないで何で独自の調査をしているの?」

藍の言葉に、ハヤテじしんが、

―なんで、やってるんだ!?オレ。

と思った。

「去り難いんだよ。ムカつくヤツらはいるけど、良い人もいる。下世話な話だけど、同じ境遇の人々だし、メンテナンスもやってもらえる。これくらいは学校のサークルやバイト先で学べる」と藍。

洋二だけは無表情だったが、藍の言葉に他の四人は黙って、ハヤテじしんはうつむく。

男三人の中では確実に素行の悪いハヤテを女の子三人の中では確実にいちばん幼くて・ヘンな藍がやり込めたのだ。

「藍、さん。藍さんさぁ、けれども、オレは学校も地元もソリが合わなかった。バイトしても使えねーなぁー!と怒られてバックれた。それで歌舞伎町に流れ着いたが、あすこでは女の子は堕ちた自覚があるから覚悟があるが、男にはそれもねぇから半端ものでしかなかった。オレはさ、じゃあさぁ、藍さん、どうすりゃあいいんだよ」

ハヤテのこの言葉こそ、両親や教師に言うべき言葉であった。

「砂ちゃんと暮らせばいいんだよ」

「藍ちゃん!」

藍の言葉を砂子が遮る。

だが藍は続ける。

「ハヤテさんはエンマコンマ化したんだから、もう働かなくても女一人養えるんだよ、ミダスで。音矢さんと連絡取り合えば、同盟の方はいなせるし、元々不良仲間を助ける義侠心があるんだから、探偵の看板出して、エンマコンマの能力をそのために使えばいい。砂ちゃん、さっき言っていたじゃん。この人と板橋で生活していた時期が人生でいちばん幸せだったって」

藍の言葉に砂子は恥ずかしそうな微笑で答えた。

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