第48話 賀藤弓 2



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公園内の焼き鳥屋というのは、つまり居酒屋であり、女の子三人はまたしても、メニューを広げ、算段し、串ものではレバー・タン・ハツ・シロ・ひなどり・つくね・鳥皮・軟骨・かしらをそれぞれに3本ずつタレで頼み、自家製中華ガツ、鶏のからあげ、まぐろブツ切り、冷やしトマト、ポテトサラダ、モツ煮込みを頼み、高校生を今年卒業した年齢である砂子はアルコールを頼もうともしたが、それは下品だなと止め、藍と弓と同じようにウーロン茶にした。

「ごはん、どうする?炭水化物をさ、求めているよ」と藍。

「焼きそばあるよ!焼きそばにしようよ!」と弓。

「その方がつまめるし、よいんじゃない」と砂子。

歌舞伎町には腐る程に居酒屋があるので、よく仲間と入ったものだが、小食で、飲むと更に食べないので、居酒屋で食べる専門の集いは砂子にとっても新鮮であった。

初めて入った藍と弓からすれば、美味しいものがすこしづつ出てくる店、という面白さを満喫した。

そこで三人は砂子と弓の出会いや好きな科目・嫌いな科目、好きな動物について話し合った。

ただ弓と砂子からはバックボーンである生い立ちと家族の話をしてはいけないような香りを嗅いでいた。

洋二と音矢は斗美ら院生、竜馬や有紀の参加経緯を聴きつつ、三人娘の話に最初は耳を傾けていたのは何か重要な話をしていないかというものだったが、他愛ない話なので、それよりもエンマコンマの情報を尋ねることに没頭した。

それは音也も同様である。

(ちなみに三人娘が話す話は録画や録音もエンマコンマ単体で可能だが、それと複数の人の話を聴き・理解し・適切な返答を返す、はパーソナリティに関連するのでエンマコンマでもそれは不可)

この女の子三人だけで話し、男の子二人だけで話す居酒屋の座敷席にハヤテがやってきて、座った。

音矢は目を合わせるが、彼もハヤテも無言。

「あのさ、ハヤテさ、そこ通路じゃんか、お誕生日席。私の近くに座りたいんだろうけど、そっちは男同士で並んでよね」と砂子。

藍と洋二はハヤテと勿論初対面だった。

だからカタギの女の子として、ハヤテのエンマコンマの身体からでも漂う暴力臭に嫌悪を感じたが、そんなハヤテにピシャリと注意する砂子に一目を置き、すると言われるがまま、音矢の隣に移動したので、砂子に二目めを置き、ぼやくでも睨むでもなく女性の意見で移動したハヤテを少しだけ見直した。

「ビール」とハヤテ。

「やめなよ、どうせアルコール飲んでも仕方ないカラダなんだし」と砂子。

「いやぁ、こういう席では頼むもんじゃないか」

「またまた、その身体になる前から弱くて、ウーロンハイを90分かけて飲んでじゃないの」

「恥ずかしいじゃんか」

「カッコつける方が恥ずかしいよ」

藍と弓は明らかにカタギじゃないであろう砂子とハヤテのこの掛け合いをある意味、憧れのように見ていた。

―これが本当にお付き合いしている男女のやり取り、か。

と。

「ハヤテ、こうやって会うのはひと月ぶりか」

「うん、あん時は全然話せなかったけど」

賀藤とハヤテのやり取りを洋二は見つめていた。

「あンたが鮎川洋二、か。ハヤテ、だ。なんかオレのことを見つめているが、今どう思っている?」

ハヤテのその言葉に、ふとなんの気もなしに「暗そうなやっちゃなぁ、と」と相手や周囲を考えず素直に洋二は答えてしまった。

「そっかぁ、エンマコンマで明るいヤツっていないもんだ。いや、オレの存在自体のことを評しているのか。まぁ、いい乾杯しよう」

店員がハヤテ分のウーロン茶を持ってきたので、彼は切り替えた。

言いだしっぺのハヤテは無言で杯を上げるだけくらいに思っていたし、洋二と音矢は未成年の身なりだし、目立ちたくない気持ちから杯をぶつけるくらいは考えていた。

―こ、これはトリプル・デートだ!

と、三人娘は気づいていたので、「カンパ~イ!」と元気に杯を合わせた。

しかも藍が「これ、トリプル・デートだよね!?なんなんだ!?この青春は!」と発言したために、甘い気持ちが男子三人にも伝染した。

その男たちの反応を見て、女の子三人は笑う。

ハヤテはこういうふうに普通に笑う砂子を初めて見たので、心底嬉しかった。

女の子三人が小鉢や串を食べて、気心が知れてきたのか好み話より体験談を語り始めた。

ハヤテが砂子の笑顔を良く思うように、音矢も弓が友達という存在と仲良くしているトコを初めて見たので、

―これで、オレはもういらないかもな。

と、少し嬉しく・少し哀しいことを思った。

一方洋二は、

―藍って、同性の友達って、今まで見たことなかった。

と特に感動もせずに思った。

「ハヤテ、今度はどこに行っていたんだ」と音矢。

「北海道某所。最近ロケットでやたらデカいもんを打ち上げていたようだ。遠目だが、浜野と熊本がいた」

ハヤテが「熊本」と云った時の表情の曇る変化を音矢どころか洋二も見逃さなかった。

「賀藤、それより、あの川嶋ってのは何を企んでいる?斗美さんたちからおまえが聴いた話とすり合わせたい」

その結果判ったことは、23全区長戦のために立ち上げた政党「若獅子会」、新宿のNPO法人「青春共和国」、白山の学校法人「青共学園」、そしてエンマコンマ支配下の関連企業を全て、まとめ上げ、エターナル・カンパニーというグループ化し、背後に斗美や熊本はいるのだろうが、美香じしんがその代表となった。

「ハヤテ、竜馬たちは川嶋さんのために既得権益を貪る連中を排除するか、隠密テロ行為で恩を売るかして、どうにかして、政財界の一角に食い込もうとしている。

春のエンマコンマ内乱から夏休み直前のこの数か月で事態は更に動いたのだ。

その話を聴いている時に、藍は最近やたらTVやネットで観る23全区長立候補者の川嶋美香はエンマコンマの一味だったのか、と気づいた。

今日は金曜日。

23全区長選挙は今週末日曜に投票が行われる。

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