第47話 賀藤弓 1



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賀藤音矢はエンマコンマ内乱について話し終えた。

食べ放題の制限時間が来たので、4人は歩いて井の頭公園に移動した。

神田川の水源の近くにいる。

「死者は出たのか?」

数秒経た後に洋二が口に出したのは疑問だった。

「出ていない」と音矢。

「まてまて、それはその救国ガーディアンズという若人たちが重症はおっても死者は出ていない、という話だろう。粛清されたエンマコンマ12体は死んだんだよな!?」

―エンマコンマは何を持って死ぬというのか?

これは洋二がこのエンマコンマ化してからの疑問でもあった。

「いや、全員生きている。医療用の液体呼吸液に傷口を浸し、ある程度復元させ、意識は戻らないようにしているが殺してはいない」

「それか、足の悪い男の目的は」

「気づきが早いんで、助かる」

「そう、織豊竜馬は12体のエンマコンマという献体を調べて足の故障を直した。内部も外科手術で調べられたので、エンマコンマのボディに改造すら行っている」

「中はどうなっていた?」

洋二の質問は、この脳内の中、ということだ。

これこそ自分の生存のための最大の関心事であった。

「オレらはコクピット・ボールとよんでいる硬式野球のボールくらいの大きさのプラスチックに似た材質の球状に縮小され、その内部を妊婦の羊水をチェックするように探ったんだが、現在の液体呼吸液以上の分子で構成された治療液と知って、開けた途端にパイロットは死ぬと結論づけたので、開けていない」

これは賀藤の説明し忘れだが、現在、蕨の工場に12体のエンマコンマ・ボディは運ばれ、研究の対象、一部は竜馬のパーツとなるような使われ方をしている。

そして、コクピット・ボールは都内でもエンマコンマの研究やメンテナンスできるように内装を替えられた要塞ホテルの最上階でそのためだけに1フロア開けて保管されている。

首塚と胴塚のようである。

「それが正解、か」

「?」

洋二の言葉を音矢は理解できていない。

「この数か月、この身体になって色々やった。アジトを確保してさ」

「あ、それはオレもやった」

「やるよねー、いや、それ以外にもネット内に探知のためのAI撒いたり、プロパンガスのボンベを用意したり、でも結局、仲間と資金と識者を集めて、組織化する、それが正解か、とね」

「ああ、そういうことか。誰でもできるワケじゃない。斗美さんたちがいたからだ」

「洋ちゃん」と遮った藍が続ける。「この人たちの仲間になるのかい?」

「どうしたもんかなー、途中までは聴いていてよかったんだけど、そのハヤテってヤツを利用したって聴いてからどうも釈然としなくなった。藍も似たようなことを思ったんだろう?」

「うん、だからまずはハヤテという人に会えばいいと思うよ」

藍はそう云うと気配に気づいたように後ろを振り返る。

そこにはショートカットで奥二重、ふんわりとしてブラウスを着た女の子が一人(音矢がエンマコンマ内乱の話をしている合間にメールして呼んだ)。

音矢がその子を招く。

「ハヤテから頼まれた。砂子っていう。同盟に戻らなくなって三ヶ月経つがオレとこの子とは時折会っている。弓子とは数回会っているよな」

音矢の問いに弓は固い表情で、顎を下げることで肯定を表した。

「ということは、あの内乱の舞台だったその要塞ホテルとやらにアンタもいたのか?」

「ああ、斗美さんから見張るように言われていた。だから無責任なひとじゃあないんだよ」

その後、洋二と音矢はハヤテのやり取りやさっき言い忘れた要塞ホテルの改造や蕨工場の話をした。

その折、藍は思っていた。

―弓ちゃん、この子のこと、苦手なんだな。

「砂ちゃんでいい?砂ちゃん、そのブラウス、かわいいな。あとその髪の毛って、何て言うの?」

―髪の毛が、何?って何?

というふうに頭で巡らしていて砂子は気づいた。

「あ、軽くだけのソバージュかけているんだ」

「ほお、前から知ってはいたが、それにはソバージュという名前が付いていたのか」

ヘアスタイルとファッションの話になったから、よけい男二人はエンマコンマたちの動向について話した(今作の今迄と前作の内容なので、読者は知っていることだけである)。

だからであろう、兄と洋二、砂子と藍が話で盛り上がる中、弓は独り、強烈な疎外感を感じた。

なので「す、砂ちゃん!さっき、この藍ちゃんと肉の食べ放題に行ってきたんだ!」と云った。

その落ち着いた物腰と笑わない表情で、兄含め四人で会っても気を遣うばかりで、困っていたのだが、とっさに出たその文言に「だから?何?」とか「子どもだね、ガキ」とか云われると言った瞬間に想起したものだ。

だが「女同士で肉、しかも肉の食べ放題!それはしたことなかった!一人では行ったことあるし、男と行くイメージあったけど、そうか友達と一緒に行けば良かったのか!」と砂子は楽しそうに云う。

「じゃあ、今度は三人で一緒に行こう!」と藍。

「藍ちゃん、さっきすごいんだよ。肉をコスパ良く食べる戦略がさ!」と弓。

「あ?そうか、さっきって、今行ったばかりなのか、立ち話もなんだから、ここに歩いてくる時にいい焼き鳥の香りがする店の前を通って、女一人では入り辛いと思っていたんだけど」と砂子。

「焼き鳥は肉が小さいから大丈夫だよ」と藍。

「さっき豚と牛を食べたから次は鳥だよ」と弓。

「じゃあ、行こう」

と女の子三人で話している時に、音矢の携帯電話が鳴る。

エンマコンマ同士は電脳で通話可能だが、それだと他のエンマコンマからも聴かれるので、このようにしていた。

そう、着信の相手はハヤテである。

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