第6話 LOVE

はぁー。まぁやんなきゃダメだよね。



私はいま電車に乗ってます。

理由?えーと…





「結局、ヴィオレンツァファミリーはどうするの?」


「…自分で行ってくるよ。」


「それって信じていいやつ?一応私にも非が…」


「もとからいずれ捨てるつもりだったんだ、別にかまわないよ。」




だいたいこーゆー感じ。


向かう先は私のファミリーのお屋敷。

目的はファミリーの決別、あとジータのお店の件も聞いておこう。



「…ご乗車、ご降車の際はお気をつけ下さい…」


いつの間にかこの車両にいた乗客は降りるか別の車両に行ったりして、私1人だけになっていた。



コツン。


乗客が一人、白いスーツの男。


「こんにちは、お嬢。」


「こんちゃ。」


そう言った私は斧を取り出す。

やって来たのは、私の世話係だった。



ポイっ。


あ、そういえばこ

ドガァァァァァァァァン!!!



「言いつけなんです、どんな手を使っていいと。私の『好きな』方法で行かせてもらいます。」


車両はアニメに出てくるチーズみたいに穴だらけ。壁は黒く焦げつき、大量の煙が車内を満たす。これじゃ燻製チーズだ!



「…さいっこうだね?ジェンティル?」


「はい、さいっこうな気分です。お嬢。」


無駄なやり取りの後、私は大振りで斧を振る。


ガァァァァァァァン!!


「…?」


どこからともなく、黒い…大砲?が取り出され、攻撃を防がれる。

嫌な予感しかしないのは私だけだろうか。


「…何それ?新作?」


「はい、異国の軍兵器を少し細工したものです。」


そう言った彼は、即爆弾にしか見えない物を取り出す。


「いやぁー。ちょっとキレキレ過ぎるね。」


バァァァァァァァァァン!!!


爆風と黒煙が再び車内を埋め尽くす。


「ゲホッ、ゲホッ…」


あいつが見えない…。


あの狂人は何をしてくるか全く読めない。

ここは迂闊に動くべ…。


コロコロ…


黒煙から飛び出してきたのはまたもや爆弾。


バガァァァァァン!!!


まじでイカれてる―――――


「はぁ?」


爆発が起きて間も無く、血を流し、左目に大きな傷を持ったジェンティルが突っ込んできた。

あのブツを構えながら。


ドゴォォォォォォォォォォォン!!!!






…あー最悪。


身体中に打撲、何かの破片も刺さりまくってる。この痛みは形容したくもないね。


斧は、大きなへこみと共に大きな亀裂が入っていた。


ここは…一つ前の車両か。ガードの上から来るとか反則だろ…。


ぺっ

血を吐き出し、邪魔な小さな破片だけを抜き取る。


大きな破片は抜くと重出血の恐れがある。当然それでも抜いた方がいいが、止血する暇などない。邪魔だけど抜く選択肢はない。


痛みに構う暇なんてないんだよ。



「…お嬢、後悔はありませんか。」


「…いまさらなんなの?」


「無理な理想は空虚な妄想です。意味がない。ただ無駄死にの運命に身を置く必要があったのでしょうか。」


ジェントルは続ける。


「この世界に嫌気が射す者は少なくない。だが、そこだけで終わってしまうんです。リベルタの娘の末路など、たかが知れています。」


至極真っ当な意見だ。

昔の私なら、そう考えていただろう。


「確かに、笑えるよね。こんな無謀な理想、この世界で生きていくにはいらない。」


私は吐露する。


「私ね、本気でファミリーを潰すか考えたことがあったの。でもそれって結局ここのルールに縛られたままなの。…ジータは、そのルールをぶち壊そうとしてるの。私も、あんたも、等しくクソみたいな状況に置かれてる。みんな瀬戸際にいるんだよ、ギリギリを生きている。」


「…。」


だから、楽しもう?

このドロッドロのドブでさぁ!!!

笑おうよ!!


全部ブチ撒けちゃいなよ!!!!


「あんたの言葉だよ。随分頭が寒くなっちゃったみたいだけど。」


ジェンティルはそれを聞いて、笑っていた。清々しいほどに。


「特に口を聞いた意味はありません。最初から始末するつもりでしたから。」



私は瞬時に距離を詰める。


だが、なぜだ。ジェンティルが動かない。あいつは、構えもせずに突っ立っている。

その姿はまるで老人のようだった。

だが、眼には羨望が篭っていた。


カチッ


私は思わずガードを固める。



…何も起こりはしなかった。


ジェンティルは動き出す。先とは違うボタンを握って。

服の傷の隙間から、赤い赤い爆弾が見えた。


カチッ








車両は壁がそり返り、床に大きな穴が空き、黒い焦げが引っ付いて、赤い火の粉が舞っていた。


まるでお花みたいだった。


ジェンティルが、血の中で伏していた。

腕が吹っ飛び、臓腑が飛び出していた。



私は、生きていた。

あれ程の爆風のなか、何故か、生きていた。



血の中で波紋が立っている。


「さっさと、死ね。」



……楽しかったよ。またね。


私は止血を済まし、痛みと共にこの場を去る。



波紋は既に凪いでいた。

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