第4話 ファミリーの行方

刃はすぐ目の前まで迫っていた。



カチッ。



ガキィィィィィィィィィィン!!



「…鈍ってる訳じゃなさそうだね。」


私は剣で刃をギリギリで止めていた。

体全体に震えが走る。



「…お前、マジにイカれてるよ…!!」



剣身を滑らせ、ラブをなんとか引き剥がす。

甲高い音が耳を突き抜ける。


「いいの持ってんじゃん。家から取ってきたの?」


なぜ急に剣が出てきたのか。

この剣は「変形」が可能だ。

最初はタバコの箱くらいの大きさだが、スイッチを押すと瞬時に変形する。

刀のように強靭で、レイピアのように細い剣となる。


リベルタファミリーのトレードマークだ。


「うっさい…!!」


ダッッッ!!!


私は瞬時に距離を詰める。


「そうこなくっちゃ…!」


ラブは思い切り振りかぶる。



バッッッ。



「え?」


「ちょ、どこ行くのーっ!?」




私は全力疾走で逃げた。



…あんなイカれポンチとまともにやり合えるかよ!

最初に一撃を受けた時、明らかに力負けしていた。

正面からじゃ勝てない…。



後ろから微かに駆ける音が聞こえる。


そうこなくっちゃな。



「ジーター!なんのつもりー?あそぼ…」


「…あれ、この方角って…ホール?」




バリィィィィィィィン!!!


「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!」


私はホールのガラス張りの壁を突き破る。

エントランスにいるのは受付一人だけみたいだ。

…さすがにバカやりすぎか?

いや、あのイカれに勝つには足りないくらいだ。



続いてラブが入室。


「ひゃっはー!なんだか昔を思い出すなぁ!」


どうやらまだ会場は演奏中のようだ。軽快なジャズが聞こえてくる。おかげでまだ騒ぎは大きくなっていない。



「ねぇー。逃げてないでさー、遊ぼうよー!」


すぐ真後ろで声が聞こえる。


「…いいよ。付き合ってやるよ!!」


私は剣を振りかぶる。



ガリリリリリリリッッ!!!


大量の火花が飛び散る。

衝撃が体を駆け巡り、外へと飛び出す。

やはり力で押されている。ただ押し合うだけじゃ勝ち目がない。



カチッ。



「…!」



剣が瞬く間に消滅する。変形を解除したからだ。


ドゴォォォ!


ラブの斧が支えを失い、床に突き刺さる。


私は瞬時に身を屈める。

足に力を込め、腰の回転で思い切り顔面を殴る。


ブフッッ


ラブの身体が後ろにすっ飛ぶ。



「…いいねぇ。面白くなってきた。」



…まるで効いていなかった。


「なっ…!?」


斧はとっくに回収され、無造作な穴だけが残る。

もう一度刃が向かってくる。


ガァァァン!!ガァァン!!!


距離を取る暇もなく、重い攻撃にガードを固める事しかできない。

腕に何度も振動が走り、握り手が緩みかける。


「ッッ…!!」


「あはははははは!!!」


ズブブッッ。


「いっっ…!!」


上からの攻撃が防ぎきれず、肩に斧がめり込む。熱く赤黒い液体が溢れ出す。



「さいっこうだよ!!興奮がとまんない!!!!」


ボゴォォボゴォ!!


腹に拳がぶち込まれる。口の中が鉄の味でいっぱいになる。


「かはっっっ…!」


廊下の壁に追い詰められる。どんどん逃げ場が無くなっていく。

ヤバい…このままじゃ…死ぬ!!



…いや、なんでこんな弱気になってるんだ。


私は決めただろ。この世界を変えるんだろ。



…こんなところで、負けてられねぇんだよ!!!




ブゥゥゥゥゥゥゥゥッッ!!



私は口の中の血を思い切り吹き出す。


「うっ…」


ラブの目が血で覆われる。



ブォォォォォォンッッ!!



それでも斧が振り下ろされる。



ドガァァァァァァァ!!



膝を降り、首を曲げ紙一重で斧を避ける。

後ろの壁が派手に損傷し、今にも崩れそうだ。


最後のチャンスだ。




「もっと楽しくしてやるよッッッ!!」




私はラブの胸元を掴み


壁にぶち投げた。


ドガァァァァァァァ!!!



壁を突き破り、二人はその奥に吹っ飛ぶ。


その奥は…ホールの客席だった。


客達の視線が私達に釘付けになる。


私達はそのまま客に突っ込み、床に跳ね返される。


「なんだテメェらは!!」


「まて、ヴィオレンツァの娘がいるぞっ!!」


「あのもう一人は誰だっ!!」


私はいち早く起き上がり、周囲を見渡す。


周りはマフィアだらけ。だがアイツらは他のマフィアの抗争には手を出さない。自身のファミリーが抗争に巻き込まれる可能性があるからだ。



今最も警戒すべきは…ヴィオレンツァの奴らだ。


「動くなっ!!」


上にいる男達に拳銃が向けられる。



「…は?」



私は動けなかった。


目の前の光景が、余りに衝撃的だったから。





サクッ。



男達の首が……….飛ばされていた。



「いまお楽しみの時間なんだよね。邪魔しないで?」



ボトッボトッ。


首が私のもとへ転がり落ちる。



私は呆れを通り越して関心したよ。

彼女の狂気的な執着心に。



「…ラブ、あんた、マジにイカれてるよ…。」


「そりゃどーもぉ!」



会場内は一気にざわめき始める。


「身内で殺し合ってるぞ!!」


「イカれてやがる!!」


「いいぞっ!もっと殺し合えよ!!」



最後の攻防が始まる。



ガァァァァァァァン!!!


彼女は上から飛び降りて攻撃してきた。


それを私は受け流し、手数で押し返す。



無言の攻防が続く。




…それを打ち破ったのは、ラブだった。


ラブは攻撃の合間を縫い、足払いを仕掛けてきた。


私は対応できず、倒れこそしないものの、隙ができる。



彼女はそれにコンパクトな振りで最速の攻撃を繰り出す。


キィィィィィィン!!


それを読んで私は剣身を置いていた。


私は剣のスイッチに指を置く。



ラブは二手先を読んでいた。


彼女は力を抜き、高く斧を振り上げた。私の剣は支えを失い、空を切る。


彼女は万円の笑みで零した。


「楽しかったよ。またね。」





私も、笑い返してやった。


私は「三手」先を読んでいた。


スイッチも、支えを無くし剣が空を切ったことも、全て「ブラフ」だ。


私が切り拓いた、唯一の勝ち筋。


「あぁ、そうだな。さよならは、お預けだけど。」


全力で剣を上に振り上げる。




カァァァァァァン




斧は、持ち主の手を離れ宙を舞った。



私は瞬時にラブを押し倒す。


彼女に剣を向ける。


剣の切先は、喉元を捉えていた。


「…強いね、ジータは。これで78敗目だ。」


「…79勝目。ラブにひとつ勝ったね。」



会場のざわめきは、いつのまにか沈黙へと変わっていた。



私は彼女に無言で手を差し伸べる。


彼女はそれに応じる。


私たちはステージへと上がる。楽器こそ置いてあったが、演奏はとっくに鳴り止んでいた。



私は宣言する。





私の名はジータ・リベルタ。


最後のリベルタだ。


そして今日、リベルタファミリーは甦る。




お前らを、この腐った国を、ぶち壊すためにな。




会場は、変わらず沈黙だけが広がっていた。


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