第3話 愚人
隣から大量の血が流れている。溢れる血の匂いに思わず顔をしかめる。
「いやー、まさかこんな所で会うなんてね。つまんないジャズも聴いてみるもんだね?」
足音の主は、既に私を捉えていた。
声色を聞くに女か?
私は相手を睨み返す。
え?
あまりにも予想外の相手だった。
「ラブ…か…?」
「ひさしぶりだね、ジータちゃん♪」
私のファミリーがまだあった時の話だ。
数年間、とあるマフィア生まれの女の子が預けられた。
名前は、「ラブ・ヴィオレンツァ」。
「なんでラブがここに…。」
私は困惑していた。風貌こそほぼ変わらないが…
なにか、なにかがおかしい。
「あ、もしかしてお取り込み中だった?」
「ごめーん、なんかヤキモチ焼いちゃって。」
「いや、そうじゃなくて…。なんでここに?」
「それはコッチのセリフだよ。なんでこんな変なとこに?」
私はラブと少し話した。
ラブとは同年代ということでまぁまぁ仲が良かった。
父さんはいい機会だと私達をよく手合わせさせていたんだ。実力は拮抗していて、よく勝ち負けを繰り返した。
ラブはファミリーに戻った後も、私の屋敷で過ごした日々が忘れられなかったらしい。
そして4年前、粛清が起こる。その時、彼女のファミリーの一人が参加していたそうだ。
私は、あの日の出来事が頭から抜け落ちている。
人はあまりのショックに記憶が抜け落ちることがあるらしい。それを知っているのに、思い出す意欲が湧くだろうか。
…とにかく私がその一人に襲われたと聞いた彼女は、そいつを嬲り殺してしまったそうだ。そうした理由は本人にも分からないそうだ。
彼女はボスの娘ということでなんとか追放は免れたが、ファミリー達からは「とんだ無能」のレッテルを貼られているらしい。
そして現在に至る。
「…だからね、私はファミリーのなかで邪魔者扱いなんだ。別に気にしてないけどね。あ、ちなみにその死体、うちのところのだよ。」
「じゃあ、なんで殺して…。」
「君を見つけて興奮しちゃったから!まぁ別に気にしないでよ。」
だったらこいつに聞けばいいか。気分を害す心配もないし。
「…一つだけ聞きたいことがある。」
「なんだい?」
「先日のレストランの襲撃事件、そっちのファミリーが関与しているらしい。何か知らない?」
彼女は全く迷わずに即答した。
「どこかのファミリーに頼まれたらしいよ!でもうちにメリットがある感じじゃ無かった。多分、強制に近い頼まれ方だったんだろうね。」
謎が謎を呼んでいる…。もっと単純な話ではないのか?自分が言うのもおかしいが、そこまですることだろうか?
思考に耽っていると、やはり彼女から思いもよらない言葉が走る。
「…昨日の事件、ジータがやったんでしょ。すごくきれいに殺られてたらしいじゃん。」
「……。」
「図星かな?分かったよ。ジータがやりたいこと。」
「ジータ、君マフィアのやってることに怒ってるんでしょ。君は優しいからね。そして、奴らに痛い目合わせるために情報集めしてたってところかな?でももっといい場所ある気はするけど。」
さすがにバレるか。
私は渋々話すことにした。
「…そうだね、当たりだよ。早く情報を集めたかったからここに来たけど、流石に安直すぎたね。おかげで君に見つかるし、情報源は殺されるし…。」
「あー…。ごめん、やっちゃったね…。」
ラブは驚くほど落ち込む。
以前はこんな感情の起伏はなかった。やはり違和感を覚えてしまう。
「あ、いい事思いついたよ!」
今度はいったい何なんだ。
彼女は突然顔を上げる。
「私、君の仲間になるよ!もちろん情報も教えてあげる。新しくリベルタファミリーつくろうよ!」
「…は?」
頭が掻き乱される。
荒唐無稽な発言に、言葉に頭が置いてけぼりになる。
「ラブ、本気?それって自分のファミリーを裏切るってことじゃ…。」
彼女はそれに対して、至って冷静に答えた。
「うん、本気。あ、一つ条件付きでね。」
そこに至った経緯はまったく意味不明だが、美味しい話ではある。まだ混乱は拭えないが、私はその条件とやらを聞く。そう、聞くだけだ。
「それは…?」
「私と『殺し合い』をしよう?昔みたいにさ。君が勝ったら仲間になるよ。楽しそうって思わない?」
頭がショートしそうだ。頭から火花が飛び散るんじゃないか。マジで。
「…話にならないよ。」
私がそう言うと、ラブは歩き出した。
彼女は、一つ言葉を発する。
「言っとくけど、拒否権はないから。」
ラブは死体に刺さった斧を持ち上げる。
刃に付いた血肉が垂れている。
身体中に冷や汗が飛び出す。
彼女の言葉から滲み出る狂気は、私に十分過ぎるほど届いていた。
「楽しもう?ジータ。私興奮しちゃうな。」
その言葉の直後、彼女は私の目の前にいた。
斧に付いた血の軌跡が、綺麗な弧を描いていた。
その刃は、私の首に向いていた。
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↑ラブのキャラ画像
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