第30話 もしくは、私が付けるべき決着

027

『______が、嫌いではないよ』

弾丸が、壁に突き刺さる。

「……少年。君ィ」

「……情けか」

『あぁそうだ。情けで生かす。』

ガンスピン______回して、背中に回し込む。

『20秒だ……20だけ待ってやる。逃げろ』

「!」

「……いい加減にしたまえ、少年。生かす気か」

『えぇ』

「……本気か」

『はい』

「……殺せ、と言ったら」

『そうですね……抗いましょうか、この身尽きる迄』

「……」

『……』

睨み合う______響き渡る雨杭の固唾。

「……はぁ、そういう所……本当に、本ッ当に甘いね」

『性なんですよ、生憎』

「……向在。何も言わずにこの場を去れ。礼も許可しない。消え去れ」

「……!」

暫く迷う向在。

______が、直ぐにその背の階段を上っていく。

「は、はぁ……」

「屑が」

『全員屑で残りカスみたいなモノでしょうよ。今生きてる人間なんて』

「その中でもトップランカーに屑って話だよ……ったく、なんで逃がすかな」

『まぁまぁ、次の階層もスキップ出来るんだし……良いでしょう?』

「よくないよこれから襲われる可能性もあるだろうし」

『そんときゃあ責任持って殺しますよ』

「だったら最初から殺せと」

パリン、と。

ガラスの割れる音がした。

「……行ったか」

『飛び下りて行ったぽいですね』

「と、飛び下りて……?ここ8階……」

『ベクトル変更もあるしね。まぁ無事でしょうよ……行きますか』

「……次は殺せよ」

『人によりますね』

028

窓の割れた8階層を無視して、9階層。

重々しい扉を開ける。

妙に埃っぽい空間に、一人が佇む。

『______ラスボスかと思ってたけど』

「末端なモノで」

『末端は9階層なんか任されませんよ______白々さん』

銃口を向け答える。

白々は未だ動かない。

「……目的は、あの魔法ですか」

『そうだ』

「なぜ、そこまで拘るのですか」

「______私の、母の為に」

「……あぁ、そうでしたね。問うべきはこの少年では無かった」

雨杭の方を向く。

「……書店院さん」

「なんだい」

「行かせて下さい」

「許可する」

そっと雨杭の背中を押す______近付く。

『……良いんですか?』

「これは雨杭が付けるべき決着だ」

「さて、どっちが勝つか……」

『どうしようも無くなったら援護しますね』

「どうしようも無くなったら、ね」

やがて、遇敵。

見つめ合う二人。

「……一つだけ、良いですか」

「どうぞ」

「なんで……轡さんを、殺したんですか」

「どっちにしろあの場面じゃあ死んでたでしょう」

「いいえ、本来なら生きれていた筈です。

あの弾丸はあくまで跳弾______威力はある程度落ちていた。

当たっても、気絶する程度位には」

『……すごぉ』

「読まれてたねー完璧に」

一応バレない程度に弱めたつもりだったけど……やるな。

「……そこまで読めていましたか」

「でも、貴方は殺した……その手の銃で、轡さんを撃った」

「えぇ、確かに」

「……大切な人では、無かったんですか」

「大切な人だった」

「なら、なんで______」

「故に、殺した。己の気持ちに決別を付ける為に」

「……分かり、ました」

雨杭が、手に持ったスイッチを起動する。

空間から構成されるアーマードスーツ、が、雨杭を覆い尽くす。

「……魔法で構成されたスーツ……なるほど、強い」

「______神様。私は生まれて初めて……人を、殺します」

「……もうこの世には居ない、神に祈りを捧げるのですか」

「そうでもしないと私は、人を殺せません」

「弱いですね」

「弱くて結構______私は、そうやって今まで生きてます」

「……」

白々が、銃を構える。

雨杭が、剣銃を構える。

「______ならば、私は否定します。

貴女の生き様を……否定して、否定し尽くす」

「私は、貴方を否定しません。ただ肯定もしない」

「存分結構……さぁ、始めましょう。生き様の押し付けあいを」

「終わらせます。生き様の押し付けあいを」

瓦礫が一つ、地面に墜ちた。

029

埃が散る。

実力は……正直、白々の方が優勢か。

「経験が違うからね______人を殺し慣れているか、否か」

『始めて、ねえ……殺せますかね』

「知らん……が、雨杭にはアレがある」

『使い方によっちゃあ刺さるでしょうね』

火花が散る。

『……中々当てられてんなぁ』

「ちょっと不味い……というか、なんで雨杭さんはアレを使わないの?」

『二択だな。タイミングを狙ってるか……単純に使う暇が無いか』

流石に後者だとは思うけど。

別に雨杭が弱いって訳じゃあ無い。

無いんだが______しかし。

命が掛かってる、命懸ける戦闘と

そうじゃ無い戦闘にはかなり大きい差がある。

プレッシャー。

それも、圧倒的な。

自分の命をチップとして掛けるあの感覚。

俺と書店院さんみたいな頭のネジ一つ二つブッ飛んでる連中ならともかく、

雨杭は一般人だ。

常識人だ。

今まで人を殺したいと思っても、殺した事は無いだろう。

『……流石に、か』

肩からアリルを引き抜く。

「そうだね、それじゃあそろそろ……!?」

『……どした?』

「なっ______マジかぁ……」

『なんだ勿体ぶって』

「ヤバいわ……雨杭さん」

『……?』

「才能、大有りだ」

『だから、何が______』

埃。

が、

妙に今さっきから舞い上がっている。

わざとじゃ無いと、こんなには舞い上がらないだろうというレベルには。

たまたま?

否。

雨杭は、これを狙っていた______というか。

既に発動させていた。

魔法を。

遅延を。

埃で。

その地面に描いた______

「……!」

「貴方は何時から、私が厭冥エンメイを発動していないと誤認していたんですか______ここからは、私の手番です」

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