第31話 久し振りだね

030

ピッタリ5秒、彼女以外の全てが。

『……やっべえ……』

全く持って気付かなかった______否。

気付かされ無かった。

弱いフリをして。

俺達を含める、全てを欺いていた。

「ごめんなさい」

「______!」

それだけ言って、雨杭が白々を地面に突き刺す。

キリスト如く、磔に。

手を釘で通す。

「あのアーマー……武器内蔵!?」

『どうやらそうらしい______いやはや、これは素直に凄いなぁ』

白々を見下ろす。

「……終わりです」

「……貴女のことを誤解していたらしい」

素晴らしい。

貴女はどうやら、十分に強いらしい。

「だが、故に弱い______弾丸誘発Picking Up

「なっ」

白々が弾丸を放つ______と、同時に白々が

「______!?」

『雨杭ッ後ろ』

「技能に、実力が追い付いていない」

発砲。

雨杭の後頭部に弾丸が撃ち込まれる。

アーマーに弾かれるが、確実にダメージは入っている。

「な、なんで動けて」

弾丸誘発Picking Upの能力です。弾丸の位置まで私の身体を移動

______その際に、身体は一度分解されます」

電子レベルまでの分解、そして着弾地点での再構成。

「そして空気は、私の身体ではない」

「______ッ!」

空気が条件と読まれている。

思考盗聴……ではない。

埃の魔法陣を読んだか。

『……流石に、か』

完全に攻略されている。

恐らく言い様的に移動後の空気はその場のモノでは無く魔法による精製。

あまりに、分が悪い______。

「______なら」

「……?」

釘を地面に撃ち込む。

四方四辺。

何をしようと______。

「花咲」

『!?』

まさか、釘自体に術式が______!?

「……無駄です、また」


「こうやって移動すれば______!?」

移動先。

既に雨杭は、その方向を向いていた。

白々の身体に、釘が刺さる。

今度は銃と胸に。

「……魔法を専門に、学んでいました。

ですから______

なんて事も出来るんですよ」

「……少年」

『無理無理』

「だよなぁ」

何やってか全く分からん。

それでも無理強いて予想するなら______あの釘。

恐らく術式の一部を特定の形に能力を持っているのだろう。

最も、それらを全て暗記していないと只の長物と化してしまう訳だが。

『……これは、本当にヤベえの育ててしまったんじゃ……』

「これで、本当に負けです。終わりです」

「……銃も既に書き換えていますか」

諦めて、手放す。

銃が地に墜ちた。

「あぁ、これが敗北ですか。

全く本当、嬉しいモノではありませんね」

「……」

「悔しい、ですね……はは」

「……ごめんなさい」

「謝る事ではありませんよ。

私の殺人数を鑑みれば______当然の事です」

「他のやり方も、きっとあった」

「……」

「でも、後悔はしません______これは、多分。

私に課せられるべきモノだったから」

「……宜しい。そこまで分かっているのなら

______十分です……お嬢さん」

「……はい」

「貴方はこれから、ココに来たことを心底後悔します。

そして同時にあの神の真意も知るでしょう」

……それでも。

それでも、どうか。

「己の信じる道を進んで下さい。

後悔も、残虐も、人死も……幸福も、全てが貴女のルートであり人生レールだ。

だからせめてその結果に辿り着いた時。

自分を恨まない様に」

______進め。

「……」

「さぁ、扉は彼方アチラです」

指を指す。

「門番として以上です。それでは______皆に、祝福が有らんこと!」

息絶えた。

031

「それではこれより、第一次蘇生魔法実験を行う。

対象は、第6層守護のウツリ非対ヒタイ

内容は______生命機能が停止した人間への、

再起能魔法による生命機能停止の否定」

「……大丈夫ですね。何時でもどうぞ」

「協力感謝します、博士。

______開始する」

歪な魔法陣______地面に伏せられたソレが、光りだす。

「おぉ……これが……希望の光か……」

歪む空間。

風が巻き起こる。

「素晴らしい」

「ついぞ、ですねえ」

空中に段々と肉片が生まれていく。

大きく成って。

人一人分に。

「ははははッ!遂に、私の悲願が______」

「……」

そして______

「はは……は?」

博士と呼ばれた男が、ナイフを首に打ち付ける。

跳ね。

飛んだ。

「……まぁ、実験程度だったけど……所詮はこんなモンか。

私の作品と言えど、やっぱり死者蘇生なんて夢物語か」

残念ままならないね。

そう言いながら男は近くの椅子に座る。

胸ポケットから一つの煙草を取り出し、火を付け

肺に煙を溜め込む。

「……さて、次は何をしようか」

女性の身体を媒介にした、人間製造工場か。

いやでも、産めなくなったとき処分が面倒だなぁ。

なんて、考えてる私の元に

突然光が射し込んだ。

扉が開いた。

誰だ?

職員には入るなと、コイツが……

名前は忘れたけど、してたはず______。

「……あら」

知り合いだった。

まだ生きていたとは。

しかも女の子二人も連れて。

「あぁ、あぁ______久し振りだね」

『は』

『な』

『なん、で』

『ココに』

「俺はお前が居ないと思った所には大抵居るし、

お前が居ると思った所には大抵居ないんだよ」

腰をゆっくり上げる。

……困った。

かなり痛むな。

俺も年か。

「元気にしてたかい______息子ちゃん。

俺は何時も通り元気だよ」

せめて息子にはそんな情けない所を見せないように。

俺はしっかり笑ってみせた。

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