第26話 上にて待つ

017

そして

頭が爆発した。

神の

いや、比喩ではなく。

突然

何が起こった?

見渡す

白々私意。

構えている______銃を?

『……は?』

「少年、しゃがめ」

頭を

石底に叩きつけられる。

直後銃声

そして鈍い音

書店院さんが撃たれた?

いいや違う

あの人はその程度では死なない

でも

なら

なんの、音

顔を上げる

生首が目に入った

信者だ

あの時の信者

他にも、幾つも

生首が落ちている

何が起こった

信者の一斉自殺

そんな、

なにが起こってる。

そんな能力は

あの神しか持っていない筈

なら

ならば何が

『……法典』

アレの所有権は誰にある?

唯一の持ち主である彼は死んだ

じゃあ、その魔法を引き継ぐのは?

それは

まさかそれが

『白々、私意……!』

「……ごめんなさい。私は企業に属している身でして。

……赦せとは、言いません」

銃口が此方を向く

あぁ

あぁ、クソ

このまま死ぬのか

くそう

案外早かった

あぁ、

銃口が火を吹く

「______凶弾、だね」

______火を吹く。

弾ける銃

曲がる銃身

「なっ______!?」

『あーマジで痛い……もう呼吸もよく分かんないし』

朦朧したあまたを押さえながら立ち上がる

ふらふら

する

夢の中

みいたな

みたいな?

『どっちだっけ』

どっちでもいいか

足を穿つ

「ッ!」

『動くな』

突き付ける銃口

未だ熱を持つ

撃つべきか

……?

なんか

視界が

斜めって

斜に構え

あれ?

018

知らない天井だった。

『……死んだ?』

「生憎ながら永らえて生きているよ」

横から声。

見ずとも誰かは分かる。

『……白々は』

「捕り逃した」

『……ごめんなさい』

「本来だったら今すぐにでも熨してやりたい所だけど……

ま、よくやったとは言っておこう」

『……え?』

「君のお陰だ______ヤツの所属している企業が分かった」

がさがさと衣擦れ音______プラスチック破片が目に写る。

『……これは』

「音響機器メーカーアンプクラスが開発した商品の一部だ。

メーカーロゴが印刷してある……君が撃ち抜いた足に付けていたんだろう」

概ね、トランシーバーか集音機って所かな。

『……アンプクラス、ですか』

「……知ってるのかい?」

『旅館にそのメーカーのスピーカーが』

「グルか」

『でもそれだったら自殺はさせないでしょう』

「……確かに」

『企業の実験だった……とか』

「……成る程。白々私意______もしもアイツが委員会に来ると同時に、

企業から機器の提供があったとしたら……」

『産業スパイならぬ……宗教スパイ?』

「というか、実験だな」

『……約1000人が信仰している宗教を実験体モルモットにした実験?

一体なんの為に……』

「……洗脳、とかかな。試すのには持ってこいだろう」

『洗脳?宗教団体に入ってる人間なんて

実質的に洗脳されてる様なものでしょう』

「そうだね……ただ、もしこの実験が戦前から練られてたとしたら?」

『……戦前?それこそ、余計……』

「言い方を変えよう。戦争直後に、この計画をスタートすれば……どうなる」

『戦争直後って……まぁ、一般論に言えば確かに宗教を信仰しだす人間が』

「大量に現れるだろう?……だけれど、当然その心理を利用しようとする人間はいる。そうだね、例えばなんて考えるヤツも……きっと居るだろう」

『……つまり?』

______あの法典も、信者も、そして神すら。

彼を信じ込んでしまっていた」

……発想がぶっ飛んでる。

意味分かんない。

『根拠は』

「ヤツが法典を管理していた______のに加えて、今さっきの大量自殺だ。十分だろう」

『能力は引き継ぎの可能性もあると思いますけど』

。元々の持ち主が白々君だ」

『……轡が、法典により操られていたと?』

「神だと錯覚させられていた、と」

面白い仮説だろう?

『小説家ですか……?』

「世界は物語的で在るべきだろう……

じゃないと、私の様な高貴で最高峰な女が産まれる筈がない」

『……』

はぁ。

全く。

この人は本当に。

『信じて、いいんですね』

「あぁ。君のチープなチップを掛けてやってもいい」

『そりゃあ随分な自信ですね______分かりました。貴方を、信じます』

「宜しい」

ニヤリと、怪しく笑われた。

「それじゃあ早速突入の準備を______と、言いたいところだけど」

『?』

「その前にメンタルクリニックから処方箋を出して貰わないといけないね。

______なんせ、あの場所に居たのは君とアリル君、そして私

……

『……あ』

「生憎私はそういうのには向いて無い……君に任せるよ」

019

『雨杭ー。居るかー?』

「……ごめんなさいちょっといま吐いててう゛……」

「……これは……かなり重症だね……」

旅館の中。

と言っても生き残っている店員なんてもう居ないのだけれど。

「と、というか二人はなんでそんな平然とお゛……」

『それはまぁ……馴れてるからねえ』

「職業柄ねー。ま、もう辞めては居るんだけど」

「しょ、職……?」

『書店院さんの所で働いてたときにね』

最も、戦争で既に見慣れてたっていうのもあるだろうけど。

「す、すごいですね……慣れるって……」

『心構えだね。死体を痛々しい遺体として見るか

物々しい、物申さぬ物として見るか』

「……」

『ま、そこまで慣れろとは言わないけど、ね。日常生活にも影響出始めるし』

「……生活に?」

『そうだね……例えば、見知らぬ人間と交戦する事と成ったって体で。

交渉する、威嚇する、拘束する______そこに、普通の顔してって選択肢が出てくるって感じ。普通の正常な人間から、外れる。

殺しが正常になる。抵抗が無くなる。選択肢に成る』

「……な、成る程」

『ま、ここまで来たらもうそれは人間と呼べるかは分からないけど

______さて、長話で吐き気は散ったかな』

「……あ」

『大丈夫そうだね。それじゃあ、俺達は向こうで待ってるよ』

扉の向こうにそう話しかけて、場を後にする。

「……言ってよかったの?」

『ま、雨杭相手ならね。信用はしてるし』

「ふぅん」

『それに______彼女にゃあ、分からないよ』

「……たしかに、いい子だもんね」

『騙されやすいとも言う』

「悪いヤツ」

『悪役は俺が被るべきだよ______お、書店院さん』

「どうだい?少女は」

『取り敢えず後は軽く待ってあげれば』

「宜しい」

椅子に腰掛ける。

少し深く。

「それじゃあ、少し時間もあることだし

少しだけ今回の作戦について教えておこうか」

『承知しました______場所は』

「駅から約3㎞のオフィスビル。戦前から同じ場所だ」

『と、なると……表示なんかも』

「壊れかけの看板を堂々出している。

ま、気付かれない限りはただの音響機器メーカーだからね」

「何階建てですか?」

「十階層______内下五階層には足留め要員が居る

が、敵ではない。戦力に数えなくていい」

『上五階層は?』

「詳しくは知らないが……門番的なのは配置されてるらしい」

『……門番?』

「フロアボスってヤツだね」

『おお急に分かりやすい……』

「そのフロアボスの強さっていうのは……」

「それも知らない。ま、弱くは無いだろう」

『……勝てますかね』

「馬鹿か君は」

『……へ?』


「私と、君と、アリル君と、雨杭ちゃん。

______勝てない訳が無いだろう?」


『……自信満々じゃあないですか』

「勝ちは、少なくとも自分の勝利を信じ、確信しない限りはやって来ないよ」

『……名言のつもりですか?』

「金言のつもりだよ______さぁ、早く支度したまえ少年。

相手は企業だ。鉛弾は一つじゃあ足りないぞ」

020

「……これが」

「そうですね。それが蘇生魔法です」

「これを使えば______無限に人間を蘇らせれる。戦力が無限と化す」

「……」

「わが社は、この世界の頂点に立つ」

「……正直、世界の上に立つってのはよく分かりませんけど」

「世界を手に入れるという事だ。金も子供も女も労働力も。

全てが手に入る______夢があるだろう?」

「はぁ……」

「ともかく、今回の魔法の成果は君にある

______感謝するよ、博士」

「いえいえ。報酬さえ貰えれば」

「あぁ、そうだったね。そこにアタッシュケースが置いているだろう。

そこに必要金額は全額入っている」

「承知しました」

「……ところで君、この後は暇かね」

「それなりには」

「ならば君も見ていきたまえ______人類が、死を克服する瞬間を」

「えぇ、とくと是非」

「うむ、宜しい______全職員に次ぐ!

現時刻をもって十階層の立ち入りを禁止する!」

「……」

「我々は、遂に死を克服する!どうか成功を願っていてくれ!

______人類に、祝福が在らんことを!」

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