第24話 過去と擬装

013

3日目

胃がキリキリする。

いよわだ。

『あー……』

対面は神。

一対一

「おや、どうしたんだい。そんな明日世界が終わるみたいな顔をして」

『世界はもう終わってますよ……準備は?』

「順々過ぎて恐ろしい位だ」

『……そりゃあ、良かった』

カチャリと、食器が鳴る。

「予定通り、明日開催だ」

『……一応聞きますけど、殺し合いって認識で合ってるんですよね』

「あぁそうだね。殺しあって、殺し阿吽だ。分かりやすくていいだろう?」

『ルールは』

「ステージ外に足を付く、身体機能の完全停止……それくらいかな」

うーん。

明確に分かりやすい。

『了解しました。それじゃあ、俺は別用があるんで』

「あぁ、ちょっと待ってくれ」

……。

『何でしょうか』

「大丈夫、前話みたく長時間拘束はしないよ。なに、一つ質問をね」

『……質問?』

「ああ、質問だ______君の、その顔について。少し教えて貰おうか」

014

「……実験?」

「それも戦争前の、ね。確か父親が科学者だったとか」

女子部屋。

「大層優秀な科学者だったらしい。

国からの助成も受け、彼は魔法を研究していた」

「く、国から……」

「いやー羨ましいね。とても優秀で秀才で才能に溢れかえっている私ですら補助は貰えなかったというのに」

全くもって、苛立たせる。

「ま、ともかく彼は国から認められた______最も、当然に大々公にはされないが。

国認で、公認だ。そしてそれは同時に、ある程度の権限を______国の権利の一部を行使出来る様になった事を意味する」

「……成る程?」

「ま、要は上級国民になったってこと。……そしてその立場である以上、ある程度の犯罪というのは見逃される」

当然だ。それで自国の研究が大幅に進むと言うなら

______殺人の一つや二つ、見逃されるだろう。

「……」

「彼は自分の家族を実験材料にした。

妻は兵器開発の材料として死亡。

妹は脳に改造を施し失敗、廃棄処分。

そして少年は人間と魔法の生理学観点の研究の為、

左眼球の角膜、虹彩、水晶体を剥がし別のパーツに組み替えられた。

だがしかし、死なない。

ならばもう少し色々と弄ろう______その結果、今度は彼の顔面皮膚左。

結晶化や、概念化などなど様々な研究をして……。

次は胴体って時に

______第三次世界大戦」

「!」

「もちろん彼と少年の地区にも最終兵器は襲来

______皮肉にも彼は、己が関わった兵器に殺された」

蹂躙された。

「少年は逃げ出した______父親から、親離れ。

んで、そこをたまたま私が見つけて拾って……ま、こんな所だね」

「……」

「あの顔面はその時の後遺症だ。腕は……その後の個人での実験だね。

何が自死のトリガーになるか調べて。

結果ヤバかったからアリル君を使って腕を飛ばしたらしいよ」

「じ、自分で……!?」

「少年は自分の身体に対してそこまでの執着心が無いからね

______狂ってるだろう」

異常者だ。

最も、だからこその主人公なんだろうけれども。

「……狂ってる、では無いのかも……」

「ほう?」

「多分______ただ、自分を好きじゃないだけだと思います。

家族がみんな死んでしまって、でも自分だけ生き残って。

きっと彼にとってソレは……リストカットに過ぎなかった、んだと」

「へえ、異常ではなく、普通でもなく、よくあるリストカットと表するか。

ふぅん、いいね。気に入った」

椅子から立ち上がる。

「さて、私から言えるのはここまでだ______後は、君の好きにしな。

私はもう、何も言わないよ」

聞くも聞かぬも、君に任せよう。

015

『昔少々やんちゃをしまして……その時の傷を隠しているだけですよ』

「……やんちゃ?」

『えぇ、あまり大々的に言えたモノではありませんが

……昔は少し、荒れてささくれていたので』

「もう少し詳しく聞きたい所ではあるかな」

『別に、聞いた所で面白い物語があるわけでもありませんよ

……こう、喧嘩を吹っ掛けられてその時に出来た傷といいますか……』

「不良ってヤツかい」

『うーん……そんな大層なモノでもないと言いますか』

所詮、半グレの成かけ……的な。

「……成る程、それが恥ずかしくて顔を隠してるって訳か」

『……まぁ、恥を捨てて言えば』

「治してあげようか」

『遠慮しておきます』

「……ほう、理由を聞こうか」

『自戒ですよ。もうグレないように……社会からはぐれない様に』

「ふぅん、面白いね」

『……面白くはないと思いますが……』

「いや、そういう噺を中々聞く機械が無くてね。ありがとう、感謝するよ」

『……いいえ。それでは私はもう行くので』

「あぁ、それじゃあ」

立ち上がって、扉に手を掛ける。

外に。

『______はぁ、』

「お疲れ」

アリルの声。

『いやーホントに疲れた……ちゃんと誤魔化せてたかな』

「及第点ってとこだけど……ま、あの様子なら大丈夫でしょ」

『そりゃあ良かった』

「後は書店院さんの方にも根回ししておかないとね。連絡しておこうか?」

『んにゃあいいや。俺から言っとくよ』

「おっけー」

妙な機材が散乱する、長い長い廊下を渡る。

『……』

「……なんだか意味ありげな沈黙だね」

『うーん流石相棒……いや、この機械______音響機器が妙に多いな、と』

「……言われて見れば……しかも全部同じ企業」

『え嘘。なんて会社?』

「アンプクラス。戦前からかなり有名どころの企業だね」

『……名前は確かに聞いたことあるかも』

「大企業に比べれば知名度は落ちるけど、ある程度のマニアの中では結構いい扱いだったみたい。

最も、今じゃあろくに営業してるか分からないけど……」

『……しかし、なんでその会社の機材がここに?』

「そうだね……集会にでも使うんじゃない?」

『集会』

「ほら、一応アレでも神様だからさ。信者に話を聞かせる時に使ったり……なんて」

『あぁ成る程……要は拡声器ってわけか』

「そうだと思う」

『ふぅん、大層なこった』

言いながら、部屋にたどり着く。

このまま少し仮眠でも取ろうか。

横開きの取っ手に手を掛けて。

俺は

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