第22話 名前とか

007

2日目

出された飯を素直に食べて。

「現在進行中だよ。しっかり予定には間に合わせるから安心して」

『そりゃあどうも……』

「ところで、休み心地はどうだったかな?

今後の上昇為に忌憚のない意見を聞いて起きたいのだが……」

「強いて言うなら広過ぎる事ぐらいかな。昨日は少し迷ってしまってね。

ただ、ソレ以外のサービスは非常に満足の出来る

______そうだね、特に温泉なんかは雨杭ちゃんと楽しませて貰ったよ」

「は、はい」

「それは良かった!通路が分かりにくいのは……

魔法で案内が可能なシステムを作っておこう。

私意君、プログラマーに連絡を」

「承知しました」

「あら、そうすぐ対応してくれるのか。ありがとうね」

「いえいえ、私としても快適な生活を送ってほしいモノですから」

「旧体制とは全く違うね」

「!」

「知っていましたか!どこで?」

「私の能力だ。絶望的に面白味の亡い本棚BOOK・ブック・本______この世に存在する本は、全て私の脳味噌ホンダナに入っている」

「ほう!随分と面白い能力を……」

「最も、例外はあるのだけどね。本の定義から外れる49ページ未満の文章集合体だったり、魔法で異常に保護されてたり……君の法典だったりもだけど」

「______そうですね、確かに魔法精製の本ですから。

きっとのでしょう。」

『……法典?』

「あとで直々解説してやろう______ご馳走さま」

席を立つ。

「……何処かへ?」

「なに、少し散歩さ。ここらを寸と観光したくてね」

「ならば案内人を」

「いや、いい。一人が好みでね」

「成る程、分かりました」

「そんじゃ、そういう事で______少年」

『……はい?』

「私が居ないからって調子に乗って、雨杭ちゃんに手を出すんじゃないよ」

「……?」

『……朝から御盛んな様で』

「君も昨日はサカってたろう。態々トイレの場所まで聞いて」

『縫い付けますよ、口』

「生憎だがそれは私の十八番だ」

あやす様に容易く俺の頭をポンポン叩きながら、出ていく。

「いつも通りだねえ……」

「……あの、盛ってるっていうのは……」

「『知らなくてよい』」

「……は、はぁ……」

この世には、知るべき事実と知らずともよい知識がある。

だろう?

『……んで、これから雨杭は……どうする?』

「基本的には、部屋で魔法の整理ですね。

兵器からの魔法の研究もまだですし」

『りょーかい。邪魔しない様に書店院さんにも言っとく

……ご馳走さまでした。

それじゃあ、俺達は銃身整備でもやって______』

「あぁ、少し待ってくれないか」

……。

『……何でございましょうか』

「そう構えなくてもいい。なぁに、少し

若い衆同士、腹を割って話そうじゃないか」

008

食後

併設された庭園

『……それで、話っていうのは』

「簡単、話しておこうと思ったんだ______何故に、君なのかについて」

『それは……まぁ、確かに気になってはいますけど』

「簡潔に言おう。君は______異常だ」

『……異常?』

新手の罵倒か?

「いや、そうでは無く。この世界にとって異常という事だ」

『世界に……なんですか、そのラノベ主人公の覚醒シーンみたいな説明は』

「案外間違ってはいない。アブノーマルで、異常者……そうだな、

君は自分の名前を言えるか?」

『……えっと、さすがにこんな見た目だからやべー奴って思われるのは仕方無いかもしれないんですが』

「いいから、言うてみろ」

『……


009

ですけど』

「……一応聞くが、君の名前は009……では、無いんだろう」

『……009?』

何を言って……

「成る程、その反応を見るに______知らぬ者か。ならば話が通らずとも当然」

『あの、今さっきから何の話を』

『……は?』

「耳が悪いだとか、風が強いだとか、そういう次元の話ではない」

『なに、を』

「君には______名前が与えられていない……

正確には、ソレが秘匿されている」

何を言っているんだ、コイツは。

『いや、でも……俺には


010

って名前が』

「聞こえん。私の耳にその声は______そのデータは、届いていない」

なっ______。

『なんで、何がどうなって』

______この世全ての人物、どころか、神までもその名前を認知出来ない」

『______!?』

なん、で。

意味が、分からない。

理解出来ない。

それじゃあ

それじゃあまるで

俺だけが

この世界から______この世界観から。

「だから言っただろう。まるでラノベ主人公の様な

______そうだな、もしこの世界が小説や漫画だとするなら。

君は、主人公だ。

名前の無い、特例措置______それが、君だ」

『……主、人公』

なんだ、それ。

「……」

『……俺が?』

「あぁ」

……なんだ?

本当に、ラノベの世界か?

『……それが、選んだ理由か』

「あぁ、そうだ」

そっか。

主人公か。

なら、選ばれるのも

仕方の無い

『……くく』

「……?」


『ふざけんなっっっっ!!!!!!!!!!』

「……!?」

『主人公!?知らんがなあ!?そんな重大責任俺が負える訳無いだろう!』

「お、おい」

『第一だったらなんで片腕死んでこんな格好までして

必死こいて生きてるんだよ!!

主人公ならもうちょっと人生イージーだろ!!』

『蹂躙されて、世界は滅んで、家族もほとんど死んで!!』

なんで、物語みたいに。

俺の人生は上手くいかないんだろう。

生きるのが、昔から下手だった。

正義を信じていた。

人は分かり合えると思っていた。

……。

…………あぁ、くそ。

分かってる。

分かってる。

どうせ次に俺は、言うんだろう。


、なんて風に。

希望論な絵空事を。

だから、生きるのが下手なんだ。

『______でも、その立ち位置なら。

神様くらいは、殺せるんだろう?』

雨杭のために、立てるんだろう。

この物語ステージに。

「……確かに、そういう見方もある。

ただ君には名前が______確率された人格キャラクターが無い。

これを今受け入れたとて、これから先におけるリスク軽減にはならない。

人格破綻のリターンが、可能性が出てくる。

その座は、君には。あまりにあり余る、玉座______」

『引き受けよう』

「……は」

『この酷く気取られた称号を、俺は引き受けよう!』

「______なっ、正気か!?名前すら持たぬ君が、

主人公の責務を負おうと言うのか!?

最悪、死ぬ可能性だって______」

『残念、正気だ!責務とか名前とか……正直良く分からないけど!

ただ、それでも______その称号ならば、雨杭は、助けられるんだろう!

お前に、勝てるんだろう。ならば、存分に充分だ』

こんな、ふざけた称号

勝手に付けて、着せておけ。

「雨杭……あの子か!なんでそこまで……!

命を掛けてしてまで彼女に拘る!?付き合っている訳でも無いんだろう!?

結婚している訳でも無いんだろう!?なら、なんで______」

『惚れたから』

あの日の、

彼女を抱き抱えて帰った日の笑顔に。

「……は?」

『盲目って言うだろ?恋は』

自分に相応しくない主人公格ネームプレートさえ、見えなくなってしまう様な。

「……はは、ははは!成る程!そうか、

そうだな……なんと無く、分かった気がするよ」

『……分かった?』

神様作者が、君を主人公に選んで、描いた理由が」

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