第21話 何故此処に?

005

夜風と手の内の瓶が、湿った身体を冷やす。

『いやー温泉気持ち良かったな……』

「まともに身体洗うのも久々だからね……よかった」

奥のLED、そして月明かりが廊下を照らす。

『それにミックスジュースのおまけ付き。やっぱ温泉に来たらこれだよなー』

「観光に来たわけでは無いんだけどね……」

『まぁまぁ、どうせ4日位猶予はあるんだからさ。ソレまでは実質観光みたいな物でしょ』

道中、仲間外れに置いていた椅子にその身体を落とし込む。

「余裕綽々じゃん」

『そして泰然自若、鷹揚自若……こんなんで動じてたら、

雨杭にも申し訳が立たないというかね』

「……随分贔屓にするね」

『嫉妬かー?可愛いやつめ』

「いや、そういんじゃ……ちょ、撫でないでよ」

人間の何処の部位に当たるかは分からないけれども。

細長くしなやかに伸びたその銃身を撫でる。

『……アリルは、不安?』

「……正直」

『そっか……ま、わかるよ。幾ら自称とは言えど______神。

そう呼ばれるだけの実力が』

「君が」

『……え?』

「また、無茶するんじゃないかって」

『……俺が?』

「うん」

『……何故に?』

「魔法を使うから、だよ。それも神として。ただの魔法だったらいい。

僕を防御主体の法陣で覆えば盾に成るし、剣にも成る……

でも、もし魔力を。魔素をそのまま流し込まれたら、君は______」

『死ぬなぁ、確実に』

「……」

『まぁ、確かに。その可能性も否定できない

______なんせ、神だからな。

こっちの身体の事なんてすぐに分かるかもしれない』

「……やめる?」

『止めない』

「……なんで」

から。無為に死ぬことは良いこととは言わないけど、

だからってそれは、格好を付けぬまま泥を啜って生きる理由にはならない。

こんな土壇場で逃げだしたら、カッコ悪いでしょ?

俺はどれだけ汚れても、己の精神までは汚したく無いんだよ』

「……下心は人並みのクセに」

『……三大欲求は許してよ……』

「しかも最高に格好悪い」

『えぇ……?今のチョー格好良かっただろ』

「いーや。ダッサイ。何言いたいか全然分かんないもん。

ドヤ顔が頭に思い浮かんで来たよ」

『……段ボールなんですけど?』

「段ボール越しに、でもだよ」

『……そんなに?』

そっか……。

なんか、もうちょっと格好を付けれそうな台詞は……。

「そんなに、だよ。

ほら、もうちょっと格好が付く方法なんて考えて無いで行くよ」

『心まで読まないでよ……』

「相棒なんだから、そんなの読めるに決まってるでしょ。

さ、部屋はこっちだよ」

006

風呂から帰るだけの道のりの筈だが。

成る程。

迷ったというヤツかこれは。

「私にはあるまじきミスだな」

この完璧超人天才美少女を迷わせるとは。

全く、一体どんな作りをしているのか……。

右も左も分からないまま、私は直進……出来ない。

行き止まりだ。

代わりに、右左に通路が続いている。

うん。

右だな。

私の魂がそう叫びたがっている。

通路に従って、進んで……扉だ。

扉が一つだけ配置してある。

普通ならばこう描写もされないけれど______しかし。

こうして描かれている以上、まぁ何かしらあるのだろう。

「……我ながら少し狡猾な判定方法ではあると思うけど」

これが物語である以上、もう触れない訳にはいかない。

所謂フラグというヤツだ。

仕方も無し。

ドアノブに手を掛けて______開ける。

一冊の本。

それを中心とした放射状の模様。

地面に削られている。

絶望的に面白味の亡い本棚BOOK・ブック・本は______通じない。

妨害、というよりは防御。

秘匿して、ひた隠しにされている感じ。

奇っ怪だ。

「……」

手を伸ばす。

異常は、無し。

普通に手取れる。

中は______式典?

第一法則

救済実現委員会は、その名の下に全ての人間を救済する事を宣言する……。

下にも徒然ツレヅレツラツラと条が続いている。

「……ただの法典にしては随分と仰仰しい演出だけれども」

「ただの法典ではありませんよ______なんせ、この委員会を支配している、と言っても過言では無いほどの能力を……ソレは秘めていますので」

「ふぅん、面白い」

びっくりしたなぁおい。

急に話しかけて来るな。

音を出せ音を。

「……白々私意君、だっけな」

「おや、あなたの様な素敵な女性に名前を覚えて頂けるとは。光栄です」

「へぇ、中々見る目があるじゃないか。

是非褒めてあげたいところだけど______それ以上に、この法典の能力。

少し気になってしまってね」

「差し支え無ければ、説明をさせて頂こうかと」

「許可する。話せ」

「では、説明を______ソレは、クツワ様の能力です」

「……能力なのかい?」

「左様で。そして効果ですが……クツワ様の配下の人間、その支配。

精神機能の若干操作等が主ですね」

「配下の人間として識別する条件は」

クツワ様に対して忠誠を持つもの______

そうですね、例を出すと……クツワ様を庇って死ねる、

というレベルの忠誠心が必要です」

「不便だね。コミュニケーション能力が前提じゃないか」

「普通の人間ならそうでしょうけれど。生憎、神様が所持していまして」

「……成る程、既に委員会としてのコミュニティは成立している」

「えぇ、この委員会所属人員1200人______

その全員が、この法典によって管理されています」

人たらし。

神様ならば、出来なくも、造作無いのだろう。

「そりゃあ……上手いね。既にあるシステムを利用______

倫理観はかなぐり捨ててるけど」

「光栄です」

「だろう。もっと私が誉めた事を感謝してくれてもいいのだが______

しかし、そうおいそれと話してもいいのかい?」

「教えたとうてどうにもなりませんからね。

前述の通り、忠誠心前提の魔法ですから」

ふぅん、舐められたものだ。

「……それもそうだね。成る程、分かりやすかったよ。ありがとう」

「いえいえ……それでは、私は別件があるので」

「んで君は何でココに来た」

「……はい?」

「何でココに来たんだ______ソレは神の魔法であって、

君の魔法では無いだろう。何故君が居る」

「………………最低限の管理は私に任されてますので」

「……へえ、キミが」

「はい。本来的にかの神は忙しい方であられますので」

「……ふぅん」

「……他には何か?」

「いや、特には無いよ。それじゃあ、私は部屋に戻る」

「承知しました。ではまた」

「あぁ、また会おう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る