第18話 悼みと後日談
020
『……』
「……話長過ぎでしょ」
『あぁ、ホント……漫画だったら5ページは使ってるな』
「何それ、シミュレーション仮説?」
『言ってみただけだよ。
……そろそろ行くぞ』
「ふぅん……ま、いいよ。何時でも……因みにコイツどう殺るの?」
『聞いた話によると呼吸器から魔素を吸収して動いてるらしいから……
取り敢えず気管に穴を』
「残酷ぅ」
『失礼な______これでも今から世界救うんだからさ』
二、三歩歩いて立ち止まる。
『この辺かな……?』
「当てずっぽう……!?
せめて上がり下がりしてるところから推測するとか、口から辿るとか……」
『おぉ、天才』
表面を観察して大体の肺の位置を把握。
口から辿って、その真ん中位。
『……よし』
上下は考慮しなくていい。
穴さえ開けて、どうにか取り込まれる酸素量を減らせばいい。
「今さらだけど肺を直接狙うのは……」
『無しだ。そこまで来たら多分既に吸収されてる』
アリルを地面______体表に、少し離した状態に。
「ぐえー……これ血超掛かるよね」
『俺もだから我慢しやが、れッ!』
衝撃
アリルと一緒に若干引っ張られそうになるが______セーフ。
血を浴びながらなんとかバランスを立てて、構え直す。
『……完全にぶった斬れたな』
空気が抜けていく。
このまま行けばすぐに魔素欠になるだろう。
「……魔素欠ってなに?」
『酸欠的な』
「文字数は同じなのに語呂が悪い……」
……しかし。
気管を斬られても尚身動ぎの一つもしない。
一応は生物の筈だが。
「……変だね」
『痛覚を殺されたと見るのが正しいかな……というよりは、触覚か?』
「確かに。乗っても全然気づかないし」
『それは俺達が軽すぎるからな気もするけど……』
まぁ、好都合。
ついでに足でも撃って動きを______。
『……うわぁ成程』
とは行かないのが世の常。
胎児が、空に浮かんでいる。
それも大量に。
「流石に対策はされてるね……」
『見えないよりかはマシだけど……っとぉ!?』
胎児______その腹から突然火球が飛んでくる。
『遠距離かぁ……やっぱ不味いかも?』
「……取り敢えず逃げよっか」
『だな!』
銃口を下向け即発射。
赤い肉と肌色の皮膚と焼かれたいい匂いに包まれながら、空に浮かぶ。
「今からどうする!」
『足と、コアを破壊する!生物である以上絶対に生きるための器官はあるだろうか、っら!』
頭を地面に向けながら自由落下。
腹の壁を眺め、↓
強風が打ち付ける。
視界が開いた。
腹を抜けて、足々が目に入る。
『______来た、アリル!とびっきりの爆発を!』
「了っ解!」
銃身が、赤く煌めく。
熱を帯びる。
「急速充電40%______規定値超過!」
『許可する!』
「
爆発。
爆音と熱風に感覚器官が犯される。
『熱ぅッ!!!』
「それはごめん慣れて!!」
関節爆発。
前脚右______折って崩れ落ちる。
「通った!」
『後はコアを______なっ!?』
流血。
血が滴る足から、突然触腕が生えてくる。
赤く、赤い。
『てめ……血を操る能力はもうちょっと格好いいのが相場だろうが!』
迷わず撃ち抜く______が、液体。
当然貫通する。
『げ』
「これ対応しようが無くない……!?」
『取り敢えず蒸発させるしか無いか……!アリル!弾丸に発熱性を付与!』
「急に温度上げたら爆発するよ!?」
『それで殺せたら万々歳______自爆上等!』
「あぁもう、本気!?」
再装填
銃身の回りに陽炎が生まれる。
「10%規定値超過済み!何時でも!」
『______
皇后しく燃える弾丸______尾を引きながら宙を舞う。
血液に包まれて、爆発。
身体が飛ぶ。
『______ッ!』
脚と胴が分離。
完全に機能を停止する。
傷口は焼け焦げ血が止まりかけ______が、無力化はできていない。
未だ小さな触手が何本も伸びてくる。
「次は!」
『コアを探す!』
「コアって……破壊しても無駄じゃあ無いの!?」
『多分だけど、コアには空気から魔素を取り出す為の
魔法が貼られてるだろうから______その魔法を砕く!』
「それは分かった!けど……問題のコアは何処にあんの!」
『そりゃあお前、人類が身体の中で
唯一排熱の為に外に出てる部分があんだろ!』
「なにそのクイズみたいなの!全然分かんない!」
『______
横にアリルを向けて放つ。
吹き飛ぶ身体______自由落下を兼ね備えながら。
尻の方へ。
「なっ、ジョーク!?」
『いいや残念本当だ!本来的には精子が熱でやらねえ様にって機能だったが______悪趣味なアイツの事だ、どうせ当たってる!』
「何でッそんなこと知ってんの!?」
『思春期だからだよおおおおおおお!』
後ろ足近く。
低高度の俺の目に、ソレは入った。
玉袋。
きっかり2つ揃ってやがる。
「……マジい?」
『ったく、お下品ギャグマンガじゃあ無いんだよこっちは______!』
腕を大きく伸ばして。
アリル片手に、視線を向ける。
「狙いたく無いんだけど!?」
『我慢しやがれコノヤローッ!!』
一瞬。
ほんの一瞬だけ、その痛みを想像して。
この世界に生まれ落ちてしまった、生物兵器を。
最終兵器を。
少し悼みながら______俺は、トリガーを引いた。
021
後日談。
『……魔法は……?』
「あ」
「あぁ」
「そう言えば……」
『俺はてっきり書店院さんがどうにかしてるのかと……』
「うーん……どうにかはしたんだけどね」
「じゃ、じゃあ魔法は……」
「……結論から言うと、存在は確認できた」
「!」
『もう手元に?』
「勿論……と言いたい所だがね。どうやら私達は嵌められたらしい」
「と、言うと……」
「売られてた」
『……はい?』
「魔法として、出品されて誰かが買い取ったらしい」
『はい!?』
「なっ!?」
「……奇しくも、と言うべきか……」
「あぁ、最初と全く同じだ」
『……どうするんですか……?』
「私としてはまだ追うつもりだ。雨杭ちゃんはどうする」
「わ、私……ですか?」
「元は君の探していた魔法だからね……いや、聞く必要は無いか」
「え」
「目を見れば分かる……その目は、まだ何も諦めていない目だ」
「!」
「それじゃあ、引き続き雨杭ちゃんとは協力するとして______」
『……』
「おや、無口キャラかい?
イケメンのみに通用するキャラ付けだね、君には不釣り合いだよ」
『黙ってるだけで酷い仕打ち……
……で、なんですか?』
「いや、何でもないよ。どうせ付いてくるだろう」
『小蝿ですか俺は』
「金魚の糞だよ君は」
『罵倒レパートリーだけは豊富な……』
「なんだい、じゃあ付いて来ないのかい?
君は、どうせ断れないだろう?」
『優柔不断キャラを押し付けないでください』
『……更々、断る気はありませんけど』
「宜しい、それでこそ少年だ」
『……そんで、どうするんですかコレから』
「本州へ向かう」
『……と、言うと……』
「方舟の人間を拷問______失礼、
問いただした所どうやら本州の方で活動する団体が買い取ったらしい」
『……拷問であってると思いますけど』
「へえ、君にはこの美少女がまるで拷問官の様に見えると」
『はい』
「宜しい、直ぐに断頭台を用意してあげよう」
『うーん流石に想定外』
「あはは……」
「早く謝らないと微塵切りにされるよ、コレ」
『それが本気で出来てしまうのが怖いんだよなーこの人は……』
「微塵切りオプション追加か、仕方ない許可しよう」
『そんな悪徳商法みたいな速度でオプションを追加しないでくれませんか』
「失礼な、拷問官は公務だぞ」
『確かに処刑は警察がやるけど……あ、痛い、ちょ、ちょっと待って。
首はヤバい。糸で、糸で締めないで!酸素が、死ぬ……』
意識が、途切れる。
しかし未だ、その旅路だけは続くらしい。
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