第17話 方舟妄想劇

019

『書店院さん!』

「……少年」

地上に降り立つ。

「雨杭ちゃんは」

『取り敢えず結界ん中入れときました。

______あんまり仲間外れにするのも可哀想ですけど』

「流石に消耗した状態じゃ連れてこれない、と」

『……んで』

空を仰ぐ______仰げない。

塞がれている。

は……』

「最終兵器だ。あの少女と雨杭を出てきた______生物」

生々しく肌が動く。

何かを無理矢理繋ぎ止めた様な、そんな風貌。

不快感が込み上げる。

「……気持ち悪……」

『それは同感』

「何秒で殺れる?」

『貴女込みなら10秒も要らないと思いますけど……』

「私はアリスと雨杭を守らないといけないから無理だ。君二人で殺れ」

「……本気ですか……?」

『また無茶振りを……』

「無理じゃ無いだろう?」

ニコリと嗤う書店院さん。

圧が凄いよ圧力が。

『……報酬は』

「君の欲しがってたゲーム……ぷよんぷよの最新データ」

『よっしゃ任せて下さい』

「ちょっと待てい!?」

マガジンを装填______薬室に弾を送り込む。

「よろしい、それじゃあ頑張って」

「ちょ、書店院さん俺まだ」

「少年ちゃんは君が居ないと何にも出来ないんだ

君も分かってるだろう?」

「いや、それは……」

「大丈夫、君にも何か用意しといてあげるから」

それだけ言って消える書店院さん。

跡形もなく、跡を濁して消えた。

「……マジかぁ……」

『まぁまぁ、これが終われば楽だろうし……』

「終わればね……」

文句を垂れ流すアリルを宥めながら、軽く点検。

オールグリーン。

「……ホントに殺るの?」

『殺るよ______心配か?』

「それは……だって、君ももうずっと動いてるじゃん。昨日も、今日も」

『大丈夫、安心しろ。そんなじゃあ無いから』

「……」

『それに、俺一人って訳でもないし』

それだけ言って、アリルの銃口を下に向ける。

何時もの様に。

「……終わったらしっかり休んでね」

『たっぷり12時間寝てやるよ』

轟音が空気を切り裂き、灼熱の光が地面を一瞬照らし。

空に撃ち上がる。

『______アリル!』

「糸が確認出来ない!恐らく、完全に生物として成り立ってる……!」

『通りであんな見た目の訳だッ!』

一発目______着弾前に防がれる。

『んなッ』

「魔法の防御壁!空間を歪ませて本来ソコに壁を造ってる!」

『ごめん分かんねえ!』

「A○フィールド!」

『分かりやすいっ!』

再装填リロード

『アリルッ空間魔法の図形の色を反転させろ!多分それなら______』

「おっけー了解!」

二発目

ややドス黒い魔法陣を展開させながら放つ______今度は、途中で減速。

地面に墜ちていく。

『クッソムカつく野郎だなぁ!?』

「多分魔法を故意的に不安定な形にしてる!

そのせいで周りの空間に反転と無反転が混ざって______!」

『成る程!なら______』

ならば。

アリルを最終兵器の逆側に向ける。

「……待って」

『ゴリ押しなら、行けるって事だな!』

「嫌だあああああああああああああああああああああああ!!!!?!?」

空中転換。

空気を引き裂きながら、身体が吹っ飛んで行く。

「というか、近付いたらそれこそ空間に喰われるんじゃ……!」

『多分だけどあの魔法は兵器側から離れて精製されてる!

だからその中に入れば、多分!』

「……それ、もし違った時は?」

『お釈迦様に祈ろうぜ』

神様なんて信じては居ないけれど。

『っし、歯ァ食い縛れ!入るぞ!』

「歯無い!歯無いよ秋成!」

『それじゃあ弾の味でも噛み締めとけ!!』

残り10m

5m

1m

0


水の中の様な。

ふわふわして

漂って

ただ酔っている様な。

感覚

から

______抜けだす!


『______予想通りッ!』

「あ、っぶな……!」

空間外。

目に入るは毛の生えた皮膚。

酷く白い肌に、突き刺さる様に生え揃っている。

小さく脈動していた。

「うっへ……」

『中々生物らしい見た目を……ん?』

四足歩行の最終兵器、その首元に______人。

『……一般市民、じゃあ無いよな』

今頃地上で逃げ回ってるだろうか。

そう思いながら、銃で飛んで、その人影の前に辿る。

『……それ下半身どうなってんの……?』

「おや、あなたでしたか。

てっきり彼女の方が来るかと」

男が______朧がそう返事をする。

『……というか喋り方変わった?』

「私はこの兵器の副産物的な者でね。

こっちの方がしっくり来るんだ……おや、書店院は?」

『生憎ながら彼女は守るものがあってね。

雨杭と、アリス______ついでに店の子も』

「どちらも生きていたのですか。それはそれは。

そちらにも稼ぎ手が出来て良かったですね。中々良い稼ぎになりますよ」

『残念、人の道は踏み外していないんだ俺は』

「珍しい。この世界で未だそんな綺麗事を言うとは

______流石主人公と言ったところか」

『……主人公?シミュレーション仮説のつもりかい?」

「分かっていないのならそれで良い。

______主格の君にジャンルでも壊されたら堪らないからね」

『……?』

厨二病か?

「ま、この話は置いておこう。

私としては、これから君がどう行動するのかの方がよっぽど重要だ」

『どうって……そりゃあ、殺すけど』

「私を殺しても止まりはしないよコレは。

大気中の魔素を呼吸によって吸収______そしてコアで動力へと変換。

この世界から魔法という概念が消えない限り、動き続ける」

『そりゃあまた面倒な……説明どうも』

「科学者としては機密保持より機密破棄の方が楽しい行為なんだよ。

君だって子供の頃、知り得た知識を親に自慢していただろう」

『……』

……否定は出来ない……。

「科学者は子供だよ。夢を諦めきれず、

浪漫を追い求めてるのさ______そして」

手をおおっぴらに広げる。

「私の場合、これがロマンだった」

『……世界を滅ぼす事が?』

「いや、世界を浄化する事が」

浄化。

『……随分大層な夢を』

「子供の考える夢なんてそんなモノだろう?

幼心ながら私はずっと思っていたよ。

この世界は、生きても良い人間と______そうではない人間が居ると」

『そうでない人間も要るだろう。世界を回す為には』

「しかし世界は変わった。

文明は消え去り

人間は消え去り

魔法が産まれた。

世界を一度リセットするのには

______十分で、充分すぎる条件が整った」

『……』

「天啓で、天命。私は戦争が息を潜めた後、方舟を創った。

勿論、名前はノアだ。今までの事は

______世界をやり直す。いい計画だろう?」

『……思ったよりは』

「なら、君も______」

アリルの銃口を、朧の頭に押し当てる。

「……なぜ?」

『そんな楽園イージーモードに、興味は無い。

生憎根っからのゲーマーだ』

「______お見事。ならば証明してみせて下さい……貴方の、世界を」

トリガーを引く。

血飛沫が跳ねた。

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