第14話 噺と言っただろう

013

扉の前。

『雨杭』

______厭冥エンメイ

地面に法陣が刻まれていく______幾何学的と、成っていく。

「花咲」


暫くの空白______扉の向こうから、ガラスの割れる音。

『よし』

扉を蹴り倒す。

1秒。

「______なんだぁ、てめえら」

『ロリコン成敗師』

目の前に突っ立った男にアリルを向けて______一発。

脳漿炸裂。

赤色雨を振り撒きながら後ろに倒れる。

今度も、一秒

店内に悲鳴が響き渡る。

阿鼻叫喚阿鼻叫喚。

掻き分けながら、手当たり次第に店の関係者を撃ち抜いていく。

『______ったく、何で本物に手ェ出すかな。

ロリは飽くまで想像妄想で楽しむもんだぜ』

「おいロリコン」

『俺はロリコンではない______

彼女達を一人前のレディと認めているからな』

「変態極まりない台詞だね……どんな人に感化されたのか」

『とある小さい女の子から請け負った台詞だよ』

死臭と硝臭に包まれながら、更に奥へ。

カウンター奥に蹲る男。

「……責任者っぽいね。どうしよっか」

『撃て』

「りょー」

背中に風穴。

痙攣。

四、五発おかわり。

壁にこびりついた。

『殺処分完了______雨杭、解除と店内の女の子の結界までの誘導は頼んだ、俺じゃ怖がられて話になんない』

結界______書店院さんが、今さっき急造で作った防御結界。

特殊な認識方法を組み込んでいるらしく、彼女が知っている人物、またその対象が許可した者のみ入れるという中々な代物だ。

「……あ、は、はい!」

少しだけ遅れて反応。

その後は、すぐに少女達の誘導を開始する。

『そんじゃ、後は身体でも洗いながら待ちますか』

「そだねー……しかし、それにしても。雨杭さんの能力、強いね」

『それは同感。一見地味だけど……

戦いにおいてあまりに重要な所を付いた魔法だ』

Q.戦いに置いて最も重きを置かれる要素となるのは。

A.火力。

A.技術。

A.能力。

A.魔法。

様々な回答があるこの問。

しかし彼女はその中から、一つの根本的要素を選び抜いた。

______A.反応。

攻撃を、

その単純な行為を、彼女は否定する。

______彼女の魔法を食らった対象は、物事をからまでにタイムラグが発生する様になる。

ぴったり、1秒分。

『そして条件は空気______彼女の魔法が発生させる匂いを嗅ぐこと』

「初見じゃ無理だね……敵じゃ無くて良かった」

『書店院さんに見せたら食い付きそうなレベルの魔法だよな』

「……その書店院さんは?」

『さぁ……鏖殺じゃない?』

014

「さて今さっきまでの会話はすべて嘘だ。君達が聞いていたのは噺だったんだよ……お芝居で、御噺。中々面白かっただろう?」

手に糸を絡ませる。

心地のいい縛り具合。

「誰ですか?」

「おや、会話を聞いていたのだろう。ならば言わずも分かるだろうに」

「……書店院文庫、ですか」

「正解♡後で投げキスを上げよう」

影の数は80体程度______一人を除いて、暗く多い尽くされている。

「私達は嵌められていた、と」

「そうだよ。あそこで会話を聞いていた______そんなのは彼に能力の話を聞いた時から想定済だ。私の頭脳を舐めるなよ」

「成程、確かに彼の言っていた通りの性格だ。傲慢で、隙がない」

「……?あぁ、墓かい……彼は?」

「既に方舟に搭乗済みだ」

方舟。

まぁ大方予想は付く。

次の人類______滅んだ地上にでも置くのだろう。

世界を二度滅ぼして、彼の思想に賛同する者だけを遺す。

一般市民っぽい考えだ。

「随分とペラペラ喋るね」

「渡しても問題無いと判断したのだよ。死ぬ人間には」

「……へぇ」

随分無礼な奴だね。

うざったい。

「……それじゃあ、御託はそろそろここ迄に」

「そうだね、そうしよう……覚悟は出来てるかい?」

「覚悟?一体何の。私が君ごときに殺られるとでも」

「殺しはしない______ナブってから、殺してやるよ」

人差し指指を引く。

糸が展開、張り巡らされる。

「面白い、是非期待しているよ」

一斉に向かい来る影______右腕を肩まで。

瞬間、前方3体を断頭。

ゴロリと墜ちる。

「!」

「朧君、良いことを教えてあげよう______君は私には勝てないよ」

横から2体。

脚を絡め取って、投げつける。

ストライク!

ピン如く倒れていく影。

を、

秒読みフレームショット

1cm大の長方形に。

「素晴らしい」

「余裕綽々だね。癪に障る」

「では次は嗜好を変えよう。針々トゲトゲ

刺殺攻撃。

細長い影が身体を目掛けて飛んで来る。

「無駄」

糸。

影の先端で重ねて止める。

「針に糸を通す様だね!流石は意図遣いと呼ばれるだけはある」

「……懐かしい名前だね」

弾き返す。

「君が、まだ社長をして居たときの話だ……人を救う為の会社を。

世界が滅んだ後。君が設立した______名前はなんだったっけ?」

最終兵器研究機関Ultimate Weapon Research Instituteだ。その位は覚えて死んでくれ」

糸を押し流す。

朧の首に絡みつかせようとするが、影が犠牲となる。

どちらも、一歩も動かない。

「あぁ、そうそう。そうだったね。

いやぁ、素晴らしい会社だよ。お陰で何人が救われた事か」

「基本業務は部下に丸投げだけどね……

それで、何でお前がその名前を知っている?」

「調べたんだ。私の理念に反する様な集団だから

______中々聖人的な事をしてるねぇ」

「まだ世界の見えてない餓鬼だっただけさ」

糸を

影を

操り倒して。

「だって、人喰の息子ですら助けたらしいじゃないか」

人喰。

人喰人式______第三次世界大戦の立役者。

魔法と、最終兵器を開発し、その戦争犠牲者数に大きく貢献した男。

「良く知っているね」

「周りの反応はどうだったんだい?息子を殺そうって奴は______」

「まず正体を隠させていたからね。大衆目前に晒されるって事は無かったよ……最も、今は何処に居るかも知らないけれど」

「成程、流石の生易しさって訳だ」

そう話しながらも影を飛ばしてくる。

撃ち落として、反撃。

今度は此方の糸を飛ばす。

「いい糸だ。是非欲しいのだが」

「自分で作ってろ」

「考えておくよ」

拮抗。

影と糸が舞い散る。

「______しかし、中々勝負がつかないね。

私と戦ってこうも耐えたのは君が二人目だよ」

「一人目は?」

「人喰博士さ」

「……生きてるのか?」

「生きてるのさ」

「……そうか」

「どうした、何か思うところでもあるのかい?」

「いや、別に」

ラスボスにでも成りそうだ、と。

ふとそう思っただけだよ。

「ラスボスか……いい響きだが、それが私じゃないというのは戴けないな」

「14話でラスボスの出てくる小説があってたまるか」

「______!?まさか、君」。

「おや、______面白い

気付いているのか。この世界に」

この小説に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る