第12話 影踏み

008

『______影、ねえ!』

弾丸を飛ばして、飛んできた

「うわああああああああ!?!?」

そう叫びながら他の影を魔法で打ち砕いていくのは

見慣れぬ重装甲パワードスーツの雨杭。

どうやら魔法で発動、構成されているらしく

そのまわりには僅かな光を纏っている。

……女の子の重装甲っていいよね。

「素晴らしい。そう一瞬で私の魔法を理解するとは」

『術式は見えないように隠しとくもんだ、よっ!』

射撃。

放たれた弾丸が曲がり、背後から男を襲う______が。

「だがその単純な軌道はいただけないね」

見向きもされず、影に吸い込まれる。

『______うげ、マジか』

物理無効、ヤバイな。

「……このままだとジリ貧だね……」

『分かってる。無理に交戦するつもりはない』

ちらりと少女を一瞥する______あれと、雨杭さえ逃がせれば勝利だ。

「さて、こちらもそろそろ時間が無いのでね。君には消えて貰おう」

「助けてえええええええええ!?!?」

雨杭の方に支援火力を送……いや普通に耐えてるなアレ……。

『随分と調子乗りなロリコンだ……何をするつもりだった、この少女で』

「元々は売春ウリで稼がせてたよ。

元々孤児でね、戦争で両親が死んだ所をかっさらったんだ。

______ただ、彼女は適応したからね。ちょっと眠って貰ってる」

さらりとクズ発言。

普通に犯罪者だ。

……というか。

『……適応?』

「贄としてだよ。彼女は私が創り上げた魔法に適応したんだ。

因みに、私達は彼女をアリスと呼称している……いい名前だろう?」

アリス。

まるで御伽の世界から引っ張って来た様なワードセン


「そして、そのアリスの命を贄に行われる魔法

______最終兵器の再構成魔法だ」


『……は?』

再構築、?

「私は世界をやり直そうとしている。今の世界を見てみろ。恐喝、強盗、殺人______様々な犯罪で溢れているだろう?」

どの口が。

「だから私はもう一度世界対戦を再現する。人類を選別し、餞別を送る______選ばれた人類のみが、生き残れる様に」

『……選ばれた人類』

「そうだ、選ばれた人類______

今後の世界で、生き抜くに相応しい人類を」

狂ってる。

どうしようも無くコイツは______それが、

『……お前もか』

「いや、私は違う。生き残るべき優秀な人材は他にいる。

なんだい、仲間入りしたいのかい?」

『いや、興味ない』

素晴らしいGreatだ少年。今から君を入れるか考えてあげたいぐらいだよ」

男が地面に伏せる。

『______何を』

「でもすまない、先に悪いが、死んでくれ」

突然止む攻撃の嵐。

「あ、あれ?もしかして倒して______」

『だったら良かったんだけど』

男の顔が照らされる研究室の逆光。

その後ろの影から、が現れる。

「ひ、人!?」

『……だからあんな設計なのか』

「それじゃあ、Bye!少年______また来世で!」

一人二人三人______指数関数的に増える影。

『……』

戦えはしない。

流石に無理がある。

『……雨杭』

「は、はい!」

『今から天井に穴を空ける……逃げれる?』

「だ、大丈夫です!……ただ、人を背負うのは流石に」

『いや、いい』

「え」

『アリル!』

「______了解!」

天井に銃口を向ける。

炎。

回りを照らして、ガスと反作用が身体を包む。

一瞬の空白の後。

空には月が浮かんで______。

『雨杭!』

「______分かりました!」

言うが早く、その装甲の足元から火を吹き飛び去っていく。

「格好いいですね、自己犠牲」

『格好良くは無いだろう、自己犠牲』

言いながら人影に弾丸を一発。

が、呑み込まれる。

やはり通じない。

なら、

『______本当、もう少し格好よく生きたいんだけれど』

アリルの銃身の先を掴んで、腹に口を押し当てる。

位置的には丁度、液体内包のアリスガールが後ろに来る位置。

「自殺かい。頭の方がいいよ」

『生憎こっちは今まで如何に格好よく出来るかで行動してんだ______

目の前の女の子ほっぽり出してそんな事するかよ』

再構成ロード

撃った。

009

「なるほど、してやられたのか私は」

「頭の回る奴だ」

「弾丸を自分に撃ち込む」

「そう見せかけて」

「本命は後ろのアリス」

「どちらにも当たる弾丸」

「そして、再構成」

「彼女は今どこに」

「彼の今までの行動を調べろ」

「殺せ」

「二度も逃した」

「殺してやりたい」

「まぁ、そう焦るな私達。彼女には一応精神封印も掛けているのだから。時間稼ぎ位はしてくれるだろう」

「なら」

「代わりは」

「代用品は」

「今から探すのか」

「また実行まで延長か」

「代用品はもう見つけてある。あの女、雨杭凌撫だ」

「なんと」

「それで代用が効くとでも」

「不可能だ」

「彼女は」

「本来的に脇役モブ概念だった______が、しかし。

あの男に付いている以上、もうアレは脇役ではない。

主人公枠に昇格されている」

「女」

「あの男の女」

「主人公格」

「物語に関与している」

「この世界に関与している」

「ならば、適応」

「そう言うことだ……さぁ、時間が無い。早く見つけよう。

私達の夢はまだ目を開いたばかりなのだから」

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