一章 アリスの魂とその夢の醜い再現、もしくは顕在

第8話 釘を撃つ

000

「方舟は用意された」

「世界はもう一度選別を行う」

「正しい方法で」

「正しい手法で」

「選ばれた人間のみが残る」

「この世界は楽園と化す」

「贄のアリスには」

「既に適合者が出た」

「滔々と語られた思想が」

「等々現実と成る」

「世界を」

「私が変える」

「だがその前に」

「侵入者」

「喩え誰であろうと」

「この計画を邪魔してはならない」

「殺せ」

「殺せ、シドコロ

「葬れ」

「棺に______釘を、撃て」

「……了解解りました

001

レール上の語は省略とする。

あまりにも語る事が少なかったので。

ということで、

物語は2日後______それも深夜の12時に飛ぶ。

『つ、着いた……?』

博多駅。

そのホーム。

「着いたね」

『やっとだぁ……!』

「お、お疲れ様です……」

『いや、雨杭もお疲れ様……』

「おや、私には労いの言葉は無いのかい?」

『あんたCtrl + Zバックアップ使って疲労飛ばしてたでしょーが』

「あらバレてたか……ま、君達の分もやってあげるからさ」

そう言って俺と雨杭の足に手を添える______Ctrl + Zバックアップ

疲労が上書きされていく。

「よし、終わり______取り敢えず出ようか」

『ですね……アリル』

「ちょっと待ってねー………………多分そこの階段」

『ん』

線路から這い上がり、階段を目指す。

『しかし、どう探しましょうかね』

「取り敢えず私は研究所の方を当たっておく。君達は駅周辺を」

『写真とかあります?』

「これだ」

懐から、一枚の写真。

顎髭を少し生やした丸眼鏡白衣の、痩せ細った不健康そうな男。

「見つけたら拘束しろ」

『……拘束?』

「そうだ、アイツのことだからどうせ

私の名前を出したら逃げるに決まってる」

『……何やったんですか……?』

「なに、少し教育してあげただけさ」

階段を上る。

「んで、扉を開けて……」

『はいはい』

扉を開ける。

死臭。

死臭?

『何の匂』

「______少年っ!!」

何だか、頭が妙にボウッとする。

まるで

まるで

まるで

まるで

002

彼の段ボール。

その頭部に、小さく穴が空いていた。

「んなっ!?」

「______!?」

「アリルちゃん、索敵を!」

少年の手からアリルちゃんを奪い取って、その暗闇の奥に銃を向ける。

「な、なにが……!?」

「雨杭ちゃんソレは放って置いて大丈夫だ。

そう簡単には死なない様に教育してある!」

トリガーに指を。

「!?書店院さん、何を______」

そして

「______な」

轟音と煙幕。

何かが崩れ落ちる。

「ッ!?やばい反動が______!」

「誰がこの程度の反動でやられるって?」

「!?何で対物ライフル片手で撃って……!?」

「少年だってそうだろう」

「アイツの時は補正掛けてるんですよ!?」

「私には必要無かったってだけだ」

排莢。

重々しく地面に空莢が転がる。

「……んで、誰だい。そこにいるのは」

面倒……成程、如何やら直ぐに終わらせるという訳には行かない様ですね

暗闇、男がのっそりと姿を現す。

手には未だ排煙が上がる拳銃。

もう一方には日本刀。

老紳士的顔立ち。

服は、タキシードだろうか。

靡く事無く、重力に従っている。

「名前は」

シドコロ棺撃カンウチ傲慢最も、以後お見知る事は無いでしょうが

______なんだか妙に会話が噛み合わない、というよりは。

______そんな感じ。

「皮肉の効いた名乗りをどうも……私は書店院文庫。君を殺す女だ」

比喩さながら死神ですな……ですが、老体とはいえまだ死ぬわけにはいかないのですよ

「何故」

返答彼の目的を果たすために

「……彼?」

失礼、話過ぎましたね。貴女には、関係の無いことだ______それでは

途端。

左手の刀が綺羅酩キラメく。

何も音はしなかった。

刀が迫り来る。

それだけを知覚して。

そのまま。

そのまま______刀は

驚愕______!

「生憎ながら私も死ぬ訳には行かないのでね、御老体______気の毒だが、私達の為に死んでくれ」

跳ね返す。

刀に吊られるように、男も二、三歩後ろへ。

その間に、少年に弾丸を撃ち込む。

「______な」

身体が跳ね、じわじわと段ボールの穴が塞がっていく。

「な、にが……?」

「僕の能力……大丈夫、この程度なら30分だ」

「さっすがぁ」

アリル君を地面に伏せ置き、

正面を向く。

挑発仲間を気遣うとは……随分と余裕そうですな

銃弾が跳んで、糸で跳ね返す。

「伊達じゃないからね、君と違って」

斬られて、二発に。

後ろの壁が割れる。

忠告傲慢は命取りとなりますよ

今度は刀______斜めから、受け取るまでもなく、避ける。

「傲慢ではないよ。事実を突き付けただけさ」

燕返し。

今度は糸を弾いて、刀を反らす。

疑問……しかし、本当に妙ですな。その糸は

切り返す。

「私専用特注の糸だ。最終兵器を吊るし糸を使ってね」

切り返される。

理解成程、納得の強度ですね……しかしながら

繰り返されて______違和感。

彼の日本刀が

まるで、空間が裂かれた様に______。

死償生憎ながら、私も伊達では無いので______大袈裟斬りヴェール

「______へえ」

受け止めきれない。

空間ごと削り取る魔法か。

防御は不能。

避けても空間補填の引き寄せがある。

狙いは首だろう。

目線がじろりと向けられている______なら。

「______首飾りクビツリ

首閉

首が______私の首と彼の首が繋がれる。

驚愕______まさか

「切れ味は物凄くいいよ、その糸。頭の重さで首が斬れる位には」

首首に括られた糸。

もし私の頭が跳ねられたなら、彼の首も吹っ斬れる。

穏便な暴力。

納得……なるほど

「さて、話場も整ったし……」

放棄……こうなった以上、どうしようもありませんな。話は聞きましょう

「ありがとう、聞き分けのいい人だね」

糸を指に絡める______指先から、赤が滴る。

「私達の要求はただ一つ……無条件解放だ」

相槌……

「異論は?」

抗議無条件という訳にはいきませんね……私も手ぶらで帰る訳にはいきませんので

の事か。

「……何を欲する」

寄越そうですね……ではその糸を譲って下さい

「……」

概ね予想通り。

世辞中々な武器でした。しかも、最終兵器のあの糸を使用しているのでしょう?

「そうだね」

「催促《あれは本来、斬れない様に設定されている糸……それを取って作られたとは、素晴らしい。譲って下さいましたら必ず貴女方を見逃しましょう》」

お世辞が見え透いてんだよばーか。

誰が渡すか。

「……10歩離れて。この武器を地面に置いたら私達も離れる」

了解……分かりにくました、ただ……

地面に模様が現れる。

と、同時に首の糸がほどける。

対講魔法の使用を禁止しました。50m円形です

「正しいね……分かった」

彼が離れていく______こちらに背を向けて、一歩づつ。

 2

  3

   4

    5

     6

      7

       8

        9

         10

振り向く。

促早……さぁ、早く置いて下さい

急かす様に言う。

「……そろそろかな」

疑問……何をしているんですか

「まぁそう焦るなよ老体。

死に急がなくてももうゴールはすぐそこなんだからさ」

苛時……なにを

「さぁ、格好付けの場は用意したぞ少年。起きろ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る