第5話 銃声の対談
006
段ボール越しに
目が合った。
「______!?うぁ、」
『ちょ、待って、ストップ!敵意は無いから!』
銃を地面に捨てて両手______片手を上げる。
「だ、誰ですか!?」
威嚇______というよりは怯えた様子で______誰だってそうなるだろうが、少女が言う。
誰……俺って誰なんだろうな……。
『……放浪者です?』
「……余計に信頼度落とす返答だと思うけど……」
やや呆れた銃声が、鳴り響く。
「!?他にも誰か居るんですか!」
『いっ……るかどうか判断に悩むな』
「何とも言えないね……」
「ど、どういう……?」
ふと少女が目についた声の発信源を______アリルの方を向く。
「……?」
「やぁどうも」
「うわぁ喋った!?」
二、三歩引き下がって、壁に当たる。
大きな看板が少女の頭を鳴らした。
「痛っ!……と、というかここは……」
『駅近くの商業施設。名前は忘れたけど______』
「別に謎の密室とかでは無いのでご安心をー」
「駅近……そうだ、アイツは______!」
……疑問が多い……。
まぁ、自分も同じ状況になったらそう反応するだろうけども。
『アレならもう死にました______
もし信じられない様なら、向こう側に死体が』
「僕と彼で、ね」
『……アリル、わざわざ言わんで宜しい。
こういうのは言わない方がカッコいいんだよ』
「それ言ってる時点でどうかとは思うけど……」
「……あ、あの」
「ん?」
「そ、それじゃあ、あなた達は……?」
言われてみれば、確かに。
そりゃあ一番の疑問点だろう。
「……何て名乗ろうか」
『っ俺としたことが……!こういう時の名乗りを考えて無かった……!』
「君に聞いたのが間違えだったね」
『なんか普段にも増して辛辣じゃない?』
言葉で刺してくるじゃん。
「言葉は刺さらないと意味ないでしょ……えっと……
そうだね、僕達は……旅人だ」
「……旅、人……?」
「そう、旅人だ______そうだね、立ち話も何だし。
よかったら下で話そう」
007
え?どうやって聞き出したかって?
そりゃあ、決まってるだろ。
人との対話は胃袋を掴むことから始まるのだから。
『さぁ出来上がりましたよ、焼きそばでございます』
まぁ、詰まるところ。
「わ……!」
「おぉー」
幾つか無事に残っていた陶器製の皿に盛り付けた焼きそばを机に置く
……我ながら中々良い出来だ。
「麺とかどうしたの?」
『超乾燥で災害時用に置かれてたやつを少し拝借……ソースとは未開封が幾つかあったからそれを。他のも同じ感じだね』
「へー、やるじゃん」
『これでも料理はできる節でね。冷めない内にどーぞ』
「あ、ありがとうございます……」
礼二つ。その口に焼きそばを入れる。
「……!おいしい……」
『おーそれはそれは。料理人冥利に尽きるってやつだな』
「少なくとも君が料理人ってのは初耳だね……」
『心の中に一流シェフを飼ってるんだよ』
言いながら席について、自分の皿に焼きそばを移す。
『ま、実際戦争後は料理出来ないー何て言うわけにもいかなかったし……
元々一人暮らしだったからね』
「ふぅん……ま、僕も食べよ」
そう言って口を展開する。
『はいはいそんまま開けとけよ』
「……え?」
そのまま
するりと飲み込まれた。
「えぇ!?そ、それどうなって……!?」
「……今思ったけど初めて見ると確かに中々の景色だよね」
『銃の側面に焼きそば入れてるからな……あ、よかったらあげてみる?』
「そんな動物園感覚で僕に食べ物を与えようとしないで?」
「あ、じゃあ是非……」
「ほら、彼女も嫌がって……無いね……なんで……?」
皿から箸で焼きそばを掴みとって、恐る恐る入れる。
するりと呑み込まれた。
「……すごい……!」
『当園一番の子ですので』
「だから動物園じゃないのよ。それに動物っていうには些か可愛げの足りない見た目だし……いいなぁ人間……鋼鉄だよ?鋼鉄。機能性に全部振ってるじゃん」
『まぁそれには概ね賛同せざるを得ないけど……人間っぽくなれる魔法でも探してみる?』
「あったら良いなそんな魔法……」
「……それだったら、魂の外部への再構成及び疑似的出力による人間形への仮変換……みたいなのを使ってあげれば人間みたいな見た目に……」
「……へ?」
……魂の外部への……サイがなんだってぇ……?
『俺たち、バカだからわかんねえけどよ……
ごめん学が無くて本当になんも分かんない』
「……あ、ご、ごめんなさい!魔法の事になると、ちょっと喋り過ぎちゃって……」
妙に恥ずかしそうな表情で彼女が言う。
『しかし、というと……元研究職?』
若干の冗談を混じりに。
戦争は既3年前______流石に、この子もまだ学生を謳歌
「いえ、そんな大それたモノじゃ……ただ、母親がそこを専門に」
心拍数。
跳ね上がる。
『______成程』
取り繕う様に、相槌。
大丈夫、あくまで母親が、だ。
それに______顔は、何時だって無感情だ。
彼女には、気づかれない。
大丈夫。
湿った背中にも、気付かれては無い。
『それは、戦前に?』
「……はい。私の、自慢のお母さんでした」
でした。
過去形。
『……3年前に』
「……はい。
殺されました______戦争ではなく、人に」
『______!』
「……父が、どうしようもない人間だったので」
道理で。
警戒ではなく、怯え。
あの怯えにも筋が通る______筋金入りになる。
顔の見えない変態相手への恐怖、と。
男性に対する僅かな、しかし確かな恐怖……それも恐らく、無意識的な。
「はい、この話ここまで」
と、そこまで思考した所で伽藍とした店内に銃声が響き渡る。
「もー終了、お開き。ほら、さっさと皿でも洗いに行く」
『……りょーかい』
「え……え?」
少女だけが、困惑したように声を出す
______正直、俺もあまり意図がよく分かっては居ないのだが。
多分、これ以上は不味いのだろう。
「な、なんで……」
「これ以上君のお父さんについて語るのは、
精神的な負担が君にかかり過ぎるから……ってところ」
「そんな……私は、別に」
「ならせめてその手のをどうにか出来るようになってから言いなさい、ね」
手
言われて気付く______彼女のスカート。
僅かだが握りしめた後が残っていた。
本人も無意識的だったのだろう。
指摘されて初めて自分の手の所存に気付く。
「ま、そーいうこと……僕と彼女でゆっくり話しておくからさ」
全く。
敵わない。
『……任せた』
「任された」
008
「まぁといっても人間との対話はあんまり得意じゃ無いからね
……お手柔らかに頼むよ」
「は、はい」
「それじゃあまぁ早速一つ」
「なんですか?」
「……何でアレと交戦してた?」
「……え」
「何で、逃げなかった?」
「……!」
「……あの大きさ、流石に一人じゃ無理があるだろう
……なのに君は、挑んだ。自分の命を危険に晒してまで
……その理由が聞きたい」
「……」
「……」
「……探し物、です」
「……探し物?」
「……はい」
「それは……何か、最終兵器に使われているパーツみたいな物ってこと?」「……いえ」
「……魔法です」
「……!成程だから______だから、君は」
「……」
「道理で、彼らに挑んだ訳だ」
「……、はい」
「魔法管制AI______その内部に蓄積された、魔法のデータベース
……それを、探して」
「……」
「……あんまり人の手法に口を出すのは好きじゃ無いけどさ
……はっきり言って、危険すぎる」
「……分かっては、います……」
「……それでも、諦め切れない理由があると?」
「はい」
「……それは______話しては、くれる?」
「……」
「…そっか。ん、分かった。ならいいや」
「______え」
「別に無理には聞かない」
「もし話したい気分になったら、で良いからさ」
「で、でも……」
「いいよ、それで。人は______人間は、そう有るべきだろうから」「……アリルさん……」
「全く本当、そう言う所が甘いねーアリルちゃん。
今の雰囲気だったら黙ってても言っただろう?
ま、私が代わりに教えてあげても良いけど」
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