第4話 邂逅的

004

着地。

黒々な全壊眼球がこちらを覗き込む。

えもいわれぬ無気味。

「……逃げない?」

『逃げない』

小細工無し。

後方に射撃______直線で下腹部に向かっていく。

『ッ踏み潰す気か!』

兵器が脚を高々と掲げ、振り下ろす。

横方向への射撃、回避。

身体を震わす振動と伴に、視界横が眩しく光る。

2cm横に鉄壁。

「……わーお」

方向の修正。

置いてきぼりアリルはそのままに、

瓦礫をガラスを衣服を

乗り越え砕き踏付け

跳んで______飛んで。

更に近付く。

残り10メートル。

1秒あれば十______

『______なッ!?』

突然視界が白ける。

閃光______爆発。

眼前が爆せる。

『______なんッだ一体!』

「……魔法!それも爆発……多分、空中地雷!」

『あぁ!?にしては何にも見え______まさか!』

また弾ける景色。

連鎖的に周辺が爆発する。

『ッ不可視かよクソが!!戦争規定条約読んでないだろ!』

「しかも自立移動のオマケ付き!そのまま立ってたらヤバいかも!」

『チーターかよ!?』

毒づきながら後退。

幸い後ろには無い______恐らく兵器の周り10メートルを飛行している。

見えない爆弾。

不可視の壁。

「強い……!通用するかは分かんないけど、広範囲魔法妨害って手なら」

『アリル!ゴリ推すぞ!』

「はい!?」

廻式パーシッ!!』

音声認識。

言葉を読み込んだアリルの機構が組変わる。

その細長い銃身から、幾分か胴が大きく。

側面からは弾丸を垂れ流している。

Kord。

ロシアで採用された口径12.7mmの

本来ならば地面に伏せ三脚を展開し使う銃だが、

度重なる改良により立ったまま撃てないこともない銃に仕上がっている。

「……マジ?」

と、言うことで。

『fire!』

振動と爆発。

身体を急激な衝撃が襲う。

連続する破裂音______もうどちらのモノかは分からない。

片手で機関銃を抱えて、周り突き進む。

若干重い。

「あがあががががががががががががっがあが!?」

一秒に約10発。

0.1秒ごとに身体が揺れていく。

爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発______爆発。

もう何が何だか分からない。

『はははははははははははははははははははははははははははは!!!』

肩が飛びそうになる。

楽しい。

「ちょおおおおおお死ぬううううううう!?!?」

ガン。

事切れる。

弦切れる様に______突然音が止んだ。

弾切れ。

150近くあった弾が数十秒で溶けた。

今までの破壊を物語る様に、薬莢と、地雷破片が飛び散っている。

『っし完了!廻式パーシ

「ぐへえ……」

組み替えられるアリル______1秒足らずで、何時もの姿に戻る。

「おぷっ……な、なんであんな無理矢理……

せめて広範囲魔法妨害で姿見えるようにするとかさ……」

『すまんがそこを咄嗟に考えられるほど俺の頭は良くない』

言いながら天井を______下腹部を仰ぎ見る。

いつの間にか入ったらしい。

大量のパーツと、銃。

取り付けられ、備え付けられている。

「ちょ」

『後は片っ端からぶっ壊すだけだな』

「本気!?」

撃って撃って撃って。

此方に向く銃口をひとつ残らず撃ち落とす。

AIは______違う。

違う。

違う。

違う。

違う。

アレも違う。

コレも違う。

全部、違う。

『ッまだ先かよ……!』

管制AIは未だ見えず______更に奥へ。

走って撃って、その度に身体が痛む。

張り巡らしたされた銃とパーツを視目しながら、進んで、進んで。

違う

違う

違う

違う

違______わない!

足を止める。

明白に他とは違うパーツ______隠れるように置かれた半球。

熱で陽炎カゲロウが出来ている。

間違いなくアレだが、しかし二重の格子に覆い尽くされている

______恐らく普通の攻撃は通らない。

ならば。

『氷結』

銃端が氷で覆われていく。

「っ完了!何時でも______」

『______fire』

氷なのに炎というのも是如何に。

と、思いつつも言葉を吐き捨て、銃口に火吹かせる。

着弾______途端に、パーツ回りが氷で覆われる。

『……______AIには少々予測しにくかったか』

急速な冷凍。

結果として、基盤中には水が生れる。

機械製品に水は毒だ。

例え防水だったとしても、中の回路までは手を加えないだろう。

抜け穴だらけの欠陥製品。

水漏れには注意しましょう。

『そんじゃ、バイバイ』

糸が事切れた様に、最終兵器は動きを留めた。

005

ぶら下がり、銃口を押し当てる。

『Ctrl+X』

「……おっけー、もういいよ」

手を離して、着地。

直前に射撃で勢いを相殺する。

『中のデータは?』

「分類は三級、魔法データの方に幾つか面白そうなのが……後はデコイばっかり」

『ま、そんなモンか……せめてAI管制の一部だけでも欲しかったな』

「代わりといったら何だけど、魔法管制なら盗れたよ」

『お、いいじゃん』

頭の中で換金しながら、腹から這い出る。

『眩しっ……太陽が猛威を奮っておる……』

「何キャラなのそれ……まぁでも確かに、ずっと影下だったもんね。ホントに大きかった……」

『だな……もう二度とは戦いたくない』

「死体はどうする?」

『流石にこの量持っていくのはね。そこらの盗賊にでも食わせておく

……あぁクソっ歩き難いな!?』

肘までになった義手を振る。

幸い、肩の動作部までは壊れていない様で

カチャカチャと音を立てながらも確り動作している。

『ったく、修理も無料じゃねえってのに……』

「修理できる人居たっけ?」

『2日前に死んだ』

「あぁそっかー……新しい人居るといいね」

『中々見つかんないんだよなぁ、これが……はぁ、マジでどうしよ……』

階段から駅構内に戻って、またまた空中の廊下を歩いていく。

「……腕、というか」

『ん?』

「……頭の方はどうなの?」

『あらやだアリルちゃんいつの間にそんな皮肉ときめいた台詞を……』

「……いや、そうじゃなくて……」

その、面膚段ボールの下の話。

アリルが言う。

『……何、急に感傷深い話でもしたくなったか?後でなら良いけど、今は______』

「……でも、もう3年だよ?ちょっとだけでも」

『……結果がこの左腕だよ。魔法を受け止めようとしてコレだ。流石に、もうやりたくは無いね』

「……」

『それに、外したとてだ。中にイケメンが入ってる訳でもなく、

どちらかと言えば傷あり粗悪不良品______だったら別に、外さなくてもいいよ。

チキンだからさ、箱に入って生きたいんだ』

「それは……」

『…………あれ?

俺の見立てではココで箱入り娘と掛かった発言で

面白ギャグパートに持ち込む予定だったんだけど……』

「それは無理がある」

無理かぁ……。

アリルに壊れた構内を案内してもらいながら、例の商業施設へ。

「っと、そこ左に……」

『お、居た』

イラストの描かれたタイルの上。

目覚めぬ少女が横たわっている。

『よしっ、そろっと……』

近付いて行く……痛々しかった足の傷はもうほぼ塞がっていた。

と、同時にその顔が視界に入る______かなり美造形。

髪は黒のショート。

服は恐らく制服だろう、

胸ポケット部分に見たことのある校章が縫われている。

学校がまだあったならば間違いなくカーストトップと

お姫様の称号をブン取れるんだろうな、と。

『このナイフさえ無ければそう思えるんだろうけど……』

そして、ナイフ______それも5本

確か陸軍が使用していたナイフだったが、詳しくは分からない。

「……中々に多いね」

『魔法で飛ばしてって感じかな……普通の最終兵器相手だったら通用するかもだけど』

「流石にあの大きさじゃね……」

威力というか、火力というか。

技術云々でどうにかなる大きさじゃない。

『……ま、俺らが知った事では無いけど』

言いながらナイフを元の所に掛け戻す。

「んで、どうするのこの人。殺す?」

『それもいいけど……起きる前に退散』

「……なんで?」

『流石に女子供から奪える様な性格はしてない』

「この前は12人位の集団襲撃して追い剥ぎしてたのに?」

『……あいつらは悪いことしてたから』

「だから死刑?」

『私刑だよ……ほら、さっさと行くよ。早くしないと起きちゃう』

少女を一瞥______まだ身体を起こしては居ない。

その瞳は当然、パッチリ開いている。

『……あ?』

「……あ」

不味い。

って感情が読み取れる「……あ」だった。

いや、まだ分からない。

見間違えた可能性もなきにしもあらず。

段ボールを擦ってもう一度……。

……。

…………。

「……ごめん。完ッ全に起きる時間読み間違えた」

『……マジぃ?』

その瞳には段ボールと対物ライフルが映っていた。

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