ダンジョン配信終了のお知らせ 8話目
コメント欄は封鎖され、インターネットはお通や状態となった。
人が消え、もぬけの殻となってしまった。
そうなった以上、俺には犯罪を続けることはできない。ゴミ屋敷で寝そべり、目を瞑る。自分の犯した犯罪が瞼の裏側に鮮明に映り込み、耐えきれなくなって目を開ける。
気分転換にネットを開いてみる。先ずはSOATUBE、下の方にスワイプするとコメント欄は封鎖されていますと文字が表示される。
動画をタップして再生、人気ダンジョンライバーのカネヅチキヨチとレモネードのコラボ配信だ。全部見終える。面白かった。
でも何かが物足りなかった。そのもやもやの正体に気付いていながら、今度は配信アプリの方を開く。何人かがダンジョン配信を行っている。見てみるがやはり何かが物足りない。一番重要なものが抜けている気がした。
「…………」
失って初めて気づいたコメント欄の大切さ。俺はコメントを読むことによって暇を消化している事実もあった。それが無くなった以上、暇になる時間が増えたというもの。そしておそらく俺以外にもそう感じる人は沢山いるだろう。
確かにコメントはゴミだ。嫌な気持ちになるし、思わず反論したくなる文章がそこかしこに転がっている。だが、コメントがあることによって助けられている節もある。
自分が虐められていて周りに助けてくれる人がいない、人間関係が上手くいかない、そういう人はネットで助けを求めることによって自己承認欲求を高めて一時の安心を得る。
でもこれじゃそれすら不可能。俺は最低な過ちを起こした。自分のイライラを抑えることを最優先にしていた。
ネットは一種の巨大な都市だと自分は考える。恐ろしく大きくてアメリカの首都よりも何十倍も広い。
そこに人々は娯楽を求め、知識を求める。足を運ばずに本屋で本を買えるし、顔を交わさずに相手とやり取りができる。
俺はその都市に入ろうとしたが大きな黄色いテープが何十にも張り巡らされ、侵入不可の文字がでかでかと書かれていた。
無理矢理通り抜け「おーい」と叫んだ。「誰かいるか!」「誰かいるか!」反応は無。もはや廃墟と化していた。
「なあ母」
「なんね連続殺人犯」
「おりゃ今から自首してくる」
「いいね!」
母はそう言って家を出て行った。まあ元々俺に期待なんかしていなかったという事だろう。
* * *
どうせ死刑だ。自分への憂さ晴らしにダンジョンへと潜り込んだ。ゴブリンが列を作り、喚き散らかしている。俺は無視して素通りをする。求めているのは最弱のスライム。
ちびスライムだ。奴は弱く、簡単に倒すことが出来る。ストレス解消にはちょうどいい。
「ご機嫌うるわしいことこの上なきございますでおほほほほ」
突如聞こえたのは柑橘レモネードの挨拶。おそるおそる後ろを振り返ると表の顔の彼女が笑顔を張り付けて立っていた。
「探していましたわよ、貴方を」
「俺を?」
配信をしているのだろうか。だとしたら迂闊なことは言えない。
「あの事件については貴方に非はありませんことよ」
「いや、俺のせいです。……あ、あの配信付けてますか?」
「付けようと付けまいと変わりません。ドウセツはゼロですから」
人気者の彼女のドウセツがゼロ?にわかには信じ難いことだが、それもコメントが封鎖されたことによる影響?
「何か考えておられるようですが、貴方は私に謝らなければなりませんよね?私の裏を全世界に垂れ流したのですから」
あ、そうだった。それに関してすぐ謝らなければ!
「いえ、もう良いですわ。それ以上にあなたは良い働きをしてくれたのですから。ネットの奴らをぶっ殺してくれてありがとうございますわ!」
「……知っていた、んですか?」
「誰でもわかります。指名手配としてあなたの顔がそこら中に出回っていますから。あなたが捕まらないのは警察が太刀打ちできないから。未知のユニークスキルを持っている以上、動こうにも動きませんわよね。警察のメンツも丸つぶれですわ」
「確かに……」
「そして貴方はわたくしに気付かせてくれましたの。確かにこの力があれば……コメントの奴らをぶっ殺すことが可能だったって」
「あの。俺、自首しようと思うんです」
「はい?」
「失って初めて気づいたんです。コメントの大切さに」
「ああ?お前何言うてんの?どう考えてもコメントはクソじゃろうがあ!」
ザシュ!その瞬間、灼熱の痛みが走り、何か液体が足の付け根を張っているのが分かった。バランスを崩し、俺は前のめりになって倒れこむ。確認したくなかったが、足の指を曲げてみた。でも曲げることは叶わなかった。
確かこのスキルはエアリーフ・セイバー。目にもとまらぬ速さで斬撃刃を発射することのできるスキルだ。
「ねえコメントが大切?はあ!?わたしはなあ!ネットであられもない嘘を書き込まれ続けてストレスでイライライライラしとんじゃあ!ネットの誹謗中傷で人が死ぬこともあるんよ?知らんの?それが何?警察に自首する?何いっとんじゃワレえええ!」
ここで死ぬんだ。だんだん意識が薄れてきて、柑橘レモネードが何を言っているのかさえ分からなくなってきた。
「これからはわたくしが貴方の跡を継ぎますわ。それじゃ、さようなら」
「プロミネンス・スナイパーを使用シマスカ?」
「お願いするわ!」
終。
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