ダンジョン配信5話目


 砕く、砕く、砕く。卵はどれだけ力を入れても割れないが、宝石はミシミシとヒビが入り砕ける。そうして手に入れたスキルは24。

 買った宝石と数が被らないのは、スキルが被ってしまったからである。


「ワープクロップが二、プロミネンス・スナイパーが四。なるほどな、被ることもあるのね」


 まあ悲観的になってもしゃあない。24の新スキルを手に入れることが出来たのだから、むしろ運が良い方だろう。


「ご希望通りモンスター・パペットとアイス・ファンを習得したのはデカい。それとゴブリンになりきることが可能なゴブリン・チェンジもなかなか使えそうだ」


 試しに使ってみると、あの恐怖の象徴ヒトモドキコバケモノにそっくりとなった。もうすっかりトラウマになったこともあり、鏡で自分の姿を見てたじろいだ。


「ひっ!で、でもまあこれでゴブリンに怯えなくて済む……」


 あと手に入れたのはグリッド・ブレイン。配信画面を見ていなくても、コメントが視聴できるという優れもの。他にもいろいろできるらしいがよく知らない。まあ、これでゴブリンには太刀打ちできるようになったであろう。と信じたい。


 薄暗いダンジョンの中、配信画面をポチ。ドウセツゼロ。まあそうだろうな。今回の目標は配信切り忘れをワザとして有名配信者と出会うこと。

 その為には上層をクリアして、下層へと向かう必要がある。モンスターは奥深く進めば進むほど強いモンスターが出やすくなってくるし、激レアなお宝に出会いやすい。

 視聴者はそういった刺激を求めているため、ライバーは下層で配信をしていることが多いのだ。


「となると先ずはゴブリンチェンジでモンスターとの遭遇を下げることが基本になってくるな」

 

〔ゴブチェジを使用シマスカ?〕


 「ああ、よろしく頼む」


 俺の体が緑色になり、ゴブリンになる。前回ので分かったけど、もう配信映えなんか気にしていられないのだ。

 ゴブリンの動き方をマネしながら、奥に進んでいく。バカでかいイレギュラーモンスターのレッドアイがいたりもしたが、無視して先に進んだ。


「ここから下層か」


 タイムアタック並の速さでここまで来てしまった。俺はゴブチェジを解いて、自分に戻る。ここから下、配信者がいるに違いない。

 問題はどうやって配信を切ったふりをすれば良いのだろう。そもそもドウセツゼロだからそんな心配いらないか。


「いやいや、ダメだろ」


 いつだって配信を見返せるサイトで配信を行っているのだ。凸待ちというか炎上ものだろう。

 ならば。機械音痴なふりをして「配信切りまーす」と言う。そのあとボタンを押したふりをして有名配信者を探す。いや、そもそも配信切り忘れって何だ。ボタンを押すだけで止まるんだぞ。

……間食ちゃん、これやってんな。

 同業者になったからこそ分かる闇。おそらく間食ちゃんも配信切り忘れをしたフリをしていたのではなかろうか。じゃないと説明が付かない。ダンジョンライバーを目指すのはほんの一握り。暗黙の了解ってやつか。

 まあいい。俺は覚悟を決め嘘を言った。


「ごめんなさい。集客を見込めないので配信切ります」


 無に向かって言い放ち、ボタンを押すふりをする。そして平然を保ちながら演じる。


「ああ、今日もゼロだったな。トホホ……」


 完璧な演技だ。オフモードを演じ、押したフリじゃないアピールに徹する。実はこの行動、様々な印象操作に繋がるのだ。配信を切ったという事はつまり裏の顔。ライバーの素顔が分かる瞬間でもある。配信中は毒舌だけど、切り忘れてイイ人なのがバレ。それが結果ファンの獲得につながる。


「妹に飯食わせたいのにな」


 嘘である。でもオフモードで発言することにより信憑性が増し、応援したくなるというもの。わざわざウソ発見器を使う人間はいないだろう。


「向いていないんだろうか。悲しいわホンとに」


 階段をスタスタと歩いて未知の領域、下層に向かう。そこで有名配信者に出会えば俺の配信に数多の人間が流れ込んでくる。気付かないふりをして、気がついた頃に驚いたふりをする。なんて完璧な作戦なんだろうか。

 そしてそこにはいた。オレンジ色のフワフワボブに嗅いだことのない香り。アホ毛をピーンした少女の同業者がそこにはいた。


「あれ?柑橘レモネードさん?」

「なんね。なんやてめー!」

「え?」


 ずいぶん配信中と様子が違うが。清楚系でお嬢様キャラを売りにしていたはずだ。他の同業者にあった際の挨拶は「ご機嫌うるわしゅーことこの上なきで御座いますオホホ」だったはず。


「配信中?」

「オフ。今は憂さ晴らしにダンジョン来てる。これ以上見てくんなら目ん玉にレモンかけんぞ」

「あ、そ……っですね」


 ていうかこれまずくね。今俺配信中だよな。こいつの素顔が全世界に垂れ流しされてるじゃねえか!しかもイイ人ではなく、悪い人バレ。ギャップ萌え……いや流石に無理だ。まだドウセツはゼロだがこのままでは見つかるのも時間の問題であろう。

 俺はカメラを切ろうと手を伸ばそうとした。その時。


〔グリッド・ブレインを使用してライブ配信を終了しますか〕


 神スキルだろ!俺は目の前の少女に気が付かれることなく、ライブを切った。今度こそ本当に切った。

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