ダンジョン配信3話目
ツブヤイトのトレンド一位を平然とかっさらう間食さんには恐れいる。俺はそこに入ることもできず、空洞を唖然と見つめているのだから。
「まじかよこれ」
この中、ダンジョンがある。取り敢えず配信ドローンを起動。録画ボタンらしきものをポチッと押す。
「始まった、ぽいな」
機械音痴ではない。毎日パソコンで遊んでいるので、そこんところは慣れている。
「行くしかないな」
俺はおそるおそる足を踏み入れる。危険な海に飛び込むのと同じ感覚のような気がする。
先に説明をしておくと、ワープクロップはやはりどこでもドアと同じ効果を持っていた。びゅうん!と転送された先に、大勢の同業者がクリスタル欲しさに列をなす光景があった。長蛇ならぬ長龍の列。最後の列に俺はしがみ付く。
結果、ファイアー攻撃と水攻撃をゲッツ。名称はプロミネンス・スナイパー「ファイアー」。そして、アース・シンボル「水」だ。
配信画面をチェック。ドウセツゼロか。まだ気が早すぎるというものだろう。虚無に向かって、取り敢えず挨拶をするか。
「よろしく。ウルトラ探検隊っす。初心者なんで暖かく見守ってくだせ」
見守る?自分で気が付いているでしょうに。誰も見ていないのだから、見守ることなんて不可能。
まぁいいか。でだ。ちょっとプロミネンス・スナイパーの威力を見てみたいところだ。頭の中、文字が浮かび上がる。
「プロスナを使用シマスカ?」
「ああ、お願いしてもらえると助かる」
最後の「る」を言い終わる前に、巨大な火球が手のひらから生成され、一直線に飛んでいく。
「なんじゃこれ――!ねえ、皆さん、みました?」
〇つまらん。
え?初の視聴者が来たらしく、念願の初コメントを頂いた。くそっ!スキルに夢中で、配信画面を確認していなかった。喋りの練習をしていたのだが、気が付かない間に本番が始まっていたようだ。だがしかしチャンス到来。この人を固定客にするため、呼び掛ける。
「あの!俺、何も配信映えとか、分からないんで」
〇そんな低級スキルでいちいち喜ぶとか。センスないよ。死ぬだけだしやめとけ。
そしてドウセツゼロに逆戻り。文字に死体蹴りされる日が来るとは思わなかった。無慈悲に叩きつけられた現実。非現実のようだが、れっきとした現実なのだ。異世界じゃない、日本という国なのだ。
火球は壁に激突し、大きな穴を生み出していた。威力は十二分。ゴブリンはこれで事足りるだろう。
「憂さ晴らしの時間と行くか」
その時、頭の中に文字が浮かび上がってくる。
「ワープクロップを使用し、ゴブリンの巣へ直接移動シマスカ?」
え?そんなんできんの?ていうか殺されるだけだろ!
俺は顔を全力で振り、否定した。
「無理だから!」
そう言うと、頭の中の文字が消える。それにしてもワープクロップは便利だ。自分が行きたいと思った場所に簡単にワープが可能だなんて。これは多分低級じゃなくて上級スキルぐらいはありそうだ。次に人が見に来たときはこれを披露してワープしてやろう。
「取り敢えず単独のゴブリンを倒して素材をゲットしないと、何も始まらん」
現状タダ働きをしているのと同じだ。ドウセツもすっからかんだから、当然広告収入もゼロ。日本政府がダンジョン配信を推奨しているのだから、援助が欲しいものだ。
歩いているとようやく見つける。ゴブリンだ。生物学者の付けた名称はヒトモドキコバケモノ。その名の通り人間のような体系に、緑色の皮膚。剥きだした牙に、般若のお面のような目つき。あ、目があった。…………漏れる。
「ば、バカだろ俺!ゲームとはわけちゃうんぞ!」
ゲームでは最初に出てくる低級魔物。弱くてすぐに死んでしまい、主人公のレベルアップの糧にされてしまう。そんな存在。でも現実のアイツは、そんな存在には見えなかった。
「他の配信者、あんな奴らと日々たたこうとるん?」
何が憂さ晴らしだ。カラオケに行く感覚で、倒そうとしていた自分。そして他の配信者に対して俺は驚きを隠せていなかった。その時、配信画面に変化が訪れる。ドウセツがサンに増えた。観客が増えたという事だ。
「え、えっと。初めまして。ウルトラ探検隊っす」
〇合成映像じゃなさそう。
〇名前ださ。
二人からコメントを頂く。もう一人はコメントしてこない。見る専だろうか。
「今から、ゴブリンを倒します」
この少ない観客にかっこいい所を見せて、つぶやいとや掲示板で自分の存在を広めてもらうしかない。
〇めっちゃ震えとるww
〇今から、ゴブリンを倒します←面白いと思っています。
「うおお!」
俺はワープクロップの存在も忘れ、無策でゴブリンへプロスナを放ってしまった。威力は高くても軌道は単調。簡単に躱され、俺に気が付かれてしまう。
「ひっ!」
明らかな獲物として見られていることが分かる。右手に持った棍棒を振り回しながら、俺の顔を砕こうと迫り続ける。俺は配信のことなんか気にも留めず、ただ助かりたい一心で逃げ続けていた。
「やだやだ!死にたくない!」
〇wwwwwww
〇こんな雑魚に負けんの?
〇救助隊要請してあげなよ。もう遅いだろうけど。
そしてドウセツゼロに。俺はその事実には目もくれず、ただどうすれば助かるかだけを考えていた。
「ガウガウ!ガーウ!」
どんどん距離が埋まってくる。その時、俺は自分の家でのんびり暮らしていた日々を走馬灯のように思い出していた。
「ワープクロップを使用して、自宅へとモドリマスカ?」
あ!それだ!俺は迷うことなく、瞬時に「はい!」と唱えた。
「ガウガウ?ガう?」
ゴブリンの困惑した声が一瞬聞こえた。でもすぐに懐かしい自宅が俺の目の前に広がっていた。もうしたくない。それが初ダンジョン配信の感想だった。
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